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窓際のヒーロー  作者: Aju
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5 夏海 problem

 朝のミーティングを終え、朝食の配膳をする。

 夏海は今朝は、認知症の進んだ秀子さんの食事の当番だった。悟郎さんに直接声をかけることはできなかったが、朝食の時間にはちゃんと食堂に出てきているのは目の端で確認していた。

 あの時間から寝ても、ちゃんと起きるんだ——。


 朝の「戦争」が終わると、夏海はそこでシフトから解放される。

 雨上がりで天気がいいから、今日は帰ったら洗濯をしてすぐ寝よう。明日のシフトは早番で、朝6時のミーティングに間に合うように出勤しなければならない。

 午後3時くらいまで寝て、不足した睡眠を取り返してから、昼食だか夕食だか分からない食事を作って、NET配信の映画でも観よう。・・・で、夜も早めに寝てしまおう。

 このコロナの中で、こういう仕事に就いてて、どこかにお出かけするわけにもいかないのだから——。


「お先に失礼しまぁす。」

 同僚たちに声をかけて更衣室に行こうとする夏海のそばに、悟郎さんの車椅子が寄ってきて

「内緒・・・だよ?」と小さな声で言って、にこっと笑った。

「はい。わかってますよ——。」

 夏海も腰をかがめ、悟郎さんの耳に顔を近づけて、とりあえず小声でそう受けた。

「今夜・・・10時頃、ちょっと・・・寄るから・・・。」

「え?」

 しかし、悟郎さんはそれだけを言うと、にこにこしながら車椅子を漕いで離れていってしまった。

 どういう意味だろう?


 夏海は帰り道を歩きながら、考えている。

 夜10時といったら、消灯時間じゃないの。当然、門限は過ぎてるから、外になんか出られるはずがない。ましてや、付き添いの必要な車椅子だもの。

 昨夜のあれを見ていなければ、夏海は「認知の症状が出ちゃったかな?」で済ませただろう。

 しかし・・・・。


 あれは何だったんだろう?

 幽体離脱? でも、子どもの姿だったよね?

 悟郎さんの魂が体を抜け出して、子どもの姿になって夜な夜な彷徨ってる——ってこと? もしかして、その生き霊のままでわたしの部屋に来るって意味?


 それって・・・めちゃくちゃ怖いんですけど・・・!?



 夏海は事態をどう理解していいか分からないまま、洗濯を済ませても頭が冴えてしまってすぐに眠ることができなかった。

 睡眠不足なんだから、寝なきゃ・・・。

 気分を変えようと、読みかけの小説を持ってベッドに横になる。するとやはり身体は睡眠不足がしっかり応えていたようで、数ページも読み進まないうちに、いつの間にか眠りに落ちてしまった。


 目が覚めると、外はもう夕焼けが終わろうとしていた。半分開けたカーテンから見える空は、茜色が夜に浸食されてゆく途上だった。

 目覚ましが鳴ったのにも気がつかなかったらしい。慌ててベランダの洗濯物を取り込み、あり合わせで夕食を作る。

 うー・・・、なんか、変なリズムになった・・・。この時間まで寝ちゃうと、早寝できないかも・・・。

 朝は寝坊するわけにいかないから、スマホのアラームの音量上げておこう。


 カーテンをしっかり閉めて、夕食を食べる。映画を見る気分にもなれず、モニターにはニュース配信を流したまま、ぼんやり眺めて時間が過ぎていった。

 感染者数は少し落ち着いてきているらしい。宅配だけじゃなく、買い物に出ても大丈夫かなぁ。でも万が一ってことがあったら、うちの施設は悲惨だよねぇ・・・。

 本当に来るんだろうか? 何が・・・? やだ、それって怖くない?

 思わず、カーテンを見る。

 ちゃんと閉まってる。

 でも・・・悟郎さんなんだよね? カーテン閉めたまま閉じこもってたら・・・気を悪くするよね?

 うわああああ! どうしよう・・・??


 なんで、わたしこんなに悩んでんの? 頭おかしくないか、わたし? でも・・・じゃあ、昨夜見たあれは何? 悟郎さんは、あれを「内緒にして」って今朝も言ってたよね?


 考えがぐるぐる回っている間に、とうとう悟郎さんの言った夜10時になった。


 窓ガラスが、コンコンとノックされる音がした。

 ・・・・! き・・・来た !? 本当に? ここ、・・・4階だよ?


 締め切ったカーテンの向こうで、子どもの声がした。

「夏海さん、いる? 僕だよ。高橋悟郎だよ。」



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