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窓際のヒーロー  作者: Aju


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19/27

19 ルームシェア?

 夏海と胡桃が敗戦報告と今後の打ち合わせのためにビジネスホテルのロビーに悟郎さんを訪ねた時、悟郎さんはまた若返っていた。

 どう見ても70歳くらいにしか見えない。若返りのスピードが速まっている。

「ここも、明日にはチェックアウトするよ。チェックインした人間とチェックアウトする人間が別人のように見えてもまずいしね。だんだん、まだ泊まってないホテルが減ってきた・・・。」

「悟郎さん、うちにおいでよ。わたしは一人暮らしだし、出勤してる時間の方が長いんだし——。」

「ナッツ、それ・・・!」

「大丈夫だって——。悟郎さんはそんな人じゃないし、アパート見つかるまでの間だけだから。」

「いや・・・、しかし、さすがに一人暮らしの娘さんの家に上がり込むのは・・・」

 悟郎さんは夏海の提案に困惑した表情を見せた。

「だからって野宿するわけにもいかないでしょ? 若返ってると言ってもまだ70代なんだし——。体壊すわよ。」

 胡桃は呆然として、そんな夏海と悟郎さんの顔を見比べている。昔っからこの子は、こういう常識外れなほどに無防備なところがある・・・。

「漫画喫茶に寝泊りするという手も・・・。」

 悟郎さんは、最近仕入れたばかりの新知識を披露した。

「ああいうところの個人ブースは窓ないわよ。大丈夫なの?」

「えっと・・・、それは・・・・」


 結局、悟郎さんは夏海に押し切られた。


「お世話になります・・・。」

 翌日の午前中、夏海の出勤前に、悟郎さんは小さな荷物を1つ持って身を縮めるようにして夏海の部屋にやってきた。

「冷蔵庫の中のものとか、適当にキッチン使って食べていいですからね。ベッドも使って寝ていいから。」

「いや・・・、俺は床で・・・」

「体痛くなりますよ。わたし今日は遅番で夜勤だから、遠慮せずにベッド使って。昼勤のシフトの日は・・・えーっと・・・。」

「俺は夜は窓辺で椅子に座ってるから・・・。」

「あ、そっか!」

 夏海はそれだけで納得した様子で、バタバタと出勤していった。



 高橋悟郎は、ぽつねんと若い娘っ子の部屋に取り残された。

 壁に幾つかのパステルカラーの版画が掛けられていて、ベッド脇には大きなピカチュウのぬいぐるみが置いてある。甘い匂いまでするようだった。

 なんだか居心地が悪い。

(やっぱり、まずかったんじゃぁ・・・)

 悟郎は少し不安になったが、それをこう考えることで打ち消すことにした。

(まあ、孫娘のところに世話になってると思えば・・・)


 だが、このまま若返っていったらどうなるのか?

 早いとこ、アパート探さないとな——。


 そんなことを考えながら、ベッドではなく1人掛けのカウチの上に寝そべっているうちに、識らずまどろんだ。

 睡眠不足はやはり否めない。



 夏海にとっては、夜勤のない時が待ち遠しくなった。

 悟郎少年を送り出す時のワクワク感がたまらない。朝食の時に昨夜の活躍話を聞くのがサイコーに楽しい。

 自分の部屋がヒーローの秘密基地ベースになっている! 胡桃ちゃん、羨ましいだろうなぁ——。

 今度、胡桃ちゃんも泊めてあげよう。あ、でも3人も泊まれるかな? そうか、そうだった! 悟郎さんは窓際で椅子に座ってるんだった——。(>∇<)


 悟郎さんの心配をよそに、夏海はすっかり「2.5次元サークル」の頃に戻ってしまっている。



 一方、須々木山浩一は派遣会社からの仕事の話がないまま、夜のアルバイトを続けていた。

 午後、まなが帰ってくる前にアパートを出て時間をつぶし、コンビニの弁当で夕食を済ませてから運送会社のベースに向かう。

 帰る頃は日付が変わっている。そうして昼まで万年布団にくるまって寝る。できるだけ家族と顔を合わさないようにして、日々をやり過ごしていた。


 幸江と出会った頃は、こんな気持ちではなかった。

 それぞれに辛い子ども時代を生きてきた2人が新生活を始めようとした時は、ここからは真っ白な、光に満ちた未来が開けているような気がしたものだった。


 ・・・が、それは幻想だった。世の中はそんなに甘くなかった。今の家族の姿は、そのまま浩一の惨めさと敗北の姿そのものに映る。

 浩一は、それが見たくない。見ないようにしていれば、かろうじて正気を保っていられるような気がしていた。

 幸江もまなも悪くはない。そうだよ。悪いのはこんな世の中だ。

 いや・・・そんなことも考えるのは、億劫だ・・・。このまま、何も見ないで、日銭だけ稼いでいればいい・・・。

 もう・・・、人生に対する余力が、・・・残ってない・・・。



 そんな浩一の暮らしぶりを、悟郎少年は上空から見ていたが・・・、手の出しようがない。

 何度かまなちゃんを夜の遊覧飛行に連れ出したが、飛んでいる間こそはしゃいでいるものの、降りると目の中に暗い影を宿した。

「お父さんが、壊れそう・・・」

 まなちゃんのそんな言葉に、悟郎少年の胸が痛んだ。この子は、わずか8歳で、その小さな胸を痛めて「家族」のことを心配している。


 「力」では、どうにもできないことがある・・・。


「胡桃さんにも相談してみたいんだけど・・・」

 ある朝、夏海の出勤前に悟郎さんはヒーロー活動の報告話のあと、困ったような顔で言った。

 そんな悟郎さんは、胡麻塩だが髪はふさふさになって、すでに60前後と言ってもいいくらいに若返っている。

 ほんの数日の間の変化だ。

 このままだと、どうなるんだろう? さすがに夏海も少し不安になってきた。



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