迷いし者は雪山でそうさくする
第三次世界戦争が漸く終わったものの、破壊された全ての映像メディアは未だに復旧しておらず、今や唯一のエンタメは小説家たちの綴る物語のみで、それは我ら作家から休息を奪うことを意味していた。
疲れ切った我々は締切解放同盟を結成し、雪山の奥地にある温泉地へと車を走らせていたが吹雪で道を見失い、気が付けば謎の洋館の前にいた。
「こんな所に洋館?」思わず口走ると、「雪山に洋館。いいじゃない。今夜はここに泊めて貰いましょう」ハンドルを握っていた作家女史がワクワクしている。
SF作家もホラー作家も時代劇屋も彼女に同意し、ドアをノックしたが反応は全く無い。試しの扉を開くと容易に開き、明るく温かい室内が現れた。
屋敷の主人はどこにも居らず、窓の外の吹雪はますます強くばかりで、少し悩んだが我々は人気作家だ。何かあれば大金で何でも解決出来る。なので勝手にホテルとして使わせて貰うことにして下駄箱に5万円を置いた。
冷蔵庫の食材を頂き(テーブルに1万円置く)、酒を貰い(もう2万円置く)、心地よくなった我々は適当な部屋で休むことになり、俺はベッドに転がるとすぐに寝落ちした。
浅い眠りから覚め、もう少し飲みたくなった俺はホラーを誘うため、奴の部屋を訪れると思わず大声を上げてしまった。その声に作家女史が駆けつける。
「どうしたの」
それは恐ろしい光景だった。
俺を同盟に勧誘したホラーが、ホラーの奴が部屋の中で、原稿を書いている。そんな馬鹿な裏切りじゃないか。
この怒りを共有したく隣の時代劇屋の部屋を開けると、奴は連載用の原稿をFAXしていた。
SFは、あいつは同盟前から原稿を落としては打ち切られるスチャラカ作家だ。あいつなら大丈夫だ。
だがSFも句読点を何処に置くべきか真剣に悩んでいた。
雪山の洋館で、小説家がひとり、またひとりと、創作していく。
何故だ。信じられないでいる俺を見て、女史が高笑いをする。
「お前の所為か」
「そうよ、私は作家ではなく編集者。締切を守らない作家をここに連れてきては書かせるのが仕事。良く知らない私にハンドルを握らせたのが敗因よ。ラブコメ作家。あなたも締切までもう僅か。さぁキュンキュンするのを書きなさい」
「こんなプロット作ったんですけど」
雪山で小説を創作しながら二人の間に愛が芽生える物語を、担当の編集女史さんに提出した。
実はこれは僕から目の前の編集女史さんへのラブレターでもあるのだ。届けこの想い。
「ボツ」
元々はなろラジの企画「なろうラジオフェア2021『耳を傾けたい』セリフコンテスト」用に「雪山で遭難した一行が避難した洋館でなろラジを聴いたら、ひとり、またひとり小説を書き始めた」みたいなネタを思いつき投稿しましたが採用されませんでしたので、今回小説にしてみました。