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5.音楽過程

 その後、自宅通いの生徒は帰宅し、寄宿舎での生活者に部屋割りが発表された。アンナは3人部屋になった。

 同部屋になったのは、音楽過程を専攻するマリアと、刺繍過程のシンシアだった。初めて顔を合わせたその夜、3人はあっという間に打ち解けた。マリアはおっとりして少し甘えん坊、シンシアは冗談好きなしっかり者。2人とも、アンナと同じく陽気だ。

 アンナは、まるで昔からの友達のような心地よさを感じていた。同じ屋根の下、夢を追いかける少女たちは、不思議と心が通じ合うものなのだろう。


 音楽過程は、まず楽器の選択から始まった。全ての楽器について、ひと通り説明を受けて、アンナとマリアはハープを希望した。ハープ希望者は多いが、ハープの台数は多くない。希望者は2週間ほどの間、順番に演奏してみて、素質の有無をみて判断することになった。

 テクネーアカデミアでは、現代のような授業形式ではなく、上級生も新入生も同じ部屋で、講師や先輩の動作を見て、目と耳と心で技術を学ぶ。

 ハープ演奏の順番がくるまでの間、楽譜の勉強もするが、ふと窓の外をみると、中庭の向こうの男子棟で彫刻をしている美少年がちらりと見える。アンナはそのたびにキレイだなあと思うのだった。


 ある日の朝、アンナとマリアが音楽過程の教室に入ると、女子たちがざわざわと騒いでいた。

「あの彫刻過程の美少年に声をかけたけど、完全に無視されたんだって!」「ものすごく冷めた目だったって!」「信じられない!」

「石のようだって言われてたけど、あれは本当だったんだねー」

 先輩が苦笑しながら言った。

「だから、最初に言ったでしょ」


 その日の夜、寄宿舎で同部屋のシンシアにその話をした。

 するとシンシアは微笑みながら言った。

「刺繍過程の女子たちも、彫刻過程のあの美少年にアタックしたんだって。でも、全員無視されて撃沈したらしいよ」

 やはり、氷の美少年は、誰に対しても冷たいようだ。


 新入生の女子たちの間では、例の美少年の噂がすぐに広まり、しばらくはその話題で持ちきりだった。その後も、何人かはアタックしたようだったが、いつも結果は同じだった。次第に女子たちは興味が薄れ、彼の話題を口にしなくなった。


 担当楽器を決める日になった。講師や上級生の前での演奏は緊張する。アンナは指の震えを抑えながら、一生懸命に演奏した。ミスすることなく弾き終え、ドキドキしながら結果を待った。

 夕方、発表が行われ、アンナは念願どおりハープ専攻となり、飛び上がるほど嬉しかった。しかし、マリアの願いはかなわず、竪笛の専攻になってしまった。その夜、マリアはずっと泣いていた。アンナとシンシアは、ひたすら慰め、励ました。

 休みの日に、3人は市場に出かけた。市場は広く、村では見たこともない物がたくさん売られていた。少し贅沢なお菓子や珍しい小物、キレイな服、ステキな靴などに目を輝かせた。元気がなかったマリアも明るさを取り戻した。


 音楽過程の広い教室の中では、各楽器のグループごとに集まって練習をする。ハープは一人1台貸し出してもらえた。アンナは自分用のハープがうれしくて、練習に力が入った。講師や周りにいる先輩にいろいろ質問したり、同級生とと確認しあったりして、習得に励んだ。練習に疲れて窓の外を見ると、彫刻をする美少年がちらっと見えた。


 演奏以外にも、楽譜の読み方、楽器の手入れの仕方など、覚えることがたくさんある。マリアは楽譜読みが苦手で苦戦していた。最初に希望していたハープでなく竪笛になったことで、マリアの集中力は途切れがちだった。一方、アンナはあこがれのハープに夢中になり、指にマメができた。


 練習を頑張りすぎて疲れが出たのか、アンナは熱が出てしまい、アカデミアを休んだ。寄宿舎で横になっていても、音符が頭の中をぐるぐる回った。

 熱が下がり、2日ぶりに音楽過程の教室に行くと、1か月後の学院祭の運営委員に指名されていた。

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