14.巨大竜巻
そんなある日。
不吉な暗雲が現れ、瞬く間に大きな渦となり、不気味な唸りを上げながらアカデミアへと向かってきた。見たこともない巨大な竜巻が、雷鳴と共にものすごいスピードでやって来たのだ。
アカデミアの建物が、まるで粘土細工のように簡単に破壊されていく。男子棟の一部と女子棟の一部、そして女子の寄宿舎の半分ちかくが、一瞬にして瓦礫の山と化して、竜巻は通り過ぎた。
あちこちで悲鳴が上がっている。混乱した生徒たちは皆、友の名を叫び必死に探している。本来、男子は女子棟には入っていけないが、このときばかりは男性講師も大勢で女子棟へ救助に行った。
テオは、必死にアンナを探す。また大切な人を失うかもしれない恐怖に支配され、彼の心臓は焦燥と畏怖で激しく脈打っていた。
アンナは瓦礫の中で倒れていた。腰から下が大きな倒壊物に挟まれている。胸元の花のペンダントは、何事もなかったかのように静かに光っているが、アンナは動かない。テオは周りの大人たちと協力して重い瓦礫の中からアンナを助け出した。
「気を失っているぞ、早く医者へ!」と講師が叫ぶ。
「ボクが連れていきます!」
テオはアンナを抱きかかえて、走り出した。ひたすらアンナの無事を祈りながら、アカデミア近くの診療所へと駆け込んだ。
小さな診療所は、負傷者であふれかえっていた。医者や手伝いの者たちは、血にまみれながら、次々と運ばれてくる人々の手当てに当たっている。テオは、アンナを抱えたまま、順番を待った。彼の腕の中で、まだアンナはぐったりとしている。アンナを失ってしまったら・・・彼の心は、絶望で再び深い暗闇に飲み込まれそうだったが、花のペンダントの光が小さな希望を灯してくれた。
そのうちにアンナの意識が戻った。テオは暗黒から解放され、安堵した。「大丈夫?痛いところは無い?」
「うん、大丈夫です。・・・助けてくれたんですね、ありがとうございます」
長い待ち時間の後、ようやく医師がアンナを診てくれた。大きなケガや骨折は見当たらない。医師は、打撲と内出血と診断し、「安静にして様子を見るように」とだけ言い、すぐに次の重症者の手当てへと向かった。
診療所のベッドは、重症者で埋まっていた。アンナのような比較的軽症の患者は、廊下に寝かされるしかなかった。冷たい石の床に、薄い毛布一枚しかない。女子の寄宿舎は竜巻で半分倒壊していた・・・・。
「こんな、廊下で寝てるくらいなら・・・良いところがある」
テオは優しく声をかけ、アンナをそっと抱き上げると、診療所を出て歩き始めた。
向かった先は、彫刻倉庫だった。アカデミアの中では診療所に最も近く、とても静かで、テオにとって最も安全な場所。
アカデミアの彫刻倉庫は意外なほど広く、日差しがたくさん入って明るく、とても暖かかった。外観は地味な石造りの倉庫だが、キレイに整頓されていて、古さを感じない。中ほどにちょうどいい大きさの平らな石材があり、その上に麻袋や布を乗せて急ごしらえのベッドを作り、そこにアンナをそっと寝かせた。
アンナは、長時間足を挟まれていたせいで痺れて、全然歩けなかった。見知らぬ場所での不安と緊張をほぐすように、テオは少しずつ面白い話をしてくれた。アンナは、また新たな一面を知ったのだった。
それから、食堂から水と食べ物を持ってきてくれた。テオの優しさに感謝しながら、ゆっくりと食事をした。
しかし、日が暮れる頃になると、アンナの体に異変が起きた。熱が出始めたのだ。時間が経つにつれて、身体がどんどん熱くなり、悪寒で震えだした。テオは顔色を変え、すぐに診療所へ医師を呼びに行った。
診療所は相変わらず多くの負傷者でごった返していた。医師は熱以外の症状がないと知ると、解熱剤を渡し「水分をたっぷり摂るように」とだけ言って、他の重症患者の元へと戻ってしまった。
テオは、解熱剤を手に倉庫に戻った。熱にうかされているアンナに、解熱剤を飲ませた。アンナは意識がもうろうとしているようで、ぐったりしている。過去の悲劇が再び現実になるかもしれない恐怖に立ち向かいながら、何度も冷たい水を飲ませ、濡れたタオルで熱い額を冷やし続けた。
なかなか解熱剤の効果が現れず、最悪のシナリオが脳裏をかすめる。テオは、ありとあらゆる神に祈りながら、一晩中、眠ることなくアンナを必死に看病し続けた。
長い夜が明けた。朝焼けの光が倉庫に差し込む頃、アンナの熱は下がり始め、意識が戻った。アンナがゆっくりと瞼を開けると、目の前に心配そうなテオの顔があった。
「・・・・テオ?」
「あ、目覚めたんだね!よかった!」
アンナは、自分の額に手をやると冷たいタオルに触れた。
「一晩中、看病してくれたんですね?! あ、ありがとうございます」
アンナが心からの感謝を伝えると、テオは安堵の表情で小さく微笑み、
「待ってて、朝食をもらってくるよ」と食堂へ向かった。




