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7.春の学院祭

 春の学院祭の当日。

 通常、テクネーアカデミアには校外の者は入れないが、この日だけは一般の人も自由に見物できる。アンナの家族も アンナの学院生活を見に来ることになっていた。マリアもシンシアも、今日は家族が見に来るようだ。3人とも、朝からワクワクしていた。

 普段は静かなアカデミアも、今日は賑わいを見せている。


 音楽過程の演奏の時間になった。大ホールの舞台の中央に上級生たちが楽器を持ち、その後方に新入生のコーラス隊が並ぶ。アンナはコーラス隊の一員とはいえ、初めての大舞台で胸が高鳴っていた。

 リーダーの上級生のソロで演奏がスタートした。上級生のアンサンブル演奏に合わせて、コーラスを披露する。アンナは緊張しながらも、練習を重ねた歌を精一杯歌った。素晴らしい演奏と合唱が大ホールに響き渡り、拍手喝采を浴びた。


 演目が終わり舞台から降りると、人混みをかき分けるようにして両親が駆け寄ってきた。久しぶりの再会にアンナの顔は綻んだが、すぐに両親の顔に浮かぶ焦りの色に気づいた。

「アンナ、ソフィアがいないんだ! 一瞬目を離したすきに、どこかに行ってしまったんだ!」

 末っ子のソフィアは、好奇心旺盛で、人見知りをしない子だ。アンナも両親と手分けして、校内を探し回った。


 中庭に行ってみると、ソフィアが男子棟の窓の外にいるのを見つけた。彫刻教室の中に向かって、何やら一生懸命話しかけている。

「すごーい、本物みたい! それ、石からできてるの?」

「……」

「それ、お兄ちゃんが彫ったの? どうやって彫ったの?」

「……」

「なんで、そんなに上手なの??」

「……」

「お兄ちゃんも、その石のお人形みたいに かっこいいねー!」

 アンナがあわてて近寄って見ると、教室の中はテオ1人だけがいた。黙々と彫像しているテオに向かって、妹のソフィアがずっと喋っていたのだ。

 全く人見知りしないソフィアに、アンナは呆れ、慌ててソフィアの元へ駆け寄った。

「ソフィア! ここで何してるの? パパとママが探してるわよ!」

 アンナはソフィアの小さな頭を軽く小突いて、テオに向かって深々と頭を下げた。窓越しではあったが、テオの冷たい視線を感じたような気がした。

「す、すみません。妹が勝手に入り込んで、お邪魔してたみたいで・・・・ホントにごめんなさい!」


 テオは、アンナの謝罪にも、ソフィアの姿にも、全く反応を示さなかった。ただ、彫刻刀を動かす手だけが、変わらず正確に石を削っていた。アンナは、これ以上テオに迷惑をかけまいと、ソフィアの手を引いて急いでその場を離れた。


 妹のソフィアを両親のもとに連れて行った後は、家族と一緒に学院祭を見て廻った。

 ホールで各過程の展示がされている。

 刺繍過程では、細かく刺繍された大小さまざまな布が華やかに展示され、刺繍の実演も行っていた。

 織物過程では織機が置かれ、幻想的な柄のすてきな絨毯や幾何学模様を織り込んだ布などが展示されていた。

 音楽過程は楽器が展示され、来場者が演奏体験できるようになっていて上級生が説明をしていた。

 両親は、アカデミアの様子を見て安堵したようだった。アンナに励ましの言葉を残し、帰っていった。


 その後、アンナはマリアとシンシアに合流し、学院祭の賑わいを満喫した。ホールで様々な催し物を見て回り、普段は立ち入ることのできない男子棟をちゃっかり探検した。男子生徒も同じように考えて女子棟を見に行っているのか、男子棟に男子生徒の姿はなかった。

 彫刻教室の前に数人の女子が集まってるのが見えた。女子たちは、中にいるテオにいろいろ声をかけたが、完全に無視され「氷のテオ」を再認識したようだった。


 祭の終了を告げる鐘の音が響いた後は、片付け作業が始まる。アンナはテオと一緒に会場内を回り、設置したゴミ箱や看板を撤収していく。夕暮れ時の学院は、日中の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

「昼間は本当にすみませんでした。妹が勝手に、テオさんの邪魔をしちゃって・・・」

 アンナは、テオに話しかけながらゴミ箱を片付けていく。

「妹は5才なのにすごく口が達者なんです。もし失礼なことを言っていたなら、ほんとにごめんなさい。」

「5才」という言葉を聞いて、テオは一瞬 動きを止めた。

 5才の妹・・・・養女にもらわれていくとき、「お兄ちゃんと離れたくない」と言って馬車の中で大泣きしていた妹リリアは、たしか5才だった・・・

 当時のつらい記憶が脳裏に浮かび、テオは一瞬だけ遠い目をしたが、すぐにいつも通りの無表情に戻った。

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