第37話 笑うしかないだろう?
伯父様が去っていき、今晩0000にここを出立ということをレクスに告げられました。
その後、私は直ぐに建物の外に出てきました。月が空に顔を出し始めた時間。
休むなら今から休むべきです。
しかし私は頭を冷やすべく、外を出歩いているのです。タバコを吹かしながらです。
「で、何。ついてきている? レクス。ラドベルト」
その私の背後には、レクスとラドベルトがついてきているのです。
「あー。俺は騎獣を届けにきただけなんだがな。ヤバそうな顔をしたマルトレディルが歩いていたからな」
ラドベルトは幌馬車を引き取り、私とレクスの騎獣を届けにきたようです。が、私の後ろについてくる必要はないのです。
「とても楽しそうな隊長に置いていかれないようにです」
レクス。出発の時間は決まっているのだ。それより早く出ることはない。
それに最初は雑魚共が出てくるはずだ。
その相手は騎士たちにしてもらわないといけない。
「楽しそうか? レクス」
「はい。戦場に出る前の隊長です」
「だからヤバいってことじゃないか」
「くくくっ。ラドベルトの言う通りヤバいな。セレグアーゼのヤツ、戦場の死神を二人で戦えと言ってきた。馬鹿じゃないのか?」
「はぁ……将校セレグアーゼ。あの人も普通じゃないからな」
馬鹿は否定しないな。
「しかし、俺達でも凶剣のアラドルフを抑えるだけでも一苦労だったぞ」
「そして、私は私の剣がないときた。もう笑うしかないだろう?」
「あ」
「あ、隊長の剣」
この腰に下げている剣は、護身用と言っていいショートソード。それに私の体格では普通の片手剣を扱うことが難しい。
「今の状況で制限をかけて勝つ。本当に笑うしかない」
「制限? どうしてですか? 隊長」
「ファングランの団長。制限をかけなければ、マルトレディルと同じ戦場では戦えない。俺達が弱すぎるんだ」
あの最終戦で、烈火のアディフィールと戦ったときに互いの部下がいなかった理由です。
戦場の死神は敵も味方も構わず死を突きつけるのです。
だから、私と共に肩を並べて戦えるものがいなかった。
私が私以外を凍りつかせてしまうからだ。
「くくくっ。私が部下を鍛えた本来の理由は、私の力で殺さないためだ」
バカバカしいが、私が部下を殺してしまったら元も子もない。
「戦場の死神の戦いに肩を並べて戦える者は戦場の死神のみ。だから、凶剣と風魔がタッグを組むのは定石というもの」
しかし、こちらからすれば、最悪の組み合わせです。
……レクス。何故に私の両手を掴んで足を止めさせたのですか?
そして私の視線に合わせるように身を屈めてきました
「だから。だから……私は隊長の隣に立ちたかったのです。あの戦いで誰も隊長と烈火の戦いに割り込める者はいませんでした」
何当たり前のことを言っているのです?
炎の世界を作り出すアディフィール。
氷の世界を作り出す私。
そこに立ち入る者は灼熱の炎と全てを凍らす氷の脅威と対峙しなければならないのです。
普通は無理ですね。
「私は、私の弱さを悔いました。どうして傷ついた隊長の代わりに、あの憎き烈火をブチのめせないのかと」
いや、流石に従騎士のレクスに期待などしていなかったですよ。
「だから、今度は隣で戦わせてください。絶対に遅れは取りません」
「そういう作戦だからね」
「それをいっちゃ元も子もないぞ。マルトレディル」
ラドベルト。そうじゃないですか。
言われなくても私一人で二人の戦場の死神と戦うのは流石にキツイです。
「ありがとうございます。隊長」
「はぁ、ファングランの団長はフェリラン中隊長が好き過ぎだよな」
その好意が過剰だと思います。
さて、あの凶剣と風魔とそれなりの決着点に持っていかないといけません。
星が光る暗闇に昇る白煙を見上げます。
ぶっちゃけ、風魔と私とは相性が悪いのですよ。
互いに二つの特化属性持ち。それに風属性がかぶっているのです。
特に、あのイラッとする感じが生理的に受け付けません。
「レクス。風魔の相手をしろ。別に捕まえようとしなくていい。あれは飽き性だ。やる気を失わせれば逃げるから」
「それは、私には期待していないと」
ものすごく落ち込んでしまいました。
「違う。レクスには期待している。団長なんだろう?」
私はそう言って、身を屈めたレクスの黒髪を撫でたのでした。
「はい!」
「それガキ扱いしているって……気がついていないんだろうなぁ」




