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1.母の失踪、父の他界

 古代ギリシアの、とある街。エーゲ海から吹き抜ける穏やかな風が心地よい。この街は、陶器や金属細工、織物、革製品、宝飾品などの製造が盛んで、それらの交易で街は潤っている。一方、街の中心から外れると、そこは広大な畑が広がるのどかな風景である。


 テオドロスは孤高の美少年である。他人を拒絶し、美しすぎるその顔がほほ笑むことは無い。しかしそれは彼の生い立ちのせいである。


 テオは7才、のどかな村に住んでいた。美しい母と優しい父、4歳の妹リリアと生まれて間もない弟の5人家族だ。テオは毎日、妹と遊んではしゃぎ、弟をあやして笑う、元気いっぱいの少年だった。

 お隣のおばちゃんは気さくな人で、家族ぐるみの付き合いをしていた。おばちゃんはお菓子作りが大変得意で、隣から香ばしい香りが漂ってくると、兄妹はお隣へ遊びに行き、お菓子をごちそうになっていた。


 街の石畳に冷たい風が吹き始めたある日、母はいつものように市場へと出かけた。

「すぐに戻るから、いい子にして待っててね」と、いつもの優しい笑顔で兄妹に言い残して。

 しかし、どれだけ時間が経っても、母は帰ってこなかった。


 仕事から帰った父と一緒に、テオは母を探した。幼い妹と弟は、お隣のおばちゃんが預かってくれた。ランプの灯りを頼りに、付近を捜索した。冷たい夜風が吹き抜け、テオの小さな手は冷たくかじかんだ。

 次の日もその次の日も、父とテオは母を探した。村の人たちも手伝って、かなり遠くまで捜索した。

 そして、雪がちらつく朝・・・・家族の祈りもむなしく、村はずれにある荒れたオリーブ畑の隅で、母は変わり果てた姿で発見された。他殺の跡があった。

 突然の悲劇は、小さな家族を奈落の底に突き落とした。


 最愛の妻を失った父は、男一人で幼い3人を育てていくのは、あまりにも困難だった。特に、生後半年ほどの弟の世話は、どうすることもできない。

 苦渋の決断の末、仕事先の同僚で子供のいない夫婦に、末の弟を託すことにした。いつか、生活が安定したら必ず迎えに行く。そう心に誓いながら、父は小さな息子を涙ながらに手放した。


 こうして、5人家族は、父とテオ、そしてリリアの3人だけになった。幼いリリアは母の死がまだ理解できず、「ママはどこ?ママに会いたい」とよく泣いた。

 美しい母が悲劇的な死を遂げたことで、村には様々な噂が広まった。好奇に満ちた根も葉もない憶測や、無責任な心ない言葉が、残された家族をさらに苦しめた。テオの幼い心にも、その冷たい言葉の刃は深く突き刺さった。

 優しかった妻への冒涜とも言えるその中傷に、父は深く傷ついた。疑心暗鬼になり、憔悴していった。相変わらず兄妹には優しかったが、口数が減り、ワインを飲む量が日ごとに増えていった。

 お隣のおばちゃんだけは、以前と変わりなく、テオとリリアにお菓子を振る舞ってくれた。


 ひどく暑い夏が過ぎた秋のある日、さらなる悲劇がテオとリリアを襲った。父が仕事先で倒れ、そのまま意識を取り戻すことなく、帰らぬ人となったのだ。

 お隣のおばちゃんは葬儀などいろいろ手を尽くしてくれた。テオは8才にして、家族は5才の妹だけとなってしまった。2人は孤児院に行くことになった。

 別れの日、隣のおばちゃんは、お菓子をたくさん持たせてくれた。おばちゃんは2人を不憫(ふびん)に思い、泣いていた。テオも涙が止まらなかった。よく分かっていないリリアは、たくさんのお菓子に喜んでいた。

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