91.あの記憶……失われた記憶!!
ミーナ。職業【錬金術師】の女の子である。
パーティ対抗トーナメントでは、アルカのチームの一員として共に戦った仲間の1人である。
そんな彼女だが、GWO内のアバターを使用し、vtuber化したらしい。
「一体どんな動画を上げているんだ?」
「主にGWOのプレイ動画をあげているようです。あっほらっ! 視聴者数も凄いですよ」
アルカはうんうんと頷いた。
配信者にあまり詳しくないアルカでも何となくそれが凄いということが分かった。
やはり、大会で優勝したということが大きいのであろうか。
「楽しそうにやってるなぁ」
「そうですね。私も最近ゲーム部としての活動が忙しくて中々ログインできてないんですよ。しかもですよ? 強すぎるスキルとかは弱体化されたみたいで、また新しい戦術を考えなくてはならなくなってしまいました……。まぁ、あれだけ暴れられれば私も満足ですが」
「弱体化……?」
「ゲームバランスを考えると仕方がない事なのかもしれませんが……。オンラインゲームっていかに長く遊んでもらえるかが凄い重要になって来ると思うんですよ。そこでバランス調整としてそういうのも必要なのかな……と」
「ゲームクリエイターってのも大変なんだな、やっぱり」
新たなプレイヤーを呼び込み、遊んでもらう。
ハードの関係上、少し興味を持つ程度では遊んでもらう事も困難だ。
その為、VRヘッドギア、そしてGWO開発会社である【ブレイドアロー社】は日々努力を重ねているのだ。
「ってミーナには注意を促さなくて良いのか? 俺の仲間って事は大会の動画で知ってるだろうし、源に狙われるんじゃないのか?」
「それなんですが、ミーナちゃんは今までインターネットで活動を行っていなかったようで、前世も何もないみたいです。それどころか、そんな事をしようものならファンの方々に逆に特定されちゃいますよ」
「エレ☆シスのえーと前世? が特定された時はファンは怒らなかったのか?」
「何かあまり怒りませんでしたね。元々知られていた情報だったみたいで」
「えっ?」
先程のキメラの話では、源が特定したかのように言っていたが、元ある情報をさも自分が見つけましたと言っていたのならば、やばい人というよりもただの痛い人という事になってしまう。
「キメラちゃん、さっき慌ててたみたいだけど、本人がそこまで特定能力もってないなら慌てる必要もないんじゃない?」
「言われてみればそうかもしれません……。いや、何か慌ててすみません」
「別にいいけど……それにしても源……一体何者なんだ……? フレンドにもそんなプレイヤーは居なかった筈……って待てよ?」
何かを思い出したようだ。
源……ミナモト……居たかもしれない。
(正直、存在を忘れていたぜ)
「アルカさん……?」
「砂漠エリアで出会った“ミナモト”ってプレイヤーを覚えているか? 眼鏡をかけていた筈だ」
「ミナモトさん……」
1分くらい考え込み、顔をムッとさせたが閃いた喜びの方が大きかったのかすぐに顔をパァッっと明るくする。
「ああああああああ!! 思い出しました!! 色々ありすぎてすっかり忘れていました!! あの方ですか!!」
そう、いきなり出会い、色々言って来たプレイヤーである。
【※58話参照】
「俺も今思い出した。けど妙だ。確かに字は違うけど読みは同じだ、なぜ同じ名前を使うんだ?」
と考えていると、アルカの隣の空間が歪む。
そこから出てきたのは、キメラやミーナと同じくパーティ対抗トーナメントで共に戦ったチームメンバーの一人である。ロボットが大好きなプレイヤーだ。
「話は聞かせてもらった」
「会長!? 確か今日は生徒会の仕事が夏休みにも関わらずあるって……」
「ん? ああ、生徒会副会長の“半魔”ちゃんに預けて来たけど……駄目?」
「ひ、ひどい」
「勘違いしないでくれ、ちょっと息抜きに来ただけで私も遅れて向かう」
「ま、まぁそれなら……」
カノンが人差し指を頭につけ、目をつむる。
アルカはそれを見る。
「久しぶり! いきなり来たけど、何か思いついたのか?」
「ああ、私の推理としては、ミナモト君はアルカ君と戦いたいのではないかな?」
「俺と戦う?」
「ああ、思い出してみてくれ。彼女と会った時の言動を、明らかに自信のある言動だ。自らの手の内を晒してしまうくらいには余裕のある強さだった事が伺える。だが、決勝はおろか本戦にもその名前はなかった。つまり、予選落ちした可能性が高い。あれだけ大口をたたいておいて戦う事も出来なかったんだ、悔しい筈だ。だからああやって動画を投稿する事により、注目を集め、アルカ君に思い出してもらい、GWO内で叩き潰すのを計画していたのではないかな?」
「だったら素直に言えば別に戦闘くらいなら……」
「アルカ君が最後にログインしたのはいつだい?」
「大会イベント後はログインしてないな……」
「そう、どの時間に探しても見つからない……。もしかして辞めてしまったのでは? そう考えたのかもしれない。キメラ君も最近ログイン出来てなかったみたいだしね。ミーナ君に至っては最近はvtuber化していて自身の【マイホーム】での配信が主だったみたいだし、私も喫茶店巡りとかに忙しく、極君は不明。となれば、そうなるんじゃない?」
「なるほど……じゃあ久しぶりに戦いに行くか! ミナモトがどんな戦い方をするかにも興味があるしな」
「ふっ、好戦的だね。検討を祈るよ。では、私はアイスを買った後に学校へ向かうので、ここで失礼するよ」
カノンはログアウトボタンを押し、その場から姿を消した。




