表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

枕 桜 猫

作者: fsdg

 夢で見た黒猫が、僕の前を横切った。


 いつの間にか桜が咲いていた。僕は足元に散った花びらで開花を知る。毎年、毎月、毎朝、僕はこの場所を通って学校へ行く。幅5mほどの小さな川には鯉が悠々と泳いでいる。整備された堤防の上には桜が並び、それを彩るかのように彼岸花が植えられている。生と死が共同した、よくある田舎道が僕が9年間通った道だ。

 もはや見慣れすぎて新鮮味のない道だけど、見慣れない生き物が目の前にいる。


「やだ、不吉」


「え、そんな迷信信じてるの?」


 思わず足を止めた僕を、セーラー服を着た少女たちが追い越していく。僕は彼女たちの背中の先、黒猫を見つめる。よく見ると口元に何か咥えていた。


「きゃあ!」


「へび!」


 少女たちが叫んだ。その声に反応して、黒猫が駆け出した。咥えた何かはのたうっていた。そしてそのまま猫はどこかへ行ってしまった。

 僕は思わず呆然と立ち尽くす。黒猫に出会ったからではない。別にこの辺で野良猫に出会う事は珍しくない。蛇だって出くわす事ぐらいある。驚くほどの事じゃない。

 僕が驚いていたのは、これと全く同じ光景を夢で見たからだ。


 非現実とは常に現実と隣り合わせにある。

 しかしこんな所は現実に寄せなくてもいいのに。いつも通り酷く退屈な古典の授業を受けながら、僕はそんな事を思う。


「『日暮るれば 山のは出づる 夕づつの―———」


 聞きなれた渚先生の声が右から左へと通り過ぎ、思わずあくびをかみ殺す。


 そのまま教室から外を眺めていた。


 何か起こらないかなと思ってそのまま時が下校時間になった。

 帰り道、今朝の猫が死んでいた。

 僕はその毛を毟って、桜の花びらで作ったポプリの中に入れた。

 いいにおいがしたので、枕にぶっこんだ。

 いい夢が見れた気がする。


 すっきりした気持ちで翌日、登校した。

 また黒猫がいた。

 心なしか睨まれている気がした。

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ