枕 桜 猫
夢で見た黒猫が、僕の前を横切った。
いつの間にか桜が咲いていた。僕は足元に散った花びらで開花を知る。毎年、毎月、毎朝、僕はこの場所を通って学校へ行く。幅5mほどの小さな川には鯉が悠々と泳いでいる。整備された堤防の上には桜が並び、それを彩るかのように彼岸花が植えられている。生と死が共同した、よくある田舎道が僕が9年間通った道だ。
もはや見慣れすぎて新鮮味のない道だけど、見慣れない生き物が目の前にいる。
「やだ、不吉」
「え、そんな迷信信じてるの?」
思わず足を止めた僕を、セーラー服を着た少女たちが追い越していく。僕は彼女たちの背中の先、黒猫を見つめる。よく見ると口元に何か咥えていた。
「きゃあ!」
「へび!」
少女たちが叫んだ。その声に反応して、黒猫が駆け出した。咥えた何かはのたうっていた。そしてそのまま猫はどこかへ行ってしまった。
僕は思わず呆然と立ち尽くす。黒猫に出会ったからではない。別にこの辺で野良猫に出会う事は珍しくない。蛇だって出くわす事ぐらいある。驚くほどの事じゃない。
僕が驚いていたのは、これと全く同じ光景を夢で見たからだ。
非現実とは常に現実と隣り合わせにある。
しかしこんな所は現実に寄せなくてもいいのに。いつも通り酷く退屈な古典の授業を受けながら、僕はそんな事を思う。
「『日暮るれば 山のは出づる 夕づつの―———」
聞きなれた渚先生の声が右から左へと通り過ぎ、思わずあくびをかみ殺す。
そのまま教室から外を眺めていた。
何か起こらないかなと思ってそのまま時が下校時間になった。
帰り道、今朝の猫が死んでいた。
僕はその毛を毟って、桜の花びらで作ったポプリの中に入れた。
いいにおいがしたので、枕にぶっこんだ。
いい夢が見れた気がする。
すっきりした気持ちで翌日、登校した。
また黒猫がいた。
心なしか睨まれている気がした。