暖炉の炎は過去のトラウマ、未来の幸福
小説家になろうラジオ大賞5 参加作品。
テーマは「暖炉」
ここは雪の積もる常冬の王国。
伯爵家の娘として生まれた私は、幼い頃から継母に理不尽な虐待を受けていました。
ある日、継母に突き飛ばされた私は暖炉へと倒れ込んで、顔に酷い火傷を負うことに。この火傷の跡のせいで、さらに心ない虐めが続きました。
そしていつまでも嫁ぎ先が見つからず厄介者と罵られ、ついに公爵家へ奉公に出されました。
公爵家には聡明で寛大な次期当主の若い旦那様がおられ、職務でお屋敷を留守にされることが多いお方でした。殿下には私の醜い顔を晒すことを避け、頭巾を被り姿を隠すように努めました。
私の仕事は薪割りから暖炉の管理、お湯を沸かすなど、様々な雑用をすること。
寒さのなか山へ薪を拾いに、川へ冷たい水を汲みに。
とても辛い仕事ですが、私を拾っていただいた殿下のためと懸命に勤めました。
今夜は殿下がご帰宅される日。
早めに薪を用意し、暖炉に火をつけ室内を暖めておかなくては。
未だに暖炉に近付くと顔の傷が疼き、トラウマが甦りますが、これも殿下のためにと思い暖炉に火をくべます。
でも今日は体の調子が、
寒気がし頭も重く、
息苦しく、
……
……ここは?
気がつくと私はベッドの上にいました。
私は風邪をひいて倒れて?
ここは殿下のお部屋?
誰がここまで?
「気がついたようだね」
私を覗き込むのは殿下!?
思わず頭から毛布を被り、顔を隠します。
「具合はどうだい?」
「申し訳ございません」
「顔を見せなさい。熱が計れない」
「恐れ多くて」
毛布を強引に剥ぎ取られ、額に手を当てられる。
「だいぶ良くなったようだ」
恥ずかしくて……体が焼けそう。
「ようやく近くで君の顔を見ながら話が出来た。君は私を見るとすぐに隠れてしまうから」
「この醜い顔を晒すわけには」
「君は自分が思っているほど賎しい人ではない。誰よりも美しい女性だ」
「ご冗談を」
「いつも私のために働いてくれて、感謝してるのだよ。
暖炉の火は絶やさず、朝は衣服を暖めて、お湯も沸かしてくれて。
帰宅にあわせて部屋まで暖めてくれる」
「当然ことをしたまでです」
「君の心遣いで、私の疲れた心がどれだけ温まったことか。これからも私を照らす炎となってくれないか」
「殿下……」
これを機に私と殿下は結ばれて、今では私と殿下と子どもたちで暖炉を囲む、暖かい家庭を築くまでにいたりました。
あんなに嫌いだった暖炉の火も、今では私たちの家庭を暖かく包み込んでくれる存在に。
どうかこの温かい世界が
永遠に続きますように……