第20話 酒吞童子
「初めまして、酒吞童子…どうぞこれを納めください」
岩の上に居る酒吞童子を見つめながら、俺は抱えていた酒樽を地面に下した。
「ほう?分かっているじゃねーか!」
酒樽を見た酒吞童子は、嬉しそうに岩の上から飛び降りて来た。
「山海か!いい土産を持って来てくれたな!」
持って来た酒が山海だと気付いた酒吞童子は、更に喜んでくれた。
「ここに座れ」
いきなりひらっべたい岩が二つ出てきて、そこに座るように言われたため、俺とランはそれぞれその岩の上に座った。
「それで?何しに来たんだ?」
持っていた瓢箪に樽の中の酒を入れた酒吞童子は、反対側にできた岩の上に座りながら訪ねて来た要件を聞いてきた。
「いや、この世界の神様に挨拶をしておこうと思いましてね」
「ほう…良い心がけだな」
只々挨拶をしに来ただけだと伝えると、酒吞童子は笑みを浮かべながら褒めてくれた。
そんな中、ランが不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「ああ、ランには話していなかったな」
不思議そうにこちらを見てくるランに気付き、俺は良い機会だと思って説明することにした。
「色んな世界があることはランも分かっているでしょ?」
「…」
無言のままランは可愛く頷いてくれる。
「そんな世界を必ず一人の神様が守ってくれているんだ。あそこのお兄さんもその一人だよ。基本的には神様が人前に姿を現すことはないんだが…」
「俺みたいに人々の前に出てくる変わり者も居るってわけだ」
ランに神について説明していると、一杯盃で酒を飲んだ酒吞童子が説明に入って来た。
他にも色々と説明することがあるけど、大体のことはこれでいいか。
大まかなことはランに説明できたと判断した。
「しかし、酒吞童子と言えば凶悪なイメージがあったんだが…」
酒を美味しそうに飲む酒吞童子を見て、自分が持っているイメージの差に少々驚く。
「んぁ?そのことか…あれは人間共が物語としてなるように、後付けした嘘話だ。基本俺らは敵対しなかったら、こっちからやることはなかったぞ。女も一晩だけ酒注ぎを頼んで返してたしな…まぁ、偶に部下と結婚する奴は居たが…」
そんなことを話しながら、酒吞童子は瓢箪の中に入れた酒を自身の盃に注ぎ飲み始めた。
まぁ、数百年前の話なら後付けの一つや二つはあるだろうな。
「それで?旅は順調なのか?」
「ええ、おかげさまで」
旅の調子を聞かれ、俺は笑みを浮かべながら答えた。
アースノアは平行世界を駆け抜けることができる列車と広く認知されており、そのため酒吞童子のような人前に出てくる神には、よく旅などのことを聞かれる。
「そうか、それならいいんだが…」
酒吞童子は酒を飲むのをやめ、真っすぐと紅い瞳でこちらを見てくる。
「何か…?」
見てくる酒吞童子に、何かあるのか聞いてみる。
「俺的にはお前らのような面白い連中は生き残ってほしいから、この情報は教えておこう。…最近一部の神が物騒でな…そいつらがアースノアを破壊しようと企てているという噂がある。流石に今すぐという訳はないだろうが、用心するに越したことはない。もし旅をやめるなら、今の内だぞ」
酒吞童子は俺を指刺しながら忠告と旅をやめることを勧めてくる。
「態々教えてくれてありがとう…だが、俺には目標がある。少なくともその目標が達成できるまで、旅をやめるつもりはないさ」
俺は酒吞童子からの忠告を受け取りつつ、旅をやめることを否定した。
「ふっ…そうかそうか…ならこれを持っていけ」
俺の返事を聞いた酒吞童子はニヤリと笑い、俺に瓢箪を差し出して来た。
「俺の妖力を込めた特殊な瓢箪だ。あらゆる物を吸い取ることができるぞ」
「それなら、有難く貰うよ」
俺は礼を述べながら、酒吞童子から特製の瓢箪を受け取った。
「使い方は簡単だ。吸い込む対象の名を呼び、瓢箪の蓋を開ければ、吸い込むことができる。正し、吸い込める物は一つだけだし、吸い込んだ後にもう一度蓋を開けたら、吸い込んだものを吐き出すから注意しろ」
「分かった。いざという時に使わせてもらうよ」
瓢箪についての説明を受け、俺はいざという時に使うと約束した。
「それじゃあ、俺達はこれで」
「おう!いつかまた会える日を楽しみにしてるぜ」
再び会う日があるように願い、俺とランは来た道を辿って下山した。
下山した後は、様々な野菜を多めに買い、アースノアに戻ることにした。
〇
「か~…っ!やっぱり、山海は格別だな!」
龍介達が去った後も酒吞童子は自身の領域内で、一人月を見ながら酒を楽しんでいた。
「あーー、そう言えばアレを言うを忘れてな」
月を見ていた酒吞童子は龍介達に伝え忘れたことを思い出しながら、盃に酒を注ぐ。
「…まぁ良いか!アイツらなら何とかするだろう!」
酒が一杯一杯に入っている盃を酒吞童子は空に向けて掲げる。
「しっかし、ようやるよ…世界の破壊なんてな」
月が酒の表面に映る中、酒吞童子は一人でそう呟きグイっと酒を飲み込んだ。




