第16話 あそこには魔物が住んでいるのです
絶対に全部読んでいませんわよね。
あの大量の手紙の中身を。
それで私が騎士団で何か問題を起こしたのではと思って返事をしたと。そうに決まっていますわ。
いいえ、初日に独房に入れられたので、何も問題はなかったとはいい難いです。でも、でも私は真面目に団長の従騎士をやっていますよ。
父にイライラしていると、身体の向きをレクスの方に向けられ、左手を掴まれてしまいました。
「なのでフェリラン隊長。私と一緒に暮らしませんか?」
「却下です」
「即答……でも、宿舎だと男女共同です。あそこには魔物が住んでいるのです」
私は馬鹿なことを言っているレクスに向かって白い煙を吹きかけます。
「昔、住んでいたから知っている。新人イビリだ」
「しかし、こんなにかわいい隊長を、あの者たちの餌食などにしたくありません。なので一緒に暮らしましょう。部屋はいくらでもあるので問題ありませんよ」
レクスの屋敷が大きいのは昨日見たから知っていますよ。
だからといって、団長と従騎士が一緒に暮らしているとなると、絶対に変な噂が立つに決まっているではないですか。
団長と従騎士がBとLでできていると。
こんな噂を弟のアルバートに背負わせるのは駄目です。姉として絶対に許せません。
「レクス。君の甥っ子も宿舎に入っているのだ。それを団長権限で捻じ曲げたら規則の意味がなくなる」
そう、あの私に何かと突っかかってくる公爵子息も家から通わずに宿舎に住んでいるのです。
規則は規則として守らなければなりません。
「しかし……」
「レクス。もうガキじゃないのだ。分別をつけろ。だいたい私に固執するな。あと隊長と呼ぶのはやめろ。誰かに聞かれたら厄介だ」
「そうですね。すみません」
どうやら理解してくれたみたいです。
「あのそれでは1年後に一緒に暮らしましょう」
全くわかっていないですわ。いいえ、規則としては問題ありません。
ですが、それだとアルバートとレクスが一緒に暮らすことに……できれば姉として、弟には可愛い令嬢と一緒に暮らして欲しいです。
「レクス。それは1年後に答えを出してくれ」
ええ、1年後の弟に委ねましょう。
姉としては、頑張って阻止はしましたよ。
「はい!」
すごくいい返事をするレクスに昔の姿を重ねてしまいました。そして、思わずタバコを咥えて、手を伸ばして頭を撫でます。
可愛いと思ってしまったことは内緒ですわ。
一日の業務が終わり、一緒に夕食をとりましょうというレクスの言葉を断り、宿舎に戻ります。
その途中でファングラン公爵家の坊っちゃんに出会いました。
「これはこれは、従騎士マルトレディルではないですか。お早いお戻りですね」
と絡んできたファングランの坊っちゃんに『見習い騎士のファングラン様も早いですね』と挨拶をして去ります。
これをほぼ毎日繰り返しています。
きっと見習い騎士は暇なのでしょうね。
私は与えられた個室に戻ってきて、部屋に置いてある剣を手に取ります。
ショートソードです。それを鞘から抜きました。
刃渡りは私の腕より少し長いくらい。
今の私にはこれぐらいの大きさの剣がちょうどいいのです。背が低いので仕方がないですわ。
再び鞘に戻して腰に差します。
夕食の時間がある程度決められているので、その時間までしか訓練できないのです。
ですから、部屋でくつろぐことなく、そのまま部屋を出ると、壁にぶち当たりました。
それも弾力があり跳ね返されてしまいます。
「アルバートくーん。今日も訓練? それよりもお姉さんたちと遊ばない?」
その声に視線をあげると、この宿舎に住んでいる女性騎士の一人でした。
確か名前はメリッサさんとおっしゃいましたか。
「すみません。あまり時間がないので失礼します」
私が横をとおり過ぎようとすると、肩を掴まれ、顔を弾力がある壁に押し付けられてしまいました。
肉肉しいでかい胸にです。イラッとします。
「そんなことよりーお姉さんたちと楽しいーことしない?」
私は谷間から上を見上げます。
弟であれば、絆されるかもしれませんが、私は女なのでイラッとするだけですわよ。
デカければいいってものでもないのよ!
「では? 私と一緒に訓練をしますか?」
「私のお胸攻撃でも落ちないの? 手強いわね。やはり団長とできているという……」
「できていません」
もう、そっちの噂が流れているのですか?
これは弟のアルバートのために払拭しておかないといけません。
「はぁ、ただでさえ見習い期間を飛ばして従騎士になったのです。ここであぐらをかくわけにはいきません」
「真面目ねぇー。さみしくなったらいつでも声をかけてねー」
そう言ってメリッサさんは私を解放して、他の人を狩りに行きました。
これが管理人のディロべメラ夫人が言っていたことですわね。
はっきり言って女性騎士というのはモテないのです。いいえ、もちろんファンクラブを持つ騎士もいますよ。そのファンの多くが女性ですが。
だから、その日々の欲求をそのあたりで発散しているというのが、現状ですね。
まぁ、新人イビリですね。だから、甘い言葉に乗せられると危険なのですよ。




