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4.アンナ

 一方、街から離れたのどかな田舎。

 野花が咲き、風が麦の穂を揺らす村に、陽気な少女アンナは暮らしていた。特別に裕福な家ではないが、母の歌声と、父の冗談と、家族みんなの笑顔で いつもあふれている家庭だった。

 アンナは、そんな陽気な家族の中で、太陽のようにすくすくと育ってきた。


 村には神殿があり、年に1度、神聖な祭典が行われる。村中の人が集まり、供物がささげられ、巫女が祈りの儀式をし、音楽隊の演奏が響き渡る。

 アンナは、毎年、その祭典の日を心待ちにしていた。

 美しい布をまとった巫女たちが優雅に舞う後ろで、いろいろな楽器を携えた音楽隊が神聖に曲を奏でる。その中でもひときわ澄んだ音色を響かせるハープの旋律に、アンナは心を奪われていた。ハープの音色はもちろん、弦をはじく指先の動きの美しさにも魅了され、いつしかハープ奏者になることを夢見るようになった。


 芸術や技術の専門学校「テクネーアカデミア」には、音楽の養成課程もあることを知ったアンナは、入学を熱望した。通うには遠すぎるため、寄宿舎での生活が必須で、両親は当初難色を示したが、彼女の情熱に根負けし、最後には許してくれた。


 入学初日。陽だまりの中、女子の新入生が集められ、女学生が説明を始めた。

 アカデミアは男子と女子、別々の棟に分かれており、それぞれ習得できる技術の系統も違う。女子棟では、刺繍や織物、音楽など。男子棟では、陶器、金属加工、革細工、彫刻など。

 男子棟と女子棟は中庭を挟んで建っており、通常は男女が完全に別々で、一緒になることは無い。また、男女どちらも2~3年以内に就職できないと退学となるため、素質が無いと感じた場合は、途中で他の過程に移動しても良いそうだ。

 上級生は、女子棟を案内していく。

 刺繍過程の部屋では、少女たちが談笑しながら、細やかな針の動きで美しい模様を生み出していた。

 織物過程の部屋では、機織り機が規則正しいリズムを刻み、鮮やかな糸が布へと姿を変えていく。

 そして音楽過程の部屋。そこはまるで異世界のようだった。

 竪琴、弦楽器リュート、笛、太鼓・・・さまざまな音色が響いていた。中でもハープは、光を浴びて輝いていた。

 アンナは、憧れのハープを間近で見て思わず立ち止まり、胸が高鳴るのを感じた。


 その時、新入生たちが窓の外を見てざわざわしだした。

「……誰、あの人?」「すごくかっこいい!」「きれいな顔立ちよね」

 アンナも窓の外に視線を向けると、中庭の向こうに男子棟が見えた。その中央あたりの部屋の内で、美少年が石を彫っているのが見えた。その横顔は、まるで神の手によって造られたような美しさだった。新入学生は色めき立ったが、案内していた上級生は鼻で笑った。

「ああ、あの美少年ね。テオドロスっていうのよ。綺麗な顔してるけど、人間らしい温もりなんて全く無し!石のように冷たいわよ。むしろ大理石の彫像の方が温かいかもね。」

 新入生たちは首をすくめ、歩き出す先輩の後を追った。アンナだけは最後にもう一度、振り返った。

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