第34話 兄妹?誰と?
「なんです? この格好は?」
「マルトレディル君。可愛いわ」
「これ町娘の格好ですよね?」
朝兼お昼ごはんを食べた後に個室に案内され、これに着替えるように渡されたのです。
私は今、エプロンドレスを着ていました。
「髪はどうする?」
「三つ編みはどう?」
「可愛いかも」
女性騎士たちに囲まれて、髪を結われている私は遠い目になっていました。
これ、馬車の中にあった女の子の服ですよね。
あの? このエプロンドレスは作戦に必要な格好なのですか?
「私たちは、後ろからついていきますからね」
「マルトレディル君は戦わなくて大丈夫」
「昼間は私たちが野盗を討伐するから」
……もしかして私が従騎士になったばかりという理由で、戦うのは嫌だと駄々をこねたことが広まっているのですか?
あれは、あの場に残るために言ったのですけど。
しかし、思っていたより女性騎士が多いのですね。
この方々は建物の外にいた女性騎士とは別の方です。一個小隊に五人は女性騎士がいるということですよね? それとも三個小隊でしょうか?
「この格好は必要なのでしょうか?」
「設定としては親の家業を受け継いだばかりの兄妹ですよ」
「え? 兄妹? 誰とですか?」
「私とですね」
レクスの声がする方をみれば……一瞬誰かわかりませんでした。が、レクスですよね?
「金髪。それ魔法ですか?」
なんと金髪のレクスが、扉にもたれかかるように立っていました。
それも少し身なりが良さそうな商人という感じを装っていますが、見た目の良さから品というものがにじみ出てしまっています。
そして左目は眼帯ではなくて包帯を巻いていました。怪我をしている風ですか?
「団長?」
金髪になったレクスが反応を返してくれないので近づいていきます。
「か……」
「か?」
何故か床に崩れるレクス。
「団長。どうですか?」
「可愛くできたと思うのですが?」
「可愛すぎる」
「ちっ! 団長。もうすぐ出発の時間なので行きますよ」
私が可愛いとか、そういうのは今は必要ないですよね。
私は床に崩れているレクスの腕を持って、部屋を出ていきました。
「それで行き先は?」
新たに用意された幌馬車の御者席に腰を下ろして、騎獣に進むように促します。
私がです。
兄役が役に立っていないからですね。
しかし、先程の幌馬車よりちょっとボロい感じです。
「カリエラ街道です。あと手綱は私が」
と言いつつ私を移動させるレクス。
「団長。何故に私を足の間に置いたのです?」
「隊長が可愛すぎるからですね」
そう、今の私はレクスの足の間に座らされ、レクスを背もたれにしている状態なのです。
「これは流石に兄妹ではあり得ないですよね? あと、敬語と隊長呼びは禁止です」
「それではレクスと、マルトレディルのことをなんと呼べばいい?」
ん? 呼び名? アルバートだと男の子の名前ですね。
そして、私がその名に反応しなければならないとなると……
「メリーナで」
「メリーナ。姉君の名から取ったのか?」
「そうだね。ということで、よろしくレクス兄さん」
「ぐふっ。これいい」
何故、私に倒れこんでくるのですか?
「それで、今回は何故護衛がいない設定なのかな?」
「護衛を雇う余裕がない設定だな」
私は上を見上げて左目を指しました。
「一度、襲われた設定?」
「そうだ。あとメリーナの可愛さに野盗共が引き寄せられる予定だ」
ふーん。左目を負傷した兄と妹で行商をしているが、護衛を雇うほどではない。
隙を見せて襲わせようというものですね。
でも、私の可愛さは関係ないと思います。
いや、そうですか。だから私をこの位置に座らせたというのですね。
見た目が良ければ人身売買で高く売れます。
見た目がいい妹を守る兄ということですね。
「後ろからは三個小隊がついてきている。野盗に襲われたところで、駆けつけることになっている」
「ふーん」
「夕刻に隣領のベレラの町について、そこで休憩を取る。そして将校セレグアーゼと合流することになっている」
「それは伯父上一人でということ?」
「ああ、そうだ」
やはり、特殊部隊の中にネズミがいることも考慮されていたのですか。
しかし、それまで何事もなければ暇だと。
私は前方を見ますが、のどかな風景が広がっているだけです。
こんな昼間から襲う馬鹿がいるのですか?
「レクス兄さん。この状態である必要あるのかな?」
絶対に無いと思います。レクスから背後から抱えられているこの状態に意味などないです。
「俺としてはある」
「ん?」
レクスから俺と言われると違和感がとてもあります。
「可愛い妹を守るという意味がな」
その妹が守られるほど弱くありませんけどね。
そして、囮の幌馬車は、ガタゴトと穏やかな風景の中を進んで行ったのでした。
「レクス兄さん。お客さんが来たようだよ」
現在。森の中の街道を進んでいます。道幅は馬車1台分しかなく、時折すれ違うための待避所がある鬱蒼とした森。
その視界が悪い、隣領との境の街道を進んでいると、この幌馬車と並走するような気配がいくつも集まっていました。
本当にこんな幌馬車で野盗が釣れるのですね。
「そうだな。可愛いメリーナは俺が守るから安心するといい」
「可愛いは必要ないよ。あと、暇だから、ぶん殴ってきていい?」
「後ろの彼らの仕事を取っては駄目だ」
思っていた以上に数が集まってきています。
50? 100はいるのでしょうか?
こんな小物の幌馬車に100とは割に合わなさそうです。
「でも、私は餌なんだよね?」
「だから、メリーナは俺が守ると言っている」
私とレクスの距離が近いので、離れた位置からは、仲良く話している兄妹に写っていることでしょう。
その私たちの幌馬車の通行を妨げるように、横転した荷馬車が道に横たわっていました。
倒れた荷馬車の横には困った風の男性がたっています。
これでは進むことができません。
「おーい。そこの幌馬車の人! 手を貸していただけませんかー?」
ひょろい男性が、私たちに手を貸して欲しいと言ってきました。これは御者席を離れたら、そのまま幌馬車を取られてしまうパターンではないのですか?
「ちっ! そうきたのか」
レクス。心の声が漏れ出てしまっていますよ。




