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結婚するとは言っていません  作者: 白雲八鈴


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第2話 弟の代わりに騎士団に行けですって?

 シエラメリーナ・マルトレディル伯爵令嬢としてです。


「いや、だってね。家の危機はみんなで助け合うものだと思うのだよ」


 そう言っているのは私の父、マルトレディル伯爵です。

 ですが、伯爵という威厳はまったくなく、その童顔も相まって、金髪碧眼のどこぞの従者と見えなくもないのです。


 そして、私はこの父の執務室に呼ばれ、とんでもないことを言われたのです。


「二ヶ月後にある戦勝二十周年記念のパレードに出てくれるだけでいいんだよ?」

「だから、それを馬鹿げたことだと言っているのです」


 戦勝二十周年記念ということは、前世と同じドーラメリア国に生まれ変わっていたのです。

 なんという因果なのでしょうか。


「弟のアルバートの代わりということですわよね?そもそも性別が違いますが? それに歳も五歳も離れているのです。バレないわけがないですよ?」

「だって〜アルバートが大怪我を負ってしまって全治三ヶ月と言われてしまったから仕方がないじゃないのかなぁ」


 そう、弟のアルバートは先日馬から落馬をして命には別状はないものの、足の骨と腕の骨を折ってしまったのです。


 そのアルバートは今年騎士団に入団する予定でした。

 父は女である私に弟のふりをして騎士団に行けと言っているのです。


「お父様が代わりに行かれれば、いいではないですか。お母様に嫉妬されるほど若作りですし」


 父は今年四十になりますが、弟のアルバートと並んでも兄弟かと間違われるほどです。そして最近小じわが増えたという母には『いつまで若作りをしているのかしら』という嫉妬心を向けられているのでした。


「それは駄目だよ〜。僕はマルトレディル伯爵として出席するからね」

「だったら、小細工はせずにアルバートが骨折したため、入団が遅れると言えばいいではないですか。所詮跡取り息子の箔付けのようなもの。どうせ騎士団から去る身。戦勝記念パレードなど毎年のことではないですか」


 こういう小細工をしようとするのがそもそもの間違いなのです。

 本当のことを国に挙げればいいだけのこと。


 すると父の雰囲気が一気に変化しました。

 今までふわふわな感じで掴みどころがなかったのです。

 しかし部屋を満たすほどの圧を放ったのです。


「シエラ。戦勝とはいっているけど、あの戦いで散っていった者たちへの慰霊も兼ねている。毎年あるからいいという言い方はいけない」


 このように正論で威圧してくる父ですが、私も妥協はできません。


「それは私も非を認めます。ですが、アルバートとの代わりというのが納得できません」

「はぁ、絶対にシエラのほうが騎士に向いていると思うよ。アルバートなんて、少し殺気を放っただけで、動けなくなるし」


 大きくため息を吐いたあと、いつもの父に戻っていました。

『前世では君の上官だったので、お父様の威圧ぐらいでは尻込みしませんわよ』とは言えず、私の意志は揺らがないという感じで凛と父の前に立つのみです。


 ええ、最後の戦いで冬には子供が生まれると喜んでいた部下の娘に生まれ変わっているなど、神というものはなんという悪戯をしたのだと恨んだときもありました。

 しかし、少々お転婆である私を許容してくれるので、今では良かったのだと思っています。


「それに、僕がアルバートとそっくりなように、シエラもそっくりだということを忘れないでよね」

「マルトレディルの血の強力さを恨みますわ」


 私はキッと父を睨みつけます。

 この童顔遺伝子は強すぎるのです。

 母はグラマラスなボンキュッボンの美人なのに、父の童顔遺伝子のせいで弟のアルバートと並んでもそっくりな兄弟ねと言われる始末。


「本当に頼むよ〜。こんな戦勝二十周年という節目にマルトレディル伯爵家の嫡男が怪我をしたとか知れ渡ったら、わざとなのかって、変な憶測が飛んでしまうじゃない? まさか帝国と繋がっているのかって疑われてしまったら……マルトレディル伯爵家は終わりだ」


 父が頭を抱えて項垂れてしまいました。

 ええ、ありもしない噂を流してしまうのが、貴族社会というもの。そんな隙を見せるほうが悪いと言われてしまうのが、世の中というものなのです。


 私は大きくため息を吐きました。


 バレたときに後ろ指をさされる覚悟があるのですかと父に問いたいです。ですが、アルバートが予定どおり騎士団に入団して戦勝記念に参加できないこともマルトレディル伯爵家として許容できないというところなのでしょう。


 よりにもよって、騎士団に入団するからと練習中に落馬など。弟ながら情けない。


「わかりました。三ヶ月です。私はもう二十歳ですので、長々と弟の代わりをするつもりはありません」

「あ、ついでに、シエラが気にいる人を見つけてきてもいいよ。ほら、シエラが婚約を破談させてしまってから、なかなか話がまとまらなくてね」


 ……婚約の破談。あれはあちらが悪いですわ。十六歳になる私を見て……胸元を見て、『小さい』と言った侯爵子息が悪いのです。あれは腹パンをしていい理由になります。


 お陰で、婚約が気に入らないと殴る令嬢というレッテルが貼られてしまいました。


「お父様。もしかして、そっちが本命とかいいませんわよね。私の嫁の行き先がないから、気にいる殿方を王都で見繕ってくるようにと」

「そそそそんなこと、一言も言っていないよ。デビューも結局王都に行かずに、領地で行ったじゃない?」


 16歳になれば、貴族の仲間入りとして顔見せのパーティーが催されるのです。しかし私が侯爵子息を腹パンしてしまったために、母から王都でのデビューはやめたほうがいいと止められたのです。

 私としてはどちらでも良かったのですが、迷惑をかけてしまったので、大人しく領地でデビューの顔見せのパーティーを開いたのでした。


 父の交友関係の貴族方々しか来ませんでしたが。


「だから、もし、気に入った人ができたのなら、僕の色々なコネを使うよ?」


 ええ。戦友のつてですね。わかっていますよ。

 私のデビューのパーティーに来てくれた方々も見覚えのある人たちがいましたから。


「だから、どうかな?」


 これが私への対価ということでしょうか?


「そうですわね。王都で遊ぶお金も欲しいですわ」

「え? 騎士団の人たちと、いかがわしいところに行っては駄目だよ」

「……お父様。王都には領地にはない最新のドレスや流行の物がたくさんあるのです。それを買うお小遣いですわ」

「あ、そっちの話」


 いかがわしいところが、どのようなところかは知っていますが、普通の令嬢は知りませんからスルーをしておきますわ。


 こうして私は、王都で遊ぶお金を父からぶんどって、アルバートの身代わりに騎士団に入団する流れになったのです。


「お……お姉様。ぜぜぜ絶対に問題を起こさないでください。ぼぼぼくがお姉様と入れ替わっても、大丈夫なように大人しくしていてください」


 と、ベッドの上で懇願するアルバートに任せなさいと、姉として威厳を全面に出して言ったのでした。



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