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仮公開用  作者: まじで仮
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愛と恋

愛と恋

 雨がしとしとと降る夜のことだった。


彼女 「――君。いつものファミレスに来て」

 僕 「わかった」


 窓に映る画面に彼女からの連絡。この彼女というのは恋愛関係にある彼女であり、2個上の先輩だ。学校でも有名な美人で、勉強もできてバドが上手い完璧な先輩だ。僕には勿体ないほど素敵で、尊敬している。リードするのが好きでお姉さん気質な君。

 人っ子一人居ない夜の道を真っ直ぐに歩く。何もかも感じない、不思議な闇の道を。

 着くと、僕はテラス席に居る君に視線を釘付けにされていた。長い黒髪、女子高生とは思えないほどの綺麗な顔。制服がまだその型にはめて居てくれるが、その存在感は遥かに他を凌駕する。

 君は口を開く。不意なその動き僕の目はズームしたかのように君の唇しか映らなかった。

「――君、――して欲しいの」

 静寂な空間に投げられた一言は遠くて深くて、聞き取れなかった。

「――(くん)、大丈夫?」

 (きみ)は昔の口調に戻っている。(くん)呼びなんて――いや、そもそもさっきからなんて言ったかよく聞こえていない。本当に僕はおかしいようだ。

 瞬きの間に君は立ち上がり僕の目の前、キスすら出来てしまいそうな程顔を近づけ、静かな声で優しく言う。

彗君(すいくん)。お別れして欲しい、そう言ったの」

 固まる僕を背に、君はもう歩き出す。

 僕は君を追いかけ、手を取ろうとする。崩れそうで笑っちまった膝をもって。

「っ」

 その手に当たれどするりと抜け、握りこぶしはただ雨粒を掴むだけ。

 そう、思いだしたかのように突然雨は僕の体を突き刺す。重く鈍い、鉛のように。


 地面にくたばる僕は、顔を上げる。

 避けるには大きすぎる指? が僕の額にとどめを刺す。それはまるで――デコピンだった。


――――


「もースイクンは起きないな」

 デコピンもういっぱーつ!

 無邪気そうな声で凶悪な一撃をデコに貰った。

「痛っったぁ……」

 額を抑えながら目を開くと、そこは教室だった。

「居眠り小僧の浜名(はまな) (すい)君。おはようございまぁーす。既に4時間目を終えお昼ご飯だぞ?」

 デコピンで俺を起こしてきた張本人――目の前の席で振り向くは忍野(おしの)(とも)

 にっしっしと、してやったり顔の彼女はクラスの人気者で俺の幼稚園の頃からの幼馴染。来年で高校三年生の俺たちはであって15年になる。

「起こしてくれてありがとう、でもなこんな起こし方をしろとは言ってないぞ普通に起こせ普通に」

「そんなに起こして欲しければ僕が起こしてやろう」

 後ろから聞こえるは山中(やまなか) 将生(まさき)の声。

 ビィーービッと、嫌な音が聞こえた。おそらくアレだ。

「――待て」

 その足を止めさせる。

「ほう、待てと」

「お前が手に持ってるのはガムテだな。それを俺の髪にベタっと貼ろうとしてることは分かりきってるんだよ。振り返らずともな」

「フッフッフ……甘いっ! 養生だっ!」

 将生は走ってこちらにくる。俺はすぐに振り返り、両手をガシッと掴み軽くシュッと足を払って転ばせた後、そのテープを奪い取りそのまま貼る――そのスネに。

 男子高校生の長くなったすね毛にはよく効くだろう。養生テープの粘着力は。

 ちなみにここで俺がまるで超人みたいに思えるが、実際俺の運動神経と動体視力は良い方だ。そして縁の運動神経は最悪だ。足も遅いし隙だらけと言ったらそれまでで、頭は良いのにそれに反してイタズラの程度と真面目さに起因する不器用が人一倍強い。

「な、なにをしている貴様ー! 剥がっ……痛ったいな!」

 縁は必死に取ろうと頑張っているがその痛みはものすごいものなので少し悪い気もしたが。

「自業自得だな」

「うんうん。じごーじとくじごーじとく」

 ご機嫌な朋は足をプラプラと動かしながら俺達を見ていた。

 俺は睨みつける。 

「朋にはデコピンでお返ししてやったっていいんだぞ」

「そ、それは遠慮しておこうかなぁ〜。あ!」

 すたこらさっさーと、気づいた時には逃げている朋。他の女子を捕まえては昼飯に向かうようだ。彼女が捕まえた女子は(かがみ) (はる)。あまり目立たないの 大人しい方の人なので朋が悪くしないといいのだが……。

「さて俺らも行くぞー飯。早く立て将生」

「飯だな。手を貸してくれ」

「はいよ」

 気を取り直して俺達は食堂へ向かった。


 道中。

「そういえばさっきの養生テープ取れたのか?」

「いや、触らなければ痛くないと今わかったので触っていない」

 将生はキリッとした顔で言う。

「……それ、今更か?」

 流石に絶句した。


――――


 男子更衣室にて。

「彗、マズイことになった」

 意味深長な言葉と共に顔を青ざめる縁。昼休みの着替え中のことだった。

「なんだその貧相な体の話か」

「そんなもの気にしたことは無い。というか食っても食っても痩せるからむしろ困っている」

 もやし体型すぎる。もやしの原型だ。最早大豆と言っても過言では無いのかもしれない。――流石に過言か。

「この世の全女子を敵に回す発言、流石っす山中先輩!」

「先輩では無いそして茶化すでない、でもって違う! 本題はこれだこれ」

 縁は先程貼ったスネについた養生テープを指さす。

 まだ剥がしてなかったのか。

「ん? 取ればいいじゃん」

「痛いんだ取るのは! なんとかしてくれ彗。いや、なんとかしろ彗」

 人に物を頼む態度……と、言いたいところではあるが流石に自分のまいた種くらい回収義務は発生するのかな。

「へーへー。んじゃいっせーのー」

 俺は勿論迷わずそのテープの端を持って、一気に――

「や!め!ろ! それが嫌で言っているんだ」

 は、上手くいかなかった。

 めんどくさいやつだ。ギャーギャーウジウジうるさいし、さてどうしたものか。

「てか別に次の時間長ズボン付けてやるならいいだろ。誰にも見られないし」

 うちのジャージは上下共に季節に合わせられる長袖と半袖、長ズボンと丈の短い半ズボンがある。

 春先の今は大体長ズボンに半袖で過ごす人が多い。

「今日は半ズボンしか無いが?」

 将生はさも当たり前のように言う。

「あれ? でも上長袖だよな?」

「今日はちゃんと長袖に半ズボンだが?」

「……」

 鳩が豆鉄砲食らう前の顔はこんな風なのだろう。

 言わないでおこう。これは流石に言わないでいよう。こいつの良い友人として。流石に長袖に半ズボンはダサいのと少しやっぱ高校生くらいになると思うものではないか? いやもう2年だし。すね毛の生え方だってなかなかだ。チクチクすら隠したいだろうにお前ってやつは。今日は長ズボンすら持って居ないのか。そして、それで1番ダサいであろう(※個人の感想です)長袖半ズボンを敢えて選んでいるあたり。本当に大丈夫かこいつ。

「まぁ……とにかくだ。一旦それを外すならまずは着替えてからでも遅くないと思う。着替えろ」

 本当にこいつは、何を考えているかわからない。


――――


 将生が長袖半ズボンに着替えた。

「どうするかな。粘着力弱めるとかか?」

「そんな方法を知っているのか? 流石彗だ」

 そんなものを知る由もないのでネットで調べ読み上げる。

「いくぞー。A、ドライヤーで温める」

 温風設定にして数秒間温めるそうだ。粘着剤が柔らかくなると書いてある。

「却下だ。ドライヤーなど教室にある訳なかろう」

「それはそうだな。じゃB、ゆっくり剥がす」

 爪やカードの端を使うと上手く剥がれるそうだ。にわかに信じ難いが。

「却下。絶対痛い」

「多分俺が剥がすよりはマシだぞ」

「バカ言っている暇があったらさっさと次を言え」

「はいはい。C、残ったものを取る」

 その残った粘着などを取り除く……? あぁそういうことか。

「残ったもの?」

「今のは手順な。剥がすための。ということで無理かもしれない。ごめんな、縁の無数の毛とその毛根」

 ネットの情報の叙述トリックにしっかり引っかかってしまった。方法が3つもあると思いきやこれとは。

「あ、あ、あ諦めるのはは、早いのでは無いか?」

「将生。ごめん俺、お前を救えなかった」

「謝るでない彗。やめろ!」

 俺は縁を更衣室の端へと追い詰める。不可抗力意味の無い男への壁ドンをする。

「逃げ場は無いんだよ諦めるんだ縁!」

「や、やめろぉぉぉーーー!」

 ベリッッと、勢い良く剥がれる音、俺とお前の声。予鈴のチャイムの音。授業ももう始まる頃だから中には誰もいなくて助かったが中々お互いテンションが上がって大声で叫んでもう訳の分からない状況だった。見事なまでに将生のすね毛が取れていた。我ながらいいしゃがみからの引き剥がしだった。

「なーにしてんのっ」

 少し開いていた更衣室のドアを開けるは朋。ひょこっと顔を出したのは慈恩さん。

「堂々と男子更衣室を見るな2人とも」

 騒いでいた俺らが悪いのはわかっているが流石に驚く通り越して引くぞ。

「別に着替え終わってるでしょ。呼びに来てあげたってのにもう授業だけどスイクンも縁君も……って、ぷぷぷ」

「……るっせーなぁ」

 テープを剥がした際に失神してしまったマサキを抱えながら俺は薄ら笑いの朋に悪態をつく。

「いや、いやいやスイクンじゃなくて将生君。今日日久々に見たけどやっぱ長袖半ズボンは――流石に無い、かも」

 将生がショックで意気消沈している間でよかった。俺もそう思っていたがあいつが女子から直接聞いてたら本当に息消沈していただろう。

「……かわいい」

 ボソッと小さな優しい声が聞こえた。

「「え?」」

 俺と朋は声を揃えて驚く。目をまん丸にして。その鏡さんのかわいいの一言に。

 鏡さんの口元が少し緩んでいた。


――――

 ☆☆☆☆☆今日の体育はテニスでした☆☆☆☆☆

――――


「今日は散々であった」

 もう夕日も落ちかけの部活終わりの帰り道。

「別に俺も散々だったからな。どっかの誰かさんは気絶するし」

「あんなの誰でもしおろう!」

「いいやしないだろ普通。精々激痛に膝を折られるくらいで。まぁそんなことはどうでも良くって」

「話の腰を折るでない。自由人間が」

 縁石にタッ、と乗り両腕を広げ平均台のように俺は進む。

「なぁ縁。元カノがもし言い寄って来たらどうする?」

 夢で見た。あの日のこと。

 今でも簡単に思い出せる。まるでフラッシュバックするように。

「なんだ急に。そんな事あるはずないだろう」

 振られた。あの人に。

「まぁだよな。悪ぃな。彼女いない歴=年齢さん」

「やれやれ……悪いと思ったらその態度から改めよ」

 最早呆れ顔の将生。

「というかまだ本当に引きずっているのか? 中学1年の時の一瞬の恋を」

 そう、中学1年生の時の恋。

「一瞬じゃない。半年だ」

 半年間付き合った、2個上の彼女。

「さほど変わらないだろう。年上女子に拐かされて付き合ったのだろう?」

 部活に入ってすぐ、一目惚れだった。

「は? 普通に恋に落ちたよ」

 彼女の奥ゆかしさと力強さに。その大人な雰囲気に。

「高嶺の花のような人と付き合った、などと妄言甚だしいのではないか?」

 俺――僕もそう、思っていた。夢のようだと思っていた。

「キスとかもしたのだろう?」

 愛の言葉も愛し合うことも。

「あぁ」

 その温度すら。まだ――。

「本当に」

 そして半年、その愛は夢のように覚めてしまった。

「本当に謎なんだよな」

 思い出したくは無いのに思い出させられるこの鮮明な映像たち。

「はぁ。悩むのはいいが、忘れることもオススメだ。説法などでよければいいものが」

「んじゃなー」

 長そうな話を切り、俺は不思議な思い出に蓋をする。

 思い出す程に心臓が締められる思いがするから。


――――

  ☆☆☆☆☆山中将生は寺育ち☆☆☆☆☆

――――


 ブーン、とスマホのバイブレーション。

 その光にあてられて少し目が覚める。

 布団に包まる俺の横に書かれていた。


美玲 「元気にしてる?」

美玲 「久しぶりに会わない?」


 メッセージの送り主は、元先輩で元彼女。

 毎日のように思い出しては今さっきまで夢で会っていたような感じすらする――そう、懐かしさすら無い。

 俺の人生がまた、変わり出すんだ。


 夢にまた、堕ちていく。


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