第4話 獣の少女
「さて、これからどうしようかしら…」
野原のような場所に降り、そこで停車しているアースノアの食堂車にて、俺らはマリナ姐さんが入れてくれた紅茶を飲みながら、この世界での方針を話し合っていた。
「私の世界のように、さっさと次元跳躍ってやつすればいいんじゃないの?」
息を吹きかけて紅茶を冷ましていたノアは、次の世界への次元跳躍を提案する。
「それもいいけど、アースノアは今、食料や資材が不足しているのよ…人も増えたし、少しでもいいから食料か資材を揃えないと…」
マリナ姐さんは紅茶を飲みながら、ノアにアースノアの現状を伝える。
「なんでそうなってるの…?」
不思議そうな顔をしながら、ノアは俺を見つめてくる。
「ノアの世界に来る前に、アースノアの食料や資材を使う機会があってな…それ以降まともな補給が出来てないんだ」
ノアに食料と資材がない理由を説明する。
まぁ、紅茶だけは何故か常備されてるけど…
「まぁ、どちらにせよ。暫くは機関の点検で動けないから、その間に探索するとしよう」
飲み終えたカップを皿の上に起きながら、俺は食料並びに資材集めのため、探索を行うことにした。
「じゃあ、列車はギアノイド達に任せて、私達とネプチューンで探索と行きましょ」
「ですね…では、最後尾に行きますか」
「最後尾…?」
探索を行うため、俺達は最後尾にある収容車に向かった。
○
「お待ちしておりました!」
収容車に辿り着くと、ギアノイドのネプチューンが出迎えてくれた。
「出発する準備は既に整ってます!」
車内の中央には、赤色の五人乗りの多機能型探査機であるレッドの姿があった。
「今回、レッドはキャタピラカスタムに仕上げております!」
ネプチューンの言う通り、レッドの足はキャタピラ仕様になっていた。
「それじゃあ、探索を始めるか」
運転席にネプチューンが、助手席に俺、後部座席にはマリナ姐さんとノアが乗り込んだ。
「多機能型探査機レッド、発進します」
車両内にサイレン音が鳴り響き、車両の側面にあるハッチが開く。そしてレッドは、そのまま台に乗ったまま、外にスライドして出て、そのまま地面に降り立った。
「それでは、運転を開始します」
ネプチューンの運転で、レッドは紫色の森に向けて動き始める。
「はぁー…すごーい…」
レッドがキュラキュラとキャタピラの音を響かせる中、目を輝かせてノアは外を眺めている。
黒焦げた大地しか見ていなかったノアにとって、この光景は異様だか新鮮なのだろう。
「ネプチューン、大気問題はないか?」
「はい。現在、大気中に有害な成分は確認されていません」
「それなら、特殊服の装着は必要なさそうだな」
ネプチューンの報告を受け、俺は後ろに積んでいた人数分の特殊服を見ながら話した。
特殊服はあらゆる環境から人を守れるように作られている作業服で、簡単に言えば宇宙服の上位互換だ。
「さて、何か食料になりそうな物は~…」
目を凝らして食料を優先的に探す。
食料を探していると、
「待ってあそこ!」
ノアが何かを見つけたようで、ネプチューンはレッドをその場で停車させた。
「おい待て!」
レッドが停車するや否や、ノアは俺の静止を無視してレッドから飛び出し、紫色の森の中へと走り始めた。
「元気一杯ね」
マリナ姐さんは微笑ましそうにノアのことを見ているが、悠長にしている余裕は無い。
街中ならまだ良いが、ここは未知の森だ。何があるか分からない以上一人で向かうのは危険だ。
「マリナ姐さんはネプチューンと共に、ここに残ってください!俺が向かいます!」
レッドのことをネプチューンとマリナ姐さんに任せ、俺はノアの後を追った。
「大丈夫!?ねぇ!?」
武器を身構えながらノアが向かった方向に向かうと、そこにはノアと地面に倒れ込んでいる子供の姿があった。
しかし、その倒れ込んでいる子供の姿は、普通の人間の姿とは違っていた。
頭は鬼のような2本の角が、背中からは龍のような翼が、両手は身体の大きさに似合わないほどデカくゴツイ上に鋭い爪が備わっており、更に太くゴツイ尻尾が生えいる。
竜人の少女と呼んでよいだろう。
「龍介どうしよう!この子、酷い怪我だよ!」
「見せてみろ…」
ノアに言われ、俺は少女の容態を確認した。
少女の身体には、無数の切り傷や内出血している場所などがあった。このまま放置すれば、少女は確実に死亡するだろう。
「アースノアに連れて帰るか…」
「早く連れて帰ろ!」
流石に見過ごせなかったため、ノアに急かされながら俺は少女を背負って、マリナ姐さん達と合流するためにレッドに戻った。
○
「あらおかえり」
少女を背負ってレッドに戻ると、マリナ姐さんが何種類かの果実をネプチューンと共に、レッドに乗せていた。
「マリナ姐さん、怪我人を拾ったから、至急アースノアに戻りますよ」
「わかったわ…ネプチューンお願い」
「了解」
状況を把握したマリナ姐さんは、食料集めを中断してネプチューンと共に車に乗り込んだ。
俺らも少女を後部座席の真ん中に座らせ、レッドに乗り込んだ。
「出発します」
ネプチューンは皆に一言かけ、アースノアに向けてレッドを発進させた。