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悪夢と女神  作者: 小鎌 弓


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18/22

19.祈り

 それから、テオの両親の墓参りにも行った。

 テオが生まれ育った村の共同墓地だ。テオの記憶を頼りに、少し迷いながらも、ようやく目的の場所にたどり着いた。古い石碑が立ち並ぶ、素朴で小さな共同墓地だ。


 墓に眠る両親に2人は祈りをささげた後、テオの生家を探した。しかし、かつて家があった場所には家は無く、草が伸びていた。

 2人が無言で立っていると、隣のおばちゃんが出てきて、テオに気づいた。

「あらまあ、テオちゃんじゃないの!まあ、こんなに大きくなって~!」

 隣のおばちゃんは、白髪が少し増えた以外は、以前と変わらず、気さくだった。2人を、喜んで家の中に招き入れた。隣家の中は昔の記憶のままで、テオは子供の頃を懐かしく思い出した。

 テオは、両親の墓参りに来たことや 彫刻職人として働くことなどを伝えた。

「そうかい…大変だったのに、立派になったもんだねぇ。きっと天国のご両親も喜んでらっしゃるわねぇ。」と、おばちゃんは感慨深げに言った。


 おばちゃんは、ハッとした顔になり、少しだけ声を潜めて言った。

「そうそう、テオちゃんのお母ちゃんを殺した犯人が、3年ほど前に捕まったのよ!」

 おばちゃんによると、母が殺害された後、数年の間に同じような手口で5人の女性が殺害されたらしい。自警団が組織され、村を巡回しているとき、女性が襲われている現場に遭遇して、犯人を取り押さえたそうだ。犯人を尋問したところ、過去の犯罪を次々と自供したという。

 犯人は村はずれに住む変わり者で、金品を奪うために 力の弱い女性を狙ったらしい。

 母が亡くなった当時は、根も葉もない噂に傷つき胸を痛めた。母親の死が、何か後ろ暗い理由によるものかもしれないという不安を持っていた。

 しかし今、母親には何の非もなかったと真相がわかり、テオは救われる思いがした。


 その後のおばちゃんの言葉にも、テオは驚かされた。

「孤児院のディオン先生のこと、覚えてる?ディオンは私の甥っ子なの。ディオンはいつも、テオちゃんのことを気にかけてたわよ。」

 当時、自分は殻に閉じこもり、ずっと拒絶していたのに、先生は気にかけてくれていた??・・・そんな、馬鹿な!

 驚くテオに、隣のおばちゃんは笑顔で言った。

「せっかくだから、孤児院にも行ってきなさいよ。」

 テオとアンナは、孤児院に寄ることにした。


 孤児院の門の前に立つと、辛い記憶がよみがえり、テオの足取りは重くなった。心臓は激しく鼓動し、呼吸は早く浅くなる。アンナは不安そうにテオを見る。テオが引き返そうとした時、中から声がした。

「あれ?テオじゃないか??」

 ディオン先生が門前にいる2人を見つけた。

「いやぁ、久しぶりだなぁ!大きくなったなぁ!・・・隣は彼女かい??」

 ディオン先生は、昔と変わらず、大きな声でよく笑い、太陽のように明るい。ただ、昔より少し太ったようだ。

 苦い記憶がフラッシュバックして固まっているテオの代わりに、アンナがアカデミアのことなどを手短に話した。

「やっぱり、最初は孤立してたのかー、心配してたとおりだなぁ。」

「でも、可愛い彼女ができてよかったなぁ!」

 アンナのペンダントを見て、ディオン先生は豪快に笑いながら言った。

「お嬢さん!テオにこれだけの腕前があれば、将来は安心だよ!」


 当時、あんなに拒絶していたのに、ディオン先生は全く気にせず笑っている。そういえば、先生に勧められて、アカデミアの彫刻過程に入ったのだった・・・・。ディオン先生がいなければ、今の自分は無かったかもしれない・・・。

 テオは、初めてディオン先生に喋った。

「先生、ほんとにありがとうございました。」


 長屋に戻った。

 テオは不思議な気分だった。

 母は、ただ不運なだけだった。

 エレニ先生もディオン先生も、自分のことを気にかけてくれていた・・・。自分は心を固く閉ざしていたのに、先生は見守ってくれていた・・・・。

 テオは、過去の苦悩や痛みが、淡雪のように溶けていくのを感じた。


 そして、晴れた、朝。

 2人は神殿の円形広場に行き、あの11月の女神像の前で結婚の誓いを立て、祈りをささげた。アンナの胸元の花のペンダントは、陽の光を受けて輝いていた。

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