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悪夢と女神  作者: 小鎌 弓


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23.有翼の女神像

 大神殿の開場式まで、残すところあと10日となった。街の至るところで、式典に向けた準備が進められ、人々の期待と興奮が高まっている。しかし、テオの心には、焦りが募っていた。彼が担当する有翼の女神像が、納得のいく出来ではない。あと10日で、最高のものを完成させるのは難しいかもしれない。


 仕事から帰ったテオは、夕食を終えると、アンナに言った。

「ごめん、アンナ。夕食の後も、仕事に行くよ。どうしても時間が足りないんだ。」

 アンナは、テオの顔に浮かぶ焦りと、職人としての真摯な思いを感じて、静かに頷いた。「ええ、分かったわ。・・・私も一緒について行こうかしら。」


 最近のエテルナは、昼間、はいはいして動き回って疲れるからなのか、眠る前にしばらくぐずる。いつもは、それをテオがあやして、寝かしつけている。テオがいないと、エテルナは長時間ぐずり続けるだろう。

 アンナは、ぐずり始めたエテルナを背負った。「大丈夫よ~、エテルナ。パパのお仕事、見に行こうね。」


 完成間近の大神殿は、真新しい大理石が月明かりを浴びて淡く光り、昼間とは違う厳粛な雰囲気をまとっていた。神殿の奥に、テオが担当する女神像が静かに立っている。充分美しい女神像だったが、テオは納得していない。

 ランプを灯し、ほの暗い中、テオは道具を手に取った。アンナはエテルナをあやしながら、子守唄を歌い始めた。

 アンナの清らかな歌声が、厳粛な神殿に美しく響き渡った。ぐずっていたエテルナは、母親の優しい歌声を聞いているうちに、だんだんとおとなしくなる。テオは歌声に耳を傾けながら、作業を続ける。やがて、エテルナは安らかな寝息を立て始めた。


 アンナが歌い、テオが石と向き合う。エテルナの小さな寝息が、その静かな空間に穏やかなリズムを添える。そんな、家族3人だけの夜が何日か続いた。

そして、開場式の2日前。ようやく、女神像は完成した。


 その頃、大神殿の近くでは、ある不思議な噂が出始めていた。「夜、神殿から女神の歌声が聞こえる」と。その噂は、人々の間で静かに、しかし確実に広がり始めていた。


 大神殿の開場式当日。

 手前の円形広場は詰めかけた見物客でごった返している。奥の大神殿では神聖な儀式が始まった。

 一番奥の中央に鎮座する大神像は圧巻だ。工房最高の職人が全身全霊を込めて手掛けただけあり、息をのむほどの荘厳さと迫力だった。

 大神像の両側には3体ずつ有翼の女神像が並ぶ。どれも卓越した技術に裏打ちされた素晴らしい彫刻だが、それぞれ職人の個性がでている。アンナは、テオが手掛けた像がやはり格別に美しいと思う。風を感じるしなやかな羽、石を彫ったとは思えない柔らかいドレス、女神の優雅な指先、慈愛と憂いを帯びたその表情は、まるで生きているようで、今にも動き出しそうだ。


 清らかな音色と共に、舞踊をささげる巫女たちが登場した。純白の衣をまとった巫女の中に、テオの妹リリアの姿があった。リリアはいちだんと美しく、その優雅でしなやかな舞いは、オーラを感じるほど魅力的だ。

 巫女たちの後方では音楽隊が華やかに演奏している。その中に、見覚えのある顔を見つけた。アカデミアの音楽過程の先輩だ。先輩は音楽隊として堂々と演奏している。アンナはアカデミアの頃を懐かしく思い出した。


 大神殿開場の式典は盛大に終わった。見物客は、今にも動き出しそうな女神像や、巫女たちの優雅な舞い、心に響く演奏に、誰もが感動した。

 中でも、有翼の女神像への称賛は特に大きかった。人々は、その美しさに魅了された。


 そしてあの噂にどんどん尾ひれがついていく。

「神殿の女神像たちは、夜になり人々が静まる頃、清らかに歌い、華麗に舞い始める。」と。

さらに、噂は広がっていく。「女神たちの歌と舞いが天上の神に届くと、流れ星がふりそそぐ」と。



そして、2000年以上の時が過ぎ・・・・・

エーゲ海で羽のある女神像が発見された。

悠久の時を経てもなお、人々を魅了し続けている。

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