89.ゲームライフはどこまでも続く【第二章完】
「あいつは私を作った奴の1人……!!」
モノが電光掲示板を睨み付けた。
そして、今大会はリアルタイムで動画配信されているのだが、この瞬間にもこれを視聴していた者達は参加者にロボットがいた事について非常に驚いていた。
『お、動画を視聴している方も驚いてますねっ! では、誰がロボットだったのか? そ・れ・は……何とここにいるモノ選手だぁ!!』
白衣のプレイヤーは電光掲示板越しであったが、モノをビシッと指差す。
「本当にロボットだったとはね」
カノンがフッと鼻で笑った。
『宣伝になってしまうのですが。現在、ブレイドアロー社では人型ロボット……正確に言いますと、完全に、人間と同じ外見をしたものを制作しているのですよ! 勿論触り心地から何まで本当に人間と同じようなのをね。そして肝心の中身何ですが……』
白衣のプレイヤーが困った顔で右上を見ながら顔に手を当てた。
『自然な人格の構築、それが中々上手くいきませんでしたが……』
今度は、キリッとした顔で正面を向く。
『とあるきっかけがあり、上手い事行きましてね。試しに1体作ってみたのですよ。それが彼女です。どうです? 凄いでしょう? ただ……どうしても喜怒哀楽があまり表に出なかったので私はそこが心配でした……。そこで! 自社のゲームを一定期間誰かと遊ばせて、感情を学習させようと考えていたのです。本当は試験期間が終わったらデータを削除しようと考えていたのですが……』
ピックは「やっぱりか……!」と自分の予想が当たっていた事を確認する。
だが、その次に続く言葉を聴いた瞬間、表情が喜びに変わるのであった。
『やめました!! いやぁ~これはもう人間と変わらないなと、私は思ったんですよ。それを殺す何て……何て私はできません!! いやだって、人殺しは……流石に……ねぇ?』
白衣のプレイヤーは「フフフ」と笑うと、指パッチンをする。
『そちらのカノン選手が降参を提案した際に、彼女は見事な感情の爆発を見せてくれました。その時、確信したんですよ。彼女は紛れもない人間になったんだと!!』
カノンはドヤ顔と笑顔が混ざり合った表情で、ウインクをモノに向ける。
「私のおかげで助かったな」
モノは軽くイラッとしたが、今となってはどうでも良かった。
別に死ぬ事も無くなったのだから。
『と、いう事です……。皆さん、彼女のお友達に是非なってあげてください。そして、商品化したら買ってください(笑)。宜しくお願い致します。ではでは~』
電光掲示板が元の表示に戻る。
「?? ロボットなの?」
アルカはジロジロとモノを見た。
「ああ、そうだ」
「だからあんなプレイグが上手いんだな?」
「まぁ、それもあるな」
他のメンバーもモノに興味を抱いたようで、話しかけた。
モノは、まんざらでもなさそうだ。
「良かった……これぞ、ロックエンド」
ピックは涙を流しながら、アルカの元へと近付く。
「さっきはすまなかったぜぃ。熱い戦いをありがとうな!」
「いや、こっちこそ。そっちの事情も知らずに」
二人は握手をかわした。
これにて一件落着である。
☆
「では、優勝したチームには優勝賞品が贈られます! 賞金とユニークスキルです」
運営のお姉さんがアルカのチーム一人一人にそれを配った。
無限大VXについては触れられなかった。
正真正銘のリアルレアアイテムなので、ここで発表してしまうと、特定されて強盗にあう可能性があるからだ。
故に、隠されていた優勝賞品を知る者はアルカとピックチームの面々しかいない。
ちなみに運営からのメッセージには口外しないようにとの記載も実はあった。
「そして……試合中に見た“あの”テイムモンスターに驚いた方も多いと思いますが……何と! 8月よりモンスターガールズとGWOがコラボしちゃいます!! サンドシャークちゃんも手に入ります!! 期待しててください!!」
掲示板などでは、どちらかというとこちらの話題の方が盛り上がった。
中にはコラボするならやってみようかな? と考えるプレイヤーも少なくなくない。
☆
そして、一週間後
「廃部撤回!?」
キメラは驚く。優勝で実績を上げればゲーム部廃部を撤回されるとは思ってはいたものの、実際にここまで早く撤回されるとは思っていなかった。
キメラは実績が近年無いから廃部……と考えていたのだが、本当は違うのだ。
ここだけの話だが、文芸部部長が過去部長同士の因縁に決着を付けようと考え、スマホゲーム部部長に莫大な金を用意させ、その金を使って学校側に訴えかけたのであった。
それだと学校側が問題になるので、あくまで表向きはキメラの言っていた通りの理由で廃部宣言をしていた。
では、なぜ急にそれが取りやめになったのかというと。
GWO内での試合後に友情のようなものが芽生えたのであろう。考えが変わったようだ。
「バカが……あいつの色仕掛け何て効かねぇんだよバカが! 試合後に手なんて握りやがって、バカが。今日こそ連絡先聞いてあいつの素性を明かしてやるぜバカが」
文芸部部長のリアルは男子生徒だった。
あれ以来、コソコソとキメラのリアルである、来夢の後を学校内で付けていた。
会長にはバレバレであったが、あえてそれを見ていた。家に帰ったら会長はそれを思い出して爆笑していた。モジモジしている文芸部部長とそれに気付かない彼女の姿が面白過ぎたのだ。
ちなみにストーキングしているのは、連絡先を聞こうとしているが、緊張してしまい中々話しかけられないからであった。
☆
そして、アルカはというと、天使&悪魔のようなコスチュームのアバターをした二人組の宿題を手伝ったり、【マイホーム】で農作物を育てていたりした。要するにゲーム内でスローライフを行っていたのだ。
「ああ……平和だ」
そんな時、メッセージが届く。
『今日もライブやるぜ! 来てくれよな!』
ピックからであった。
あれから、ピックは【To_Soul】のメンバーで同名のクランを作成し、バンドを組んだのだ。
ちなみにそのクランは今の所新メンバーを募集しては、いなかった。いつまでも大会の事を忘れないよう、クランを作っただけである。
「ライブか……本当に元気だな」
アルカは寝そべっていた体を起こし、ライブ会場へと向かう。
「さてと……飛んでいくか!」
アルカは翼を大きく広げ、ライブ会場まで向かおうとした。
「アルカ殿~拙者も~」
いつの間にかアルカの【マイホーム】に極が来ていた。
「おっ! 偶然だな! よしっ! 超特急で行くからしっかり捕まってろよ!」
アルカは、【第五の瞳-プレストフォルム-】を発動させると、極を背に乗せライブ会場へと向かうのであった。




