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マリエル・アーシャル侯爵令嬢



 私の上に乗っかっているマリエルさんは、私と同じ侍女試験を受けて、私とは違ってきちんと受かって、シュミット様の侍女として内廷に勤めている。

 お勤めは私と同じ昨日からで、気さくに私に話しかけてくださった優しい方だ。

 年齢も、私と同じ十八歳。

 ただし、私とは違って、裕福で由緒あるアーシャル侯爵家の次女なのだという。

 

 私よりもマリエルさんの方が身分が高いのだけれど、内廷の侍女同士で争わないようにと、ここに来ては侍女は侍女として身分の上下はなく、皆を様ではなく、さんづけで呼ぶようにと定められている。


 マリエルさんはやや垂れ目で優しい顔立ちをした、豊満な女性である。

 出るところが出ていて締まるところがしまっている。侍女服の上からでもわかる妖艶な体つきの美女だ。

 その美女が、私の上に乗っている。


「ティディス、怪我はない? 痛かったでしょう。重くない?」


「だ、大丈夫です……」


「え? なになに? 重くて死にそう?」


「重くないです、マリエルさん、大丈夫です……」


 大きな菫色の瞳で覗き込まれると、どぎまぎしてしまう。

 さらさらな銀色の髪が広がっている。とても綺麗。

 私は空色の瞳と、チョコレート色の髪をしたどちらかといえばやや地味な色合いをしているので、マリエルさんの華やかさが目に眩しい。


「ごめんね、今退くわね」


「は、はい」


 マリエルさんはよいしょ、と、私から退いてくれた。

 私も立ち上がって、乱れてしまったお仕着せを直す。

 侍女は、それぞれ務める宮でお仕着せが色分けされている。

 私の務める黎明宮では、白のブラウスに群青色のリボンとスカート。といっても、黎明宮に務めるのは私一人なので、一人だけだ。

 マリエルさんの務める白夜宮は、白のブラウスに緋色のリボンとスカートである。

 色分けで身分に差があるわけではないけれど、わかりやすいようにとエルマさんが言っていた。


「マリエルさん、お仕事中なのではないですか?」


「そうなのだけれど、私がティディスのことを朝からずっと心配していたら、シュミット様が、様子を見にいっておいでておっしゃってくださって」


「シュミット様はお優しいのですね」


「ええ。シュミット様の白夜宮には、侍女が私以外にも何人もいるし。まぁ、結婚すると辞めてしまう者が多いから。それで毎年毎年、侍女試験が開かれているのだけれど」


「そうなのですね……」


「そうそう。ここで働く貴族女性は、貴族の中でも四女とか五女とか、政略結婚の相手が見つからない者が多いの。もちろん、働きたくてきている人も多くいるのよ? でも、素敵な人と出会ってしまったら、それは当然結婚を優先するわよね」


「そんなに、皆さん結婚をなさるのですか?」


「内廷の侍女であれば、お城で働く騎士の方々や文官の方々との出会いも多し。騎士や文官の方々も結婚相手を探していたりするしね。ティディスも洗濯ばかりしていないで、金持ちの男を見つけるのよ」


「は、はい」


 マリエルさんには私の事情を話している。昨日のうちに根掘り葉掘り聞かれたので答えたのだ。

 マリエルさんと言わず、お食事を共にした他の侍女の方々も熱心に私のお話を聞いてくれて、同情してくれた。

 ここにいる方々は、皆優しい。


「そんなことよりも、レイシールド様は怖かったでしょう? ティディス、意地悪なことをされなかった? ひどいことをされていない?」


「特には……思ったよりも、怖い方ではないのかもしれません。珈琲は、私が淹れたのかと尋ねられて」


「美味しいと褒められたの!?」


「いえ」


「不味いと怒られたの!?」


「それも違います……よくわからないのですけれど、何か変でしたかと尋ねたら、いや、と、一言」


「嫌?」


「いや、です」


「どういうことなの?」


「私にも、何が何やら……」


「怒鳴られたり、切り付けられたりはしなかったの?」


 マリエルさんに尋ねられて、私は少し考えた。

 剣は向けられたけれど、あれは仕方のないことだった。黙っていよう。


「大丈夫です」


「そうなの、よかった! ずっと心配していたのよ、朝から、大丈夫かなって。でも、元気そうで安心したわ!」


「ありがとうございます、マリエルさん……」


 私は、頬が染まるのを感じた。

 誰かに心配をしてもらうのは、嬉しい。

 ――今までの私には、家族以外に信用できる人なんて誰もいなかったから。


「私は白夜宮にいるから、何かあったら逃げてくるのよ。必ず助けてあげるから。私も一緒に黎明宮で働けたらよいのだけれど、シリウス様もエルマさんも、レイシールド様の世話係は一人きりだと決まっているというのよね」


「一人よりも二人の方が心強いし、仕事も早く終わるのに」と、マリエルさんは言った。

 それから、あんまり仕事しないと叱られるわねと言って、来た時と同じように嵐のように帰っていった。

 私は心配していただけたことが嬉しくて、マリエルさんを見送りながらにこにこしていた。

 確かにマリエルさんのいう通りかもしれないけれど、お洗濯はレイシールド様の分だけなので、そんなに大変じゃない。クリスティス家にいた時の方が、ずっとお洗濯が多かった。

 それに、井戸しかなかったし。洗濯用の洗剤も、買えなかったから、山にはえている泡立ち草を使用していたし。

 泡立ち草の泡もそんなに悪くはないけれど、やっぱり洗濯用の洗剤の方が泡立ちがいい。あと、香料が入っているためか、いい香りがする。

 お洗濯を終えると、書簡を届けるためにシリウス様の元へ向かうことにした。





お読みくださりありがとうございました!

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