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窓際のヒーロー  作者: Aju


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10/27

10 差し伸ばされる手

 秀子さんの朝食を終えて一息ついたところで、夏海は悟郎さんに呼び止められた。

「今、少し時間とれそうかね? 夏海さん。」

「お散歩行きますか? 悟郎さん。」

 このところ、自宅待機組も少しずつ戻ってきていて、シフトにも仕事にも少し余裕が出てきている。

「そうだな。外の方が話しやすい・・・な。」

 悟郎さんは最近、明らかに話す言葉がしっかりしてきている。


 悟郎さんは何か気になることがあるらしい——と夏海は察した。いつものヒーロー活動の報告話なら、夏海の方から空いた時間に悟郎さんに話しかけた時にしている。

 悟郎さんから話しかけてくるのは珍しい。


昨夜ゆうべな・・・」

と悟郎さんが話し出した内容は、どうやら、虐待されている女の子を見つけた、ということらしかった。

「チンピラや愚連隊じゃない。相手が父親では、殴るわけにもいかん・・・。かといって、放っといても、あれはまだ続きそうじゃ・・・。」

 悟郎さんの悩みは、そういうことだった。悪いやつを一発やっつけたら終わり、というわけにいかない「事件」なのだ。

「それは、間違いなく虐待だと思うから、私が児童相談所に通報してみるね。」

「自動装弾・・・?」 ←(戦時中ではありません。^^;)

「子どもの非行や虐待なんかの問題に取り組んでる役所ですよ。動きはいいとは言えないけど、友達に児童福祉司もいるから、そっちにも相談してみる。担当エリアは違うけど・・・。」


 それにしても・・・。ここ数週間の間に、あの、ゆっくりと、しかも時々ピントの外れた話しか話せなかった悟郎さんが、まるで10年も15年も若返ったみたいに矍鑠かくしゃくとした話ぶりをするようになるなんて・・・・。

 認知が治ってきてる——という程度の話ではないんじゃない? これって、あの「幽体離脱」と関係して、何か異変が起こってるの?


 他の人たちの前では、悟郎さんはこれほどはっきりと話すことをしないので、「悟郎さん、最近元気ねぇ」くらいの話でまわりは捉えている。

 が、夏海とあのヒーロー活動の話をする時の悟郎さんは、とても90歳の老人とは思えないしっかりした口調と思考力を見せるようになっていた。


「とにかく・・・」と、夏海は言った。

「なんとかして児童相談所を動かしてみる。昼間のことは、わたしに任せて——。悟郎さんは、夜、その子を見守ってやってくれる? たぶん虐待は、夜の方が起こりやすいと思うから。」

 夏海は悟郎さんの「元気の素」を提供したつもりだった。

「わかった。ありがとう、夏海さん。あんたはやっぱり、優しいなぁ。」

 夏海はちょっと頬を赤らめた。

 放っとけない性分なだけなのだ。その子、まなちゃんのことも聞いちゃった以上、放ってはおけなくなってしまっただけなのだ。


 夏海はその場で、友人で児童福祉司の白浜胡桃しらはまくるみに電話をした。

「わかった。それ、間違いなく虐待だと思うから、管轄の児童相談所に連絡入れてすぐ動いてもらうわ。それにしても、2階のベランダにいる子どもの体のアザまでよく気がついたわね。」

「あ、たまたま、向かいのアパートに届けるものがあって、共用廊下歩いてたもんだから・・・。怒鳴るような声が聞こえて、そっち見たら・・・。」

「それにしても、久しぶりにナッツから電話がきたと思ったら、仕事の話だもんなぁ——。近いうち、1回サークル仲間で女子会やんね? 久々に呑もうよ。」

「悪い——。それ、わたし今できない立場なんだわ——。」

「あ、そっか・・・。介護士だったな、ナッツは・・・。わたしが誘ったせいで、老人ホームでクラスター発生、とかなったら、外歩けなくなるな——。」

「はは・・・。落ち着いたら、またゆっくり——。胡桃ちゃんの呑みっぷりも見たいし。」

「何言ってんの。呑んでも赤くならないナッツに呑ませたってもったいないから、わたしが呑んでるだけだよ。」


 夕方、白浜胡桃から電話があって、管轄の児相が家を訪ねた時の様子を夏海に話してくれた。

「ま、お決まりのやつだ。父親が出てきて全面否定。誰にも、もちろん子どもにも合わせようとしない。押し問答の末に、無理やり押し入るわけにもいかず、『また来週来ますから』で、一旦引き揚げ——。本当はこれじゃダメなんだけどねー。」

「それじゃ、陰に隠れてよけい酷くなるだけなんじゃあ?」

「ナッツの言うとおり。まあ、抑止力として働く場合もあるけど、逆に作用することもあるからねー。・・・でも、もし通報者の『誤解』だったら、逆に児相が訴えられるリスクだってあるわけだ。わたしの管轄内だったら、リスク覚悟で毎日でも行ってやるんだけどねー。」

「なんか、まどろっこしいなぁ。その子はアザつくって裸でベランダに出されてたんだよ?」

「通報者も、今のところ1人だしね。一応、わたしの友人で匿名希望ってことにしてあるんだけど・・・。ナッツが名前出していいんなら、直接話聞きに行くよう言ってみるけど? 少しは動き良くなるかも——。」

「い・・・いや・・・、それは、ちょっと・・・」

 はあ、とため息が一つ聞こえた。

「わたしにも隠すかね。まあ、プライバシーだから深くは聞かないけどォ・・・。そのアパートに何の用事ィ?」


 あ・・・、完全に誤解されてる・・・。

「ちが・・・違う、そっちの話じゃない・・・。う〜〜ん・・・。胡桃ちゃんは口が硬いからいいかな、言っちゃっても・・・。一応『内緒』って約束してるんだけど・・・。こうなると一人で抱えてるのもしんどいし・・・、職場じゃ話せないし・・・。実は、見たのわたしじゃないんだ。」

「彼氏?」

「だから、そっちの話じゃないって言ってるじゃないよぉ! ん〜〜と・・・、あのね・・・」

 夏海はまだ口ごもったが、ここまで言っておいて話さないって選択肢はあるまい。そんな夏海に悟郎さんがにこっと笑って、こくりとうなずいた。


「白い少年——って、知ってる?」

「へ? 今、NETでちょっと話題になってる『真夜中のヒーロー伝説』?」

 胡桃ちゃんの声が変わった。

「おい、ちょっとまて! ナッツ、あんた! その少年と知り合いなのか? 本当にいるの? 都市伝説じゃなくって!? 」

「え・・・、うん・・・。まあ・・・。」

「マジ!? マジ!? 」

「うん。・・・で、相談されちゃったんだ。父親を殴るわけにいかないからって。だからって、放っとけないし・・・。」

「何者? その子! あ、内緒か・・・。ナッツ、あんた! ヒーローの相棒やってんの? バットマンのロビンみたいに? 今度2ショット写メ送ってよー!」


「胡桃ちゃん・・・。話、ズレてるよ・・・。」



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