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#08-01 混線都市(サイバー・スパーク)


『#08-01 混線都市サイバー・スパーク



昼下がりの中心街は、いつもより騒がしかった。


信号は止まり、

電光掲示板は点滅を繰り返し、

バスは交差点のど真ん中で立ち往生している。

スマートフォンは圏外を示し、

街のあらゆる「日常」が、一斉に沈黙していた。

誰もが「何かおかしい」と気づくには、十分すぎる異常だった。




【某施設地下・サーバー室】


静かな操作音が響くなか、

無表情の男が手元のタブレットに次々とコマンドを入力していく。


「第3層システム侵入完了。

都市交通信号制御、現在89%ジャック中。

15秒後、信号遮断――完了です。」

ソーマン・コーディ――通称、総務くん。

(株)悪の組織の情報操作担当。

その手はわずかも止まることなく、淡々と任務を遂行していた。


その背後で――


「えっ!?ちょっ……今、電車止まりました!?

そんな簡単に!?!? さすが総務さん……!!」


混乱のなかで叫んでいるのは、新人ジョシュ。

デスクの端から、震えるようにモニターを覗き込んでいる。

「方法さえ知っていれば、容易いことだ。」

「なにそれ!?こっわ!!」




【同時刻・都市警察署裏通用口】


一台の黒いバンが滑り込むように停車し、ドアが開く。

山田が落ち着いた声で言い終えるよりも早く、

隣のノースはマチェーテを肩にかけながら、

バンのドアを蹴るように開けた。

「久々の大暴れってやつだなぁ……!」

山田はため息をひとつつくと、手元の端末に目を落とした。

「……データ室のセキュリティは旧式。突破自体は容易なはずです」

「なら、余計な邪魔が入らなきゃ余裕!」

ノースは、にやりと笑った。

「陽動任務大得意の俺様の出番ってワケだな…!」

ドカン!という爆音と共に、ノースが通用口をぶち破って突入する。

山田はその背中に目もくれず、スーツの裾を整えて歩き出した。


「……。」




警察署のエントランスに勢いよく投げ込まれたのは、

おなじみのスモークグレネードだった。


白い煙が一気に広がり、視界が奪われる。


混乱するエントランスホール。


「よぉ、邪魔するぜ!!」


煙の中から飛び出してきたのは、ノース。


その姿は、まるで爆炎から現れた獣のようだった。


彼は大きく跳躍したまま、

警察署長と思しき年配の男の肩口に――着地。


ズドンッ!


巨大なマチェーテが、肩を貫通して床に突き刺さる。

血が弧を描き、悲鳴が響いた。


騒然とするエントランス。


だが、その中で――


たった一人、即座に銃口を正確にノースへと向けた女刑事がいた。

彼女の手にあるのは、Sig Sauer P226。

「おっ?」

ノースは軽く身をひねり、発砲された弾をよける。

「筋がいいねぇ、女刑事!

……でも、当たんねぇんだよなぁ。」

スタイン刑事はすぐさま距離を取り、

そのまま床へと転がるように身を引いた。


ノースがマチェーテを

血飛沫を撒き散らしながら――再び振り上げる。

その刃が振り下ろされる、まさにその瞬間――


「はぁい、お待たせしましたァ☆」


甲高く、場違いなほど明るい声が

エントランスのスピーカー越しに響き渡った。


「みんなの視線、独り占めっ♡♡」


スモークの向こうから、ピンクのアイドル衣装を纏った少女が

軽やかにステージから飛び降りるような動作で現れる。


両手を大きく広げてポーズを決めた彼女は、キメ顔で叫んだ。




「ナンバーシックスヒーロー!


らぶたんこと、ラブリータ、♡登場♡ですぅ〜〜〜☆」




ド派手なSE、きらきらした演出用ライト、

なぜか機材ごと移動してきた中継カメラ――

血の匂いと煙が充満する戦場のど真ん中で、

彼女だけが、まるでステージに立っているかのようだった。


「はぁああぁぁぁ!?」


ノースが嫌悪感をあらわにし、よろめく。

「ナンバーシックス!」

「ラブリータだ!」

「助かった……!」

エントランスに響く希望混じりの歓声。

ラブリータは気をよくしたのか、ノースの前に躍り出る。


「らぶたんのお願い、きいてくださぁいっ♡」

ノースの笑顔が引きつり、額に汗がにじむ。

「おとなしく、捕まってくださぁい♡」


――「ナンバーシックスの目を見てはいけません。」


山田の冷静な声が、脳内で反復される。

「……わかっちゃいるけどよぉ……!」

ラブリータの視線が、ノースの瞳をまっすぐ射抜いた。

その瞬間、ノースの動きがぎこちなくなる。

歯を食いしばり、身体を強張らせながらも、足だけがかろうじて動いていた。


「今だ!拘束しろ!!」


周囲にいた警官たちが一斉に飛びかかる。

「ちっくしょぉぉっぉぉぉぉ!!」

動かない腕にはまだマチェーテが握られている。

そのままノースは全力の回し蹴りを放ち、警官たちをまとめてなぎ倒した。



吹き飛ぶ警官、悲鳴、割れるガラス。




「ラブたんを拒否るなんて……やりますねぇ?」




ラブリータは、笑顔のまま目薬を差した。


その目元には、ほんのわずかに充血の色がにじんでいた。




「……地味にきつい……」

「だから目を見るなと言ったんです。」

その声とともに、わずかに残るスモークと埃を揺らして、

天井の排気口から一人の男が静かに降りてきた。


山田――手には、なぜか血の付いた鉄パイプを持っている。

「ぐうの音も出ねぇわ……」

体の自由が戻ってきたノースが、うなだれながら呟く。

その横を、何事もなかったように山田が通り過ぎる。

鉄パイプを、スッと持ち上げたその所作は――

戦場に似つかわしくないほど、優雅だった。


「あれぇ~?また悪者さんですかぁ?

あなたも、らぶたんのお願い、きいてくださいぃ♡」


ラブリータの大きな瞳が、山田を射抜く。

「武器をすててくださぁい♡」

山田は、何も言わず――鉄パイプを静かに、下ろした。



が。



次の瞬間。


その鉄パイプを――


ラブリータのピンク色のピコピコハンマーが、真正面から受け止めた。




カーンッ!


金属音が一瞬だけ、鈍く響く。

(……はぁぁあああ!?!?)

(なんだこいつ!!なんで、“ウルチワアイ”が……効かねぇ!?)


「残念ながら、俺にはそういうの、効かないんです。」

山田の声は静かだったが、その一言でラブリータの笑顔が微かに揺れる。

ピコピコハンマーで鉄パイプを受け止めたラブリータは、

その裏で必死に腕に力を込めていた。

(ありえねぇ……!

こんなこと、一度もなかったのに……!!

まさかこいつ……“洗脳耐性持ち”?!?)

「さっっっすが山田!!

“欠落欲求”!!」

どこからともなくノースの茶々が響く。

「黙れバカ犬。」


ぴしゃりと返した山田の鉄パイプが、

ピコピコハンマーの返しを受けて――


ぽきり。


不穏な音を立てて、真ん中から折れた。


折れてしまった鉄パイプをぽいっと捨てて無表情のまま懐から銃を出す。

「あまり残ってないのですが…。」

ラブリータがピコピコハンマーを構える。

鉄パイプを破壊できるほどの威力。

ただのおもちゃでは、ない。




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