21 夜の捜索隊
悟郎少年が運送会社のベースを通りかかってみると、そこに浩一がいない。
え? なぜ? 今日は休み?
悟郎少年は、須々木山家の自宅アパートの方に行ってみた。・・・が、そこにも浩一はいなかった。愛ちゃんと母親の幸江さんだけがいる。
愛ちゃんが空に浮かぶ悟郎少年を目ざとく見つけて、嬉しそうにベランダに出てきた。
悟郎少年はベランダに舞い降りる。
母親の幸江がそれを見て、声を失ったまま目を見開いて口元を両手で覆った。
「すみません。時々こうして愛ちゃんのことを見にきています。今日はお父さんは?」
「お仕事行ってる。」
愛ちゃんは、何の疑問も持っていない目でそう答えた。悟郎少年は直感的に、浩一が瀬戸際にいることを察した。
まずい!
「また来るね。」
悟郎少年はそれだけを言い残して、シュッと夜空に飛び上がった。
まずい!
まずい!
大急ぎで夏海のアパートに戻る。そのスピードは、この距離を数秒という速さだった。飛び込むようにして窓ガラスを突き抜け、部屋の中に入る。
「浩一さんがいない! 家にも職場にも! まずい! まずいんだよね、これ? 胡桃さん?」
一瞬、呆然とした夏海と胡桃だったが、すぐに胡桃が緊張した声で答えた。
「うん、まずい。探さないと——。」
「俺は上から探すから、胡桃さんは下で探してもらえないだろうか。専門家の勘を働かせて——。1人よりは2人の目の方が少しでも確率は上がると思う。」
「わたしも探すよ!」
夏海が言うと、悟郎少年は手を横に振ってそれを制した。
「いや、夏海さんにはここで情報センターをやってほしいんだ。連絡を取り合う必要があると思う。夏海さん、俺の身体の方の上着の右ポケットにスマホが入ってるから、それを取ってくれないか。俺は近づいたら吸い込まれてしまうかもしれないから。」
夏海は言われたとおり、悟郎少年にスマホを渡した。
「2人ともお願い!」
そう言って飛び立とうとする悟郎少年に、夏海が声をかけた。
「通話モードにできる?」
「え?」
「その身体反応する?」
悟郎少年がやってみると、夏海が懸念したとおりタッチパネルが反応しない。
「貸して。」
夏海は悟郎さんのスマホを操作して、自分のスマホに電話をかけた。夏海のスマホの呼び出し音が鳴る。それを通話状態にする。
「悟郎さん、話してみて。」
「もしもし?」
だが、夏海のスマホからは何も聞こえない。
「やっぱり・・・。」
「だめだ・・・、これでは・・・」
悟郎少年が顔を曇らせる。夏海はちょっと考えてから胡桃の方を見た。
「胡桃ちゃん、高いとこ大丈夫だったよね?」
「もちろん。煙とおんなじだから——! あ、そうか。わたしが地上でのろのろ探すより、悟郎さんのナビやった方が効率いいよね!」
「そう。それで、わたしが胡桃ちゃんと連絡とりながら、Google マップで胡桃ちゃんが言う条件に合った場所の情報送る。」
「よし、それでいこう! ところで悟郎さんは、大人でも抱えて飛べるの?」
「全然平気だよ。この姿の悟郎さんは10万馬力だもん。」
「じゃあ、よろしく。後ろから抱えて飛んでください。地上が見たいし、手は自由になった方がいいし——。」
悟郎少年がちょっと躊躇する様子を見せると、
「そういうこと気にしてる場合じゃないでしょ?」
と胡桃の厳しい声が飛んだ。
チーム・ヒーローの浩一さん捜索が始まった。
「悟郎さん、浩一さんの車はわかる? アパートに有った?」
飛び上がってすぐ胡桃が聞いた。
「わかるけど、それは確認してなかった。」
「まずアパートの駐車場に行ってみよう。」
車は駐車場にはなかった。
「車で出かけてるとなると、捜索範囲は無限に広がってしまうなぁ——。」
「どこへ行けば?」
「とりあえず、ここで浮いてて。夏海に連絡とるから。悟郎さんは見渡せる範囲でいいから、車を探して。」
夏海のスマホに胡桃ちゃんからの連絡が入った。
「車で出かけたようだ。自殺する場所を探しに行ったんだとしたら、ちょっと探しようがなくなるんだけど・・・。単に家族と顔を合わせていたくないから仕事に行ったフリをしてるだけなら、近くにいるはず。そっちの可能性に賭けるしかないんだけど、ナッツは車を無料で停められそうな場所探して。コンビニの駐車場とか公園のオープンな駐車場とか、車の通りの少ない路肩駐車できそうな場所とか——。
マーキングした画像をわたしのスマホに送ってほしいんだけど。」
「わかった。」
「あと・・・、川に橋が架かってて水深の深そうなところ・・・。」
その言葉は、夏海をぎくりとさせた。
そっちが優先だよね——?
「悟郎さん、ここから渦巻状に外へ外へと広げながら車を探してください。夏海から地図が送られてきたら、そこを重点的にピックアップしていきます。」
悟郎少年は言われたように渦巻状に飛んで、浩一の車を探した。赤っぽい色の軽自動車だ。
ナンバーまでは覚えていないから、それらしい車を見つけると視覚をズームして車内やあたりを探した。
高度を下げるわけにはいかない。人が空を飛んでいるところなど目撃されたら、大騒ぎになる。
幸い今夜は雲が多く、空が暗い。
夏海から地図データが送られてきた。川と橋のチェックがメインのものだ。近くのコンビニもチェックが入っている。
(ナッツ、わかってンじゃん。)
胡桃は悟郎少年にスマホの画面を見せた。
「悟郎さん、一旦渦巻は中断して川に沿って飛んでください。このチエックされてる橋の周辺で車を探してほしいの。」
2つ目の橋の周辺を捜索している時、悟郎少年が「あっ!」と声をあげた。
「あそこ! 見つけた! ファミリーなんとかって言うコンビニの駐車場。車の中で漫画を読んでるぞ——。」
悟郎少年が片手で指差すコンビニに臙脂色の軽自動車が停まっている。それは分かるが、車の中の様子までは胡桃には見えない。
「間違いない?」
「間違いない。浩一くんだ。ハンドルに足掛けて漫画を読んでる。」
「ふうー。」と胡桃が息をついた。
「家族から逃げてただけか・・・。ひと安心だな———。」
「どうする? 胡桃さん。」
悟郎少年が聞くと、胡桃は抱えられたまましばらく黙っていたが、やがて意を決したようにぽつりと言った。
「再アタックだ——。悟郎さん、どこか人目につかないところに下りられる?」
悟郎さんは、コンビニから1本裏に入った道沿いの小さな公園に胡桃を降ろした。
「ナッツ、見つけたよ。ナッツのアパートからわりと近い。ファミマの駐車場に車を留めて、中でマンガ読んでる。とりあえず、最悪の方じゃなくてよかった。家族から逃げてるだけだ。」
「どうするの?」
「これから再アタックしてみる。偶然通りかかったフリして——。」
「わたしも行った方がいい?」
「それ、あんまり偶然っぽくない。それに、悟郎さんの身体の方、放ったらかしにしちゃったらマズくない?」
それから、胡桃は1つ「ふうー」と息を吐いて、付け加えた。
「まあ、たしかに・・・、ナッツの突破力は欲しいとこだけど・・・。」
「そういう感じになったら、俺が向こうに戻るよ。でもその前に、この姿の方ができることがあるかもしれない——。」
悟郎さんのそんな言葉に、胡桃はちょっと驚いた。
「一緒に行くの?」
「必要になったら、姿を見せるよ。少し離れたところで見てる。この目はズームが効くんだ。まずは専門家にお任せ、ということで——。」
そう言って、悟郎少年はにこっと笑った。




