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悪夢と女神  作者: 小鎌 弓


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20/22

21.それから2年

 それから2年ほど経った・・・・

 テオは若手彫刻職人たちの班のリーダーになっていた。その腕前は職人仲間からも一目置かれるようになっていた。


 アンナは身ごもっている。もうすぐ臨月だ。大きなおなかをして、産着などを縫うなどして、来るべき日を心待ちにしていた。

 そんな休日の昼下がり、アンナが産気づいた。テオはすぐに家を飛び出し、隣近所の主婦たちを呼びに行った。何人もの主婦たちが、お湯を入れる瓶や大きな布などを持ち寄ってきてくれた。

「旦那さんは 外で待ってなー!」と言われて、テオは家の外に出た。心配で落ち着かない彼は、長屋の前をうろうろした。


 夕方、別のご近所さんが晩ご飯を差し入れてくれ、家の中にいる主婦たちと入れ替わった。

「夜までかかるだろうから、ゆっくり座って待ってるといいよー」と交代した主婦に言われたが、テオは落ち着かない。

 夜になったが、変化はない。真夜中になって、また何人かの主婦が入れ替わったがそれ以外に変化はない。だんだん、テオは心配になってきた。アンナがいなくなってしまうのではないか・・・

 星空の下、ひとりテオは根源的な恐怖に怯え、胃を締め付けられた。


 とうとう、明け方になった。焼き立てのパンやスープの差し入れがあったが、のどを通らない。

「旦那さんが産むわけじゃないんだから、ちゃんと食べなよー」と近所の主婦が言うが、テオにそんな余裕はない。

 陽が高くなり、隣近所の職人たちが出勤していく。「テオ、大丈夫か?親方には、今日は休みだと伝えておくよ!」

 職人仲間の温かい声かけも、テオの耳には遠く聞こえた。


 アンナを失うかもしれない不安で押しつぶされそうな頃、家の中が騒がしくなった。

「アンナさん、がんばって!」「ほら、しっかりして!」

 テオは必死に祈る。もうありとあらゆる神に、ひたすら祈る。女性たちの「がんばって!」「しっかり!」の声が続く。


「おぎゃー!」

 赤ん坊の声がした。家の中から歓声が沸いた。テオはあわてて家の窓に駆け寄ると、窓から主婦が顔を出した。「女の子ですよー!母子ともに元気ですよー!」

 その言葉を聞いた瞬間、テオの緊張が一気に解けた。主婦たちは「おめでとう」と声をかける。

「ありがとう、ありがとう!皆さん、本当に、ありがとうございます」と、テオはひたすら周りに頭を下げ続けた。


 少しして・・・。テオは家の中へと招き入れられた。

 産着にくるまれた赤ん坊と対面して、テオはそのいとしさに感動する。小さい我が子をそっと抱きしめ、テオは胸がいっぱいになった。以前は、大切な人を次々と失い、孤独と絶望を感じていたが、今ここに新しい命を迎え、大切な家族が増えたことに、深い感動を覚えていた。小さな命だけれど、腕にはしっかり重みを感じていた。

 そんなテオを見て、アンナは女神のような笑顔を浮かべていた。難産で疲れてはいるものの、幸福に満ちていた。

「ありがとう…アンナ」

 感謝の言葉しか出てこなかったテオは、アンナの髪を優しくなでた。


 昨夜は眠れぬ夜を過ごしたためか、テオは久しぶりにひどい悪夢にうなされ、飛び起きた。油汗をかき、息も荒く、激しい動悸が止まらない。なんてひどい悪夢なんだ・・・と、横を見ると、アンナも赤ん坊もすやすやと眠っている。

 その光景に、テオはひとり苦笑した。現実はこんなに幸福じゃないか、幻影におびえる必要なんてない・・・。ふっと息を吐くと、また眠りについた。


 テオとアンナは、子どもの永遠の幸せを願って「エテルナ」と名付けた。エテルナは、驚くほどパパに似て、とても可愛らしい女の子だった。色白で、つぶらな瞳、ぷっくりと可愛いほっぺ、軽い巻き髪で、天真爛漫な笑顔。まるで天使だ。アンナは、パパ似でよかった!と心の底から思った。

 3人家族になって、今まで以上に家庭は明るくなった。

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