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龍(どらごん)になった先輩 巳年IF

作者: sa

前作→【短編集】完璧な星 ep.3 「どらごんになった先輩」

※注

このお話は「どらごんになった先輩」のIF続編になります。来年の巳年に合わせて作ったもしものストーリであり、明確な続きではありません。というのも,本来「どらごんになった先輩」は一作で完結するつもりで作ったストーリーであるためです。ただキャラに愛着が湧いたため,続きを作ってみました。↓を見てくださるとより楽しめると思います。前書きが長くなりました。読んでいただけると幸いです。

先輩がどらごんになってから1年が経った。先輩とは1年前のあの日から会っていないが,あれから毎月のように郵便物が届くのであまりお別れという感じはしない。一人暮らししている子と親といった感じだ。もっとも毎月送られてくるのは仕送りではなく,先輩が好きな謎の玉なのだが。

「私,中間管理龍ちゅうかんかんりどらごんになったから,稼ぎがいいの」

そう書かれた手紙とともに送られてくる玉の数は日に日に増えていき,部屋中を埋め尽くして,とうとう置き場がなくなった。捨てるのは可哀想かなと思っていたが、そろそろ限界。こんなにいらないと先輩に伝えられたらいいのだが、先輩は天界にいるためそれは叶わない。いつだって私と先輩の関係は先輩からの一方通行なのだ。


✖️✖️✖️


12月31日,今日は大晦日。私は後輩と家で年越しをする予定だ。彼女は私のゼミの後輩で,つい先日のこと,彼女の方から告白され,私にとって初めての恋人となった。初めてじゃないだろって?あの龍はノーカウントである。後輩が家に来るので,私は張り切って掃除をしたのだ。大量の玉は押入れに詰め込んだ。ボールプールのようだった私の部屋は,一角が若干占い館になっている点を除けばなんの変哲もない部屋になった。押入れさえ開けられなければ大丈夫だろう。


チャイムが鳴る。

胸が弾む。

ドアを開けると。

「私,どらごんだから,年末年始のご挨拶にきたの」


✖️✖️✖️


龍の姿でない先輩はあの時から何も変わらない。私の淡い初恋の記憶のままであった。

危ないっ!!!

危うく絆されるところであった。

龍もこの涙も,ノーカウントなのである。


「私,どらごんだから,変化の術を会得したの」

そういって先輩はその場でくるりと回ってみせた。

「これ,今月分。」

そういって先輩が差し出してきたのは先月より一回り大きくなった段ボール箱,,。

中身は言うまでもなかった。

あ、ありがとう。

苦笑いで受け取る。とんでもない重さである。

「せっかく来てもらったところ悪いんだけど,今日はちょっと用事があるから,明日とかどうかな」


「私,どらごんだから,立ち話は嫌いなの」

私の提案はかき消され,先輩は私よりも先に部屋に上がる。自分の家かのようである。呆然と立ち尽くす私をよそに部屋の中から先輩の起伏のないがらも大きな声が聞こえた。


「玉がない」

そう言うと先輩は玉を探して部屋中を荒らし始めた。せっかく片付けた部屋が!!!!!!

先輩に事情を説明し,押入れの中の玉を見せると先輩は間髪入れずに玉を取り出し始めた,雪崩のように崩れていく玉。

今説明しただろ!!やめろ!!!!

私が先輩を止めようと片腕を掴んだ次の瞬間,先輩は片方の腕で私に強烈なアッパーカットを打ち込む。その鉄拳は正確に私の顎を打ち抜き,私は宙に舞った。

意識が朦朧とし,立つことができない。

「私,どらごんになったから,手加減できるの」

「握力も今は3tあるから」

先輩はもはや龍である。握力30kgで威張り散らかしていたあのかわいらしい先輩はもうどこにもいないのだ。


私は全てを諦め、先輩の意向に従った。

私の部屋はふたたびボールプールとなった。

今月分の玉が増えているので,片付ける前よりも酷い。

「うん。この方が絶対にいい。」

そう話す先輩はなんだか楽しそうであった。昔よりほんの少しだけ,表情が豊かになった気がする。

チャイムが鳴った。


✖️✖️✖️


間違いなく,後輩である。

龍との過去はノーカウントであり,先輩とは,何もやましいことはないのだがこの状況。説明しても納得してもらえないだろう。まさに万事休す。私の初恋は押入れの玉のようにあっけなく崩れゆくのだ。

「私,どらごんだから,しっかりと挨拶してくるの」

先輩が玄関に掛けていく。

こいつはほんとに、、。龍といえど所詮は爬虫類,人間の感情なんて理解できるわけないのだ。


先輩と後輩が玄関で話している。私はいつ後輩の怒号が聞こえてくるかと怯えていたが,しばらくして,先輩が後輩を連れて私の部屋に入ってきた。後輩はまっすぐな眼差しで私を見つめて

「先輩!私,今日中にへびにならないといけないんです!!!」

確かにそう言った。


あいつやりやがった!

洗脳である。

先輩は洗脳能力を持っており,私が過去に先輩と過ちを犯したのもその洗脳能力によるものであった。

後輩は目を輝かせて私の部屋に転がる玉を物色し始めた。


先輩,彼女の洗脳を解いてあげてくれ。

俺のためにしてくれたのは、、ありがとう。おまえ思ったより優しいんだな。でも洗脳はダメだ。わかってるはずだろ?


「私,どらごんになったから,もう洗脳なんてしないの」


先輩は大真面目な表情で言う。


「彼女,蛇属なの,だから巳年になる前に蛇にならないといけないの」


「もう後がないんすよ!!!先輩!!!助けてください!!!」


ああ。洗脳であった方がどれだけ良かったか。

そんなに真っ直ぐな瞳で俺の純真を利用するな。


しかし龍の次は蛇とは。干支か?干支なのか?

干支だ。ふざけているのか?


「私,どらごんだからわかるの。この子は玉のパワーを感じ取ってあなたに接触を試みた」


いうな!!わかってるんだよそんなこと!!!


「その通りです!!!!」


アッパーカットよりも強烈な後輩の一言に、私は意識が朦朧とした。


先輩は

「この玉は私の龍力どらごんパワーをふんだんにとり込んでいるから,これを使えば蛇になるなんて容易。」

へびどらごんの下位互換だからね」


「なるほど!!目から鱗です!!師匠!!!!」 


「まぁ。どらごんだからね。」


先輩はナチュラルに差別主義者であったが,後輩は嫌な素振りを見せずに,先輩を敬ってみせた。これも演技なのだろうか。先輩は相変わらずポーカーフェイスだが,口ぶりは隠せない。完全に有頂天になっている。


✖️✖️✖️


「何を迷っているの」

「早くこの玉を使うべき」

そういって先輩は自らのパワーが込められているとされる玉を後輩に押し付けようと追いかける。

「師匠!まだ心の準備が!!!!」

そう言って後輩はのらりくらりと交わす。最初の方は追いかけっこ程度であったが,段々と2人の追いかけっこは白熱さを増し,全速力で部屋中を飛び回るようになっていた。

後輩はもはや拒絶の意を隠そうともせず、やめてください!やめてください!と叫んでいる。

やがて部屋の中に竜巻が発生する。荒れ狂う家具と無数の玉。私は飛んできた玉を華麗に避ける。しかし避けた先を走っていた先輩に蹴り飛ばされ、強烈に天井に叩きつけられる。

ここ俺の部屋ぁ!!!!!!

そう叫んだと同時、

「あった!!」

突如,立ち止まり,発光する後輩。

この感じは,先輩が龍になった時と同じである。やっと終わったのだ、、。


   \蛇/


後輩は蛇になった。


おめでとう!良かった!良かった!それでは良いお年をお過ごし下さい。もう2度とこないでね。


「気安く話しかけるな」

「我はへびを超越せし存在,蛇神へびがみである。」


こいつ,一皮剥けて化けの皮を剥がしやがった!!!!調子乗るのも大概にしろよ!!

先輩!やっちゃって下さい!!!


しかし,先輩はまさにへびにらみにかかったといった様子で,震えながら。

「これ,ほんの賄賂です。受け取って下さい」

そう言って先輩はあれほど大切にしていた玉を全部差し出してしまった。先輩が敬語を使えたという事実をここで初めて知る。


後輩もとい蛇神は見逃してくれるらしく、玉を受け取った後,テレポートで一瞬で消えてしまった。


✖️✖️✖️


先輩はこの一件以降,再び私の部屋に住み着くようになってしまった。


ごめんなさい。玉,全部無くなっちゃって。

むしろそれだけが今回の件で良かったことであるのだが,先輩は玉を蛇神もとい邪神に渡してしまったことを酷く気に病んでいるようだった。


どうやら先輩たちの住む天界の中では

蛇<龍<蛇神<龍神といった序列があるらしい。先輩は龍神になって蛇神から玉を取り返すつもりなのだ。おまけに龍神になれば,握力は300tになるとのことだ。


正直,玉のことはどうでもいいのだが。


「私,どらごんだから家事はしないの。」

「でも,龍神りゅうじんになるから、皿洗いくらいはするの」


その小さな小さな志に敬意を表し,私は先輩の居候を許すことにした。

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