表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪夢と女神  作者: 小鎌 弓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/22

6.運営委員

 テクネーアカデミアでは、年に2回、学院祭がある。

 春の学院祭は、一か月前から準備が始まり、各技能過程から一人づつ選出された人で運営していく。運営委員は地味で忙しいので、誰もなりたがらない。

 音楽過程も同じで、上級生たちは新入生に運営委員をさせようとし、熱で休んでいたアンナが運営委員に選ばれたのだった。同室のマリアが少し抵抗してくれたようだが、先輩たちに押し切られたという。

 欠席裁判で運営委員にされてしまった事に少し不服はあったが、仕方がない。アンナは授業後、運営委員会に行った。すると、彫刻過程からは、あの美少年が選ばれていた。


 「各過程の代表者のみなさん、ご苦労様です。これから運営計画を説明します。」と、委員長の声が響く。

 運営委員の中で いろいろな仕事を割り振られるようだ。仕事は2人ペアで行うらしい。基本的に、男子同士、女子同士でペアを組むが、男子棟も女子棟も過程が奇数なので、一組だけ男女ペアとなる。

 そのくじ引きで、なんとアンナは、あの美少年とペアを組むことになった。たった1つの男女ペアに当たったことに驚き、戸惑うアンナ。

「はじめまして、音楽過程のアンナです。よろしくお願いします」と緊張しながら握手を求めたが、「・・・・彫刻過程のテオ」とだけ返ってきただけだった。噂どおり無表情で冷たかったが、間近で見ても、彼は美しかった。


 運営委員会でアンナとテオに振り分けられた仕事は、本当に地味だった。

ゴミ箱とその案内看板をたくさん用意して、祭の前日に各所に設置し、祭が終わった後、それらを回収し焼却所へ持って行くのである。

 ゴミ箱と看板の材料はすでに用意されているが、2人だけで作らなくてはいけない。意外に多い作業だ。

 さっそく2人は作業に取り掛かるが、アンナがテオにいろいろ尋ねても「Yes」か「No」くらいしか返事がない。


アンナが寄宿舎に帰ると、同室の二人が運営委員会の様子を聞いてきた。アンナはテオと組んで地味な作業になった事を話した。

「え? あの 無機質な美少年と組んだの?」

「氷のテオ様と組んで、だいじょうぶ? やっていける??」

マリアとシンシアの興味津々な反応に、アンナは少し困りながらも答えた。

「うん、地味な作業だけど、やらないといけないし・・・」

シンシアが少し同情したように言った。

「でも、アンナなら絶対にできるよ!頑張って!」

マリアは少しいたずらっぽく言った。「アンナの明るさで、氷を溶かしちゃえばいいじゃんー」

マリアもシンシアも半分同情し、半分は好奇心で面白がっていた。


 何日たっても、テオは不愛想で喋らない。

 しかし、アンナが話しかければ、彼の返事は「Yes」「No」と短いけれど、確実に返ってくる。首を縦か横に振るだけの時もあるが、完全に無視しているわけではなさそうだ。

<嫌われてないなら、ま いいっか>とポジティブに考え、テオと作業を続けた。


 材料は工作室に、まだ山のようにある。粗削りの木材、鉄の留め具、古びた布地、ペンキと刷毛など。

 テオは手際よくゴミ箱を組み立て、ペンキで彩色していく。そのデザインはシンプルだが美しい。手先の器用さと確かな技術、芸術的センスに、アンナは感心しきりだった。


 音楽過程では、学院祭に向けて、演奏の練習が始まった。学院祭では、上級生が楽器を演奏し、新入生はその後ろでコーラスをする。アンナ達はソプラノとアルトに分かれて、毎日練習した。上級生たちは学院祭が近づくにつれ、日に日に緊張感でピリピリしていった。小さなミスにも大きな声で叱責されることがあり、練習中の雰囲気は一層厳しくなっていった。

 刺繍過程でも、学院祭で展示する作品作りが佳境に入り、上級生がピリピリしているらしい。

 アンナとマリア、シンシアは寄宿舎に帰ると、毎晩、学院祭への不安や先輩の愚痴をこぼし合い、3人で慰め合った。


 昼間は音楽過程での演奏の練習、授業後は運営委員としてテオと準備作業をするという、忙しい毎日だった。ときどきアンナが話しかけるが、相変わらずテオは不愛想だ。釘を打つ音、布地を切るハサミの音、刷毛の擦れる音だけが作業室に響く。

 言葉でのコミュニケーションはほとんど成立しなかったが、2人の作業は驚くほどスムーズに進んだ。

 そして、彼と一緒に過ごす時間が、思った以上に心地よいものであることを、少しずつ感じ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ