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窓際のヒーロー  作者: Aju


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16/27

16 ヒーローだって困っている

 その日、夏海が遅番で午後から出勤すると、悟郎さんがいない。

「ああ、悟郎さんなら、なんでも海外にいた甥っ子さんが帰ってきてるとかで、会いに行くからって午前中に出かけられたよ。甥っ子さん、2週間ホテルでカンズメだったんだけど、今日から開放だから会いに来ないかって電話があったんだって。」

「ええ? 1人で?」

「そう。最近、悟郎さん元気じゃない? 車椅子用のタクシーにも自分で乗り込んでたしね——。何が良かったのかしらね? 他の人にも参考にできることがあるといいのにね。」

(それはちょっとムリ・・・だと思う——。)(^ ^;)


「その甥っ子さんは、なんで自分から会いに来ないんだろう?」

「検査が陰性だったとはいえ、海外にいた自分が老人ホームに行くのはどうか、と気を使ったんじゃない? 2〜3日泊まってくるって、外泊申請書も出してったよ、悟郎さん。仲いいんだね。」

 他のスタッフは皆、悟郎さんのその言葉を信じていたようだったが、夏海はなんだか少し不安な予感がした。


 その夜、夏海は1人で仮眠室で温かいお茶を飲みながら本を読んでいた。1時間だけ交代で休憩(仮眠)と言われたって、昼間寝溜めしてあるから眠れはしない。

 悟郎さんは今ごろ、どこで「離脱」してるんだろう。ホテルの窓辺で固まってるのかな? それとも、甥っ子さんの前ではそんなことできないから、今日はヒーローはお休みなのかな?

 そんなことを考えているから、よけい眠れない。


 その仮眠室の窓が、コンコンとノックされて悟郎少年の声が聞こえた。

「夏海さん、起きてる?」

 夏海はカーテンを開けた。

「悟郎さん! 今、どこにいるの? あ、本体の方ね。」

 夏海が小声で聞くと、悟郎少年はちょっとあたりをうかがうようにして

「入ってもいい?」

と聞いた。

「あ、いいよ。どうぞ。」

 夏海も悟郎さんがこの姿の時は。ついタメ口になってしまう。


 悟郎少年は、夏海が少しだけ開けたカーテンをふわりと揺らして、窓ガラスを素通りしてきた。

 仮眠室の畳の上にちょこんと座って、話を切り出しにくそうにもじもじしている。また少し成長したように見える。

「今、どこにいるの? 甥御さんの部屋?」

「それ・・・、口実なんだ——。」

 悟郎少年はバツが悪そうに言った。

「1人でホテルに泊まってる。」

「なんで?」

「いよいよ誤魔化しきれなくなってきちゃったんだ——。ハゲ消えちゃったし、体の筋肉も戻ってきてるし・・・。このまま、行方不明になろうと思う。」

「ええ!? だって、ホーム・・・。け・・・警察沙汰になるよ——?」

「娘に退所手続きしてもらうよ。他に必要としている高齢者がいるだろうしな——。第一、このままどんどん若返っちゃったら間違いなくそっちの方が騒ぎになるよ。マスコミだけじゃなく、ヘタすれば大学の先生やらが来て、実験だの検査だの・・・。

嫌なんだよ、俺。そういうの——。だから、娘にだけは事情を話して退所手続きをしてもらおうと思うんだ。」

「娘さんのところに行くの?」

「いや、それは無理だ。あいつはあいつで家庭を持ってるし。このままどんどん若返ってさ、同じくらいの歳格好になっちまったら、そんな男が同居して『父親です』って言って信じてもらえると思う? そもそも娘の家族にだってさ——。

しかも、日々若返っていくんだよ? そのうち近所の人から『この前とは違う男が出入りしている』とか言われちゃったら・・・。」

 たしかに、それはそうかもしれない・・・、けど・・・。

「で・・・でも、だからってずっとホテル暮らしってわけにもいかないんじゃ? ホテル代とかだって、続くの?」

「当面の現金はカードで引き出した。」


「・・・アパート借りたら?」

「老人に貸すところは少ないんだ。孤独死されたら、事故物件になるからね。」

 そう言って、悟郎少年は苦笑した。

「それに、契約したのは老人だったのに、しばらくしたら住んでる人は中年の男だった——なんてことになったら・・・。」

 そうだった。ヒーロー活動にばかり目がいっていたけれど、悟郎さんの身に起こっていることは「普通」のことではないのだ。

 若返りは良いことだけど、本人的にはかなり困ってるんだろうな———。

 そんなふうに思った時、少年の姿の悟郎さんを前にしていたせいか、夏海は自分でも思いがけないことを言っていた。

「うちに来る?」


 夏海、それ・・・・かなり・・・アブナイ話と違うか?


 悟郎少年はそれには答えず、別のことを切り出した。

「それより、まなちゃんのことなんだけど・・・。あの夏海さんの友達の、児童福祉司さん。ほら、白浜さんって言ったっけ。ちょっと相談したいことがあるんだけど・・・。紹介してもらってもいいだろうか?」

「胡桃ちゃんに? そ、それはたぶん大丈夫。——っていうか、胡桃ちゃんむしろ喜ぶと思うけど。特に今の姿だと。」



 夏海が話を持ちかけると、予想どおり胡桃ちゃんは一も二もなく飛びついてきた。

「夜? 夜? 夜だよね—— !?」

 そうなんだよ。あの子、ヒーローもの特に好きだもんなー。戦隊ものとか『タイガー&バニー』とか——。

 そりゃあ、カメラに写らない幽体ヒーロー『白い少年』の実物に会えるとなればテンション上がるよね。(^_^;)

 しかし・・・・。


「あの・・・、胡桃ちゃん・・・? 悟郎さんは、児童福祉司・・・・・の胡桃ちゃんに相談したいことがあるんだからね?」



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