93.パスタ
パスタのユーザー名の横にはレベルが表示されていた。
レベル……3!!
(勝った……!! 余裕!! 完全に素人だ)
レベル50のミナモトは勝ちを確信した。その瞬間、ミナモトの眼鏡がキラリと光ったような気がした。口元からはあまりの余裕に笑みが零れる。
「じゃあ、早くやりましょう?」
「はい。宜しくお願いします。新人さん」
2人はバトルモードへと移行する。
アルカとキメラも観戦モードで2人の戦いを観戦するようだ。
試合開始の電子音声がフィールドに鳴り響く。
「さてと……では、“一瞬”で仕留めさせていただきます」
ミナモトは槍を構え、棒立ちのパスタを刺し殺そうとする。
「キメラちゃん、あの人大丈夫なのか?」
「う~ん。どうでしょう?」
観戦している二人が心配しているが、問題は無かったようだ。
パスタはジャストでミナモトの一撃を回避する。
「何ィ!?」
「貴方の一瞬っていつまでかしら?」
「こっ……このっ!!」
レベル差がかなりあるという事もあり、素早さではミナモトに分がある。
だが、相手の攻撃をジャストで回避する事により、無駄のない動きで回避する事が可能なのだ。勿論、簡単にできる事ではない。
「ならばっ! 貴様の全てを暴く!! “超鑑定”!!」
目視した全てを暴くユニークスキル【超鑑定】。だが、それは無効となった。
「無効化だと!?」
パスタはモンガルコラボアイテムである、【鑑定拒否証】を所持していた。これを所持していると、鑑定系のスキルが無効となるのだ。
「素人の癖に小賢しい手を使うんですね?」
「じゃあ、テイマーらしく戦おうかしら? って私としたらいけない? 私の可愛いサンドシャークちゃんのレベルはまだ育成できてなくて、とてもじゃないけど戦わせられないわ。あら困った」
始めて間もない、そして配布されて間もない、パスタのサンドシャークのレベルはまだ【レベル2】であった。呼び出す事も出来るが、お気に入りのガールズだったので、レベルの低い今は呼び出さないようだ。
「だったらここで終わらせてやるよ! 初心者相手に使いたくはなかったんですけどね」
ミナモトは眼鏡をクイッとさせると、スキルを発動させる。
【パーフェクトスピア】。そのスキルを使用し、槍を投げると相手に必中するという恐ろしいスキルである。
「キエエエエエエエイッ!!」
ミナモトは奇声を発しながら、槍をぶん投げた。
それは、パスタに突き刺さり、HPバーを削り切ったかのように見えた。
「どういう事ですか……!?」
「コラボ期間専用のアイテムで、尚且つレアアイテムみたいなんだけど、使わないと勿体ないと思ってね。使ってみたわ」
そのアイテムの名前は【ギリギリング】。
所持していると自動的に腕にはめられるが、装備ではなく、アイテムである。
コラボ期間中限定の強力アイテムであり、HP満タンから0になるダメージを受けた際、【ギリギリング】を犠牲にしてプレイヤーのHPを1残すことができる。
「はは! しかし、貴方のHPは残り1です! 勝ち目はありません」
ミナモトは槍を投げてしまったので、素手で殴りかかる。
HPが1しか残っていなかったので、素手1発でも十分倒すことができる。
どうせパスタのレベルではまともにダメージを与えられる攻撃を持っている筈がないと考えたミナモトは特に警戒せずに突っ込んだ。
「頑張って、スカイエル」
モンガルコラボを利用しテイムしたモンスター、【スカイエル】を呼び出す。
外見は天使の姿をした大きな翼をバサバサさせている可愛らしい少女といった感じであるが、モンガル原作では、かなり高い性能を持っているガールズであった。
テイムモンスターへの指示を出す方法は3つある。1つはメニュー画面からテイムモンスターの画面を開き、そこをタッチして指示を出す方法。2つ目は声に出して指示を出す方法。そして3つ目は心の中で念じて発動する方法である。3つ目が一番隙が少ないのだが、その方法で指示を出すには様々な条件をクリアしなくてはならなく面倒である。ちなみに、1つ目か2つ目の方法でないと現在のパスタはモンスターへの指示を行えない。
パスタはコマンドの画面を開き、素早くそれをタッチする。
それにより、スカイエルは【ライフコピー】というスキルを発動する。
効果は、相手のHPを自ら又は主と同じにする効果をもっている。
スカイエルの手からキラキラした光のエフェクトが放たれる。
本来のミナモトであればかわせていたかもしれないが、油断していた為、そのまま食らってしまう。ミナモトは自らのHPが1になっているのに気が付かず、パスタを殴ろうとした……のだが、逆にパスタのカウンターが襲い掛かるのであった。
「ぐはっ!?」
ミナモトの腹部にパスタの拳がめり込んだ。腹パンである。
「!?」
そして、ミナモトのHPは0となる。ミナモト本人もいつの間にか負けていたので驚いている様子である。
「あ、あんなにレベル差があったのに勝っちゃいました……!! 恐るべき! モンガルプレイヤー!!」
キメラは驚きと同時に、目を輝かせている。
「サインでも貰いましょうかね! 絶対有名になりますよ、あの人!」
バトルモードが終了する。
「認めましょう。貴方は素人ですが、かなりの強さを持っています」
「意外と素直ね」
「負けてしまっては仕方がありません。ですが勿体無いですね。貴方程の反射神経があるならばテイマーよりももっと向いた職業があった筈だと思うんですよ」
「私はモンガルが好きなのだからなぁ」
「そうですか。まっ、いいでしょう……これで勝ったと思わないことです!!」
ミナモトは悔しさが爆発したのか、そう言うとログアウトボタンをタッチした。




