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結婚するとは言っていません  作者: 白雲八鈴


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第1話 氷姫のフェリラン

「貴様がドーラメリアの戦姫か!」


 ここは戦場。血と死の匂いが辺りに立ち込め、何年も続く戦いに終止符を打つべく(とき)の声が響き渡っている。


 そして目の前にいるのはシュベルディ帝国の敵将アディフィール将軍だ。戦場では絶対に身につけることがない、目立つ鮮血の赤の鎧をまとう武人。


「わざわざ確認せずとも互いのことは知っているだろう」


 私は問いに答えることなく、剣を構える。

 ドーラメリア国に仕える女騎士は限られてくる。


 それもこんな前線に出るものは少ない。


「ハッハッハッハ! 確かに確認するまでもない!」


 豪快に笑うこの男こそ、帝国最凶と恐れられている者だ。

 この男は一人で敗戦一色だった戦況を覆して、勝利に導いたなど、英雄談には事欠かない。


 烈火のアディフィール。全てを灰にしてしまう者の前に立ちはだかる愚者など普通はいない。


 この私を除いてはだが。


「氷姫のフェリラン。相手にとして不足なし!」


 氷姫のフェリラン。痛い私の二つ名だ。


「隊長」

「作戦通り指揮はディロべメラ副隊長一任する。健闘を祈る……ハズメイラの丘で相まみえよう」

「はっ!」


 背後から声をかけてきた部下に私は死ねと言う。ハズメイラの丘。死者が最初にたどり着く場所と言われている死の国の丘。


 なんて愚かなのか。だが、誰もが願っていた。この終わりなき戦いの終結を。

 完膚なきまでの勝利を。


「烈火のアディフィール! その首を討ち取らせてもらおう!」


 地を蹴り目立つ赤色の鎧をまとう武人に向かっていく。

 私と将軍の周りには人の気配は既にない。

 何故なら……


「この俺に正面から立ち向ってくるのか! 『轟炎の槍(シュラトラザン)!』」

「『氷結の颶風(エルアスト)』」


 灼熱の炎の槍が将軍の背後にいくつも出現する。辺りはその炎に熱せられ自然発火しだした。

 それに対し私は凍てつく風を巻き起こし、全てを凍らせていく。


 そう、敵味方関係なく全てに死を与える存在。戦場の死神という異名がつけられた者。


 全てを灰にする炎の世界と全てを凍らせる氷世界が接触した瞬間。全てを巻き込んで爆散した。


「いいね。久しぶりに楽しめそうだ」

戦狂(いくさぐる)いが」


 こうして、長年続いたドーラメリア国とシュベルディ帝国との戦争を終わらせる戦いが始まったのだった。




「はぁ……はぁ……はぁ……」

「まさか、まだ立っているとは驚きだ」


 辺りは草も生えない黒い大地と化し、白い雪が舞っている。


「ふん! 切り落とした腕を、炎で焼いた変態に言われたくない」

「氷の足を生やしたヤツに変態呼ばわりされたくないな」


 互いに満身創痍だった。

 左腕を切ったにも関わらず、自分で焼き切って止血をして、剣を振るう将軍。

 そして剣で横腹を貫いたにも関わらず、私に剣を振り下ろして来たため、避けようとして片足を膝下から失ってしまった。


 そうあの男の腹には鎧ごと貫く私の剣が刺さったままだ。

 それを引き抜き傷ごと肉を焼く将軍。


 狂っている。そう言ってもいいが、この戦場で戦っている者たちが正気を保っているのかと問われれば、苦笑いを浮かべるしかない。


 そうでなければ、剣を振るっていられないだろう。ここで正気を保っていたら、剣を投げ捨てて、痛い、帰りたいと子供のように泣きじゃくっているだろうから。


 私は右手で短剣を構える。今まで手にしていた剣は形をなさず地面で溶けてしまっていた。

 それは言わずもがな。目の前の将軍の仕業だ。


 大気が乾き水分が蒸発していっている。呼吸をするのもままならない暑さ。鎧をまとっている身では中で焼け焦げてしまいそうだ。

 流石、烈火のアディフィールの前に立ちはだかる者なしと謳われるほど。


 しかし、氷と風魔法の特化型の私以外はと付け加えよう。

 大きく息を吐いた。その息に冷気が混じり大気が凍りだす。


 私も立っているのがやっとだが、それは相手にも言えるだろう。次の一撃で決着をつけるつもりのようだ。


「楽しいなぁ。もっと死合っていたいが、そうもいかない」

「ふん!さっさと倒れてその首を渡せ」


 何が死合っていたいだ。私は御免だね。


 氷の左足を前に出し、そのまま地面を滑るように将軍に向かっていく。いや、実際に滑っていた。


 地面を凍らせて、氷の足で滑れば摩擦もない。だから、風の魔法を使えば一気に距離を詰められる。


「そんな短剣で俺が倒せると思っているのか」


 だが、近づけば近づくほと将軍の放つ炎の熱に氷が溶け出す。特に地面に接していれば、溶ける速度は瞬間と言っていい。


「思っていなければ、ここにはいない」


 策はある。あるが、一度きりと言っていい。二度目はない。

 何故なら一度相手に見せれば対応されてしまうからだ。


 右足で地面を蹴り、将軍の目の前に……


「甘い!」


 胴を一刀両断される私。


「なに? 氷だとう!」


 正確には氷に私の姿を映した虚像だ。


「後ろか! ちっ!」


 再び割れるように崩れる私の姿。


「貴様!」


 複数の私を全て壊していく将軍。

 ここだ!


 私は地面を映した氷の背後から飛び出て、私が切った左腕側から短剣を切り上げた。それも短剣を氷の刃で長剣と変わらない長さにしたものをだ。


「こんなものに引っかかるわけないだろうが!」


 鎧を破壊しながら、私の左肩に食い込んでいく刃。

 私の氷の刃は将軍には届かない。


「終わりだ」


 ニヤリと笑みを浮かべる将軍。

 負けじと私も口角をあげた。そう、将軍の剣は私に突き刺さっているのだ。


「烈火のアディフィールのな」


 短剣を手放す。地面に突き刺さる氷の刃。


「『一天がにわかにかき曇る。鳴神の神風たるや凍てつく寒さ』」


 青空が反転したように黒い雲に覆われる。

 雷が鳴り冷たい風が吹き付けてきた。


「それは! 自殺行為だ! くっ……剣が!」

「『咲き散らせ、乱華の氷血(エクサイエロ)!』」


 地面から突き出る氷の刃。

 空から打ち付ける(いかずち)

 地面に刺さった短剣から四方八方に放たれる冷気をまとった風の刃。


 目の前の敵は鮮血を撒き散らせた。

 そして凍りついて花の様に地面に落ちていく。


 技を施行した私に大きく亀裂が入る。

 甲高い音を立てながら崩れていく氷の私。


「貴様と心中するつもりなどない」


 その崩れていく氷の私の背後から立ち上がった。そして、氷の剣で敵将の首を跳ね飛ばしたのだった。


「敵将アディフィールの首を、このフェリランが討ち取った!」


 ああ、これでこれから生まれてくる子どもたちは、平和な国で生きていけるだろう。


 もし来世というものがあるなら、幸せな家庭を持ちたいものだ。


 さて、完全勝利に持っていくためには、もうひと踏ん張りしなければならない。


 私は首を跳ねても立ったままでいる将軍から剣を奪い取る。

 鎧が重いと感じる身体を引きずりながら、敵陣に向けて進むのだった。




 *





「は? 何馬鹿げたことを言っているのです? お父様」


 気がつけば私は伯爵家の娘として生まれ変わっていました。

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