第27話 流石キモが座っている
「野盗討伐ねぇ。今思ったらそんなこと騎士一年目ぐらいにしかやったことないわ」
翌朝、従騎士の黒い隊服をまとい、微妙に青く光る銀灰色のガンレットを装着し、昨日色々買ったものを詰め込んだ背嚢を背負いました。
「それ以外は、戦地で剣を振るっていたものね」
そして、私の剣を腰から下げます。
これは個人の持ち物で騎士の剣ではありません。私はただ、従騎士で騎士ではないのですから。
帯剣にも許可が必要ですからね。
今回は騎士団団長の従騎士として、帯剣を認められたというものです。
部屋の窓から外をみますと、まだ日が明けきらず、夜の空と朝の空がせめぎ合っています。
今回の行程は5日間の予定です。
王都周辺で出没しているという野盗を探し出し捕縛するというのが任務です。
「5日間をなんとか乗り越えませんと」
私の任務は野盗討伐ではなく、女だとバレないことです。
野盗討伐は団長や騎士の方の任務ですからね。
さて、行きましょうか。
集合は0600に騎士団本部前の広場です。少し時間が早いですが、従騎士があとからくれば、批難されますからね。
薄暗い中、借り物の騎獣を連れて騎士団本部の前に行くと、既に騎獣を連れた騎士の姿が見えます。
今回は王都周辺と近場ですので、鎧をまとって行くようですね。
騎士団に入って一週間ちょっと、流石に鎧の姿では誰が誰だかわからないです。
が、私は訓練免除されているので、本当に誰なのかわかりません。
ですが、一番下っ端なので、ヘコヘコと挨拶をしておけばいいのです。
ん? 荷馬車が何台かあります。輸送部隊がいるのですか? 王都周辺ですのに?
しかし、荷馬車が10台は多すぎます。
ということは輸送部隊だけではない?
「おはようございます。マルトレディル」
私が荷馬車に釘付けになっていますと、背後から団長の声が聞こえてきました。
「気配を消したまま背後に立たないでくださいね。団長」
私はそう言って振り返ると、鈍色の大きな鎧が立っていました。いいえ、フルフェイスはつけていないので、レクスとわかります。
「おはようございます?」
あれ? 団長となれば、もっと目立つ鎧だと思っていましたが、普通の騎士と変わらない鎧です。ただ、赤いマントをしているぐらいですか。
え? あの元団長のクソジジイなんてセンスのない金色の鎧でしたよ。
やはりあのジジイがおかしかったのではないのですか?
「どうかしましたか? マルトレディル」
「団長が、こんなに早く来ると下の者が困るかと思います」
団長なんて集合時間ギリギリでいいと思います。あと、私に向かって可愛いとボソッと言わないでください。
「ああ、マルトレディルに今回同行する者たちを紹介しておこうと思いましてね」
「ありがとうございます」
そもそもなのですが、この一週間で私に紹介してもらった人は副団長だけですよ。普通なら一通り紹介してもらってもよかったと思います。
今更感がありますよね。
「今回、拠点を設置するため輸送部隊が参加しています」
「拠点を? わざわざ?」
そう言ってレクスは荷馬車の方に向かって行きました。
野盗相手に拠点を?
「サイドバデル中隊との混合部隊になります」
「それが何か? あと、敬語はそろそろやめましょうか」
団長に敬語を使われる従騎士って、いったい何様って思われますよね。
「あー、そのサイドバデル中隊が、他部隊に参加申請して通しているものだから、そのまま採用することになった」
私がボコったサイドバデル中隊長が輸送部隊を動かす手続きをしてしまっているので、そのまま運用するということですね。
ふふふ。もしレクスがこんなことに輸送部隊を動かしているのなら、ちょっと裏に呼び出しているところでした。
「ラドベルト部隊長だ。今回の輸送部隊をまとめている」
レクス! そこ紹介は必要ないところです!
しかしディレニール元中隊長の部下っぽいと思っていましたら、裏方の備品管理部に移動していたのですか。
備品管理部が強気の理由がここですね。
備品管理部に輸送部隊が属しているからです。
備品管理部と色々問題を起こすと、輸送部隊が回ってこないという事態になるからです。
ふふふ。くっそ頭の固い奴らに何度煮え湯を飲まされたことか。
「あの、その……」
「ラドベルト部隊長。お久しぶりです。従騎士となりましたアルバート・マルトレディルです! よろしくお願いします!」
私を見てオドオドしだしたラドベルトに向かっていいました。
まぁ、複雑でしょうね。一昨日、大の男が泣いていましたし。
「はぁ……流石キモが座っている。……おう! よろしくな。従騎士マルトレディル」
ボソボソと最初に言っていた言葉はきちんと聞こえていますからね。
「それから、あっちには別の部隊の……」
レクスが、その先の荷馬車をさし示したところで言葉を止めました。
そのレクスが見ている方を凝視しますと……
「うわぁ〜、凄くイタい人がやってきました」
全身金色の鎧をまとう物体が近づいて来ています。一瞬、クソジジイかと思いましたが、クソジジイにしては細身の者です。
「ちっ!」
そしてレクスは誰かわかったのか、舌打ちがでていました。
いいえ、ここにいる騎士の人たちの視線が、とても冷たいものになっています。
功績もあげていないのに、オーダーメイドの鎧を着ると、空気が氷点下に下がってしまうのですよ。




