第6話 墜落偽装作戦
。新たな世界の宇宙空間に出現したアースノアは、速度を落としてゆっくりと宇宙空間を進む。
「速力低下、現在微速前進中…機関の冷却を開始します」
「超次元障壁出力16%まで低下」
サンとルナが淡々とアースノアの報告をする中、俺は制御室にある、監視カメラのモニター映像で、攻撃を受けていた六両目を確認していた。
見た所では、車両の表面にも内部にも異常は確認されていなかった。
アースノア、物理装甲がアホみたいに硬いんだよなぁ…前なんか、次元障壁を張らずに隕石の直撃を無傷で耐えたし…
大分前の世界での出来事を思い出しながら、落ち着いて辺りを見渡した。
「土星だったか…」
現在列車が走っている場所が、土星のリングの上だったことに気づいた。
「これなら、ワープする必要は無いな」
「5時方向から特異点反応を確認」
土星を見つめながら、ルナから報告を受け取り俺は進路を決めた。
「よし!折角だ。このまま土星の輪に沿って回った後、地球に向かうか!」
汽笛を鳴らしながら、アースノアは土星のリングの上を通って地球に向かうことにした。
機関の冷却を同時に行いながら、アースノアは土星のリングの上を回るように少し走った後、太陽が見えてから、太陽に向けて走り始めた。
「機関はどうだ?」
「走行しながらなので、冷却に時間がかかっていますが、地球に到着する頃には完了していると思われています」
「そうか、それなら良かっ ドォーーン!!
サンから機関の冷却状況を聞き終えて直ぐ、音ともにアースノアが大きく揺れた。
「どうしたルナ!」
「前方、1時方向に感あり。攻撃を受けています」
ルナの報告を聞いている間も、アースノアは大きく揺れる。
「こいつらか!」
制御室のモニターに、アースノアを攻撃している連中を映し出した。
モニターには、潜水艦のような葉巻型の宇宙艦が、艦隊を組んでいる姿が映っていた。
大型艦が一隻、中型艦が二隻、小型艦四隻の計七隻で編成された艦隊だ。
艦艇の武装などに興味はあるのだが、一番目が引かれる箇所がある。
それは全ての艦艇の両舷にそれぞれ、赤地の上の白円の中に黒のハーケンクロイツのマークが描かれていた。
「ナチスだよな…あのマーク」
「はい。1933年のドイツに擡頭したファシスト政党、国家社会主義ドイツ労働者党が使用していたマークです」
俺の呟きに、ルナが反応してくれる。
なんだろう…ナチスが居るだけで嫌な予感しかしない……
「おっと!…考えるの後だ!今はこの場から離脱する!ルナ、次元障壁は?!」
一人考え事をしていたが、アースノアが再び揺れたことで俺は考えるのをやめて、今起きていることに対処することにした。
「現在超次元障壁、出力20%まで回復。敵の攻撃は光線砲だと思われるため、今の状態でもある程度は防ぐことは出来ますが、数が多いため衝撃までは防ぎ切る事はできません」
俺が考え事をしている間も、ルナは敵艦の解析を行ってくれていたようだ。
「よし、敵と一気に距離を取る!サン、短距離空間跳躍なら、今の機関の冷却状況でも行けるよな?」
「はい可能です。準備を開始します」
ナチスの艦隊から逃げ切るため、サンに頼み短距離空間跳躍の準備を始めてもらう。
「短距離空間跳躍の準備整いました」
「よし…ワープ先は地球軌道だ!」
ワープ先を伝えると、ルナは制御室のタッチパネルを器用に触り始めた。
「座標指定完了」
「ワープ!」
ルナからの報告を受け、俺は機関室にあったレバーを引いた。
艦隊から攻撃を受けながらも、アースノアは地球軌道に向けて、短距離空間跳躍を行った。
○
ワープを終え、地球の軌道上に出現したアースノアは、ゆっくりと地球に向けて降り始める。
「さてと、何処に降りようか…」
速度を落としながら、アースノアが降り立てそうな場所を探し始める。
だが、そう簡単に行くわけが無い。
再び車体が爆発音と共に大きく揺れる。
「前方2時方向、複数の艦影を確認。その数、大型艦2隻、中型艦4隻、小型艦7隻の艦隊です」
「さっきとは別の艦隊か…!」
すぐに解析を行ってくれたノアの報告を受けるが、その間も雨のように光線がアースノアに降り注いでくるため、詳しく聞くことは出来なかった。
「サン、地球に急降下!それと同時に車体をロールして、やられたように欺け!」
「了解」
サンは俺の指示通り速度を上げつつ、アースノアを敵光線の着弾と共に何度も回転させ始める。
酔いそうだが、アースノアには重力管制システムが搭載されているから、幾分かはマシだろう。
「地球に不時着する!全員何かに捕まれ!」
アースノアが大気圏突入した頃に、俺は車内放送で各車両にそう報告した。
「サン分かってるよな!」
「はい。海の中に墜落したように偽装します」
墜落を装うために、サンはそのままアースノアを回転させたまま、海の中へと突っ込ませた。
「光学迷彩起動!浮上してくれ」
アースノアが海の中に深く潜った後、俺はアースノアの光学迷彩を起動させ、そのまま空へと浮上させた。
「ふぅ…これで誤魔化せただろ……このまま近くの陸地に停車させてくれ」
「了解」
海の中からアースノアが浮上したことで、俺は一息ついた。
「今日はもう寝る…後は頼むサン、ルナ」
「「お任せ下さい」」
ドッと疲れが来たため、俺はサンとルナに後のことを任せ、自部屋で寝ることにした。