88.風
そのスキルは今までとは大きく違っていた。
現在、○○の瞳……通称アルカは瞳スキルシリーズと呼ぶようにしているユニークスキルがある。現在は第四の瞳まで解放されており、どれも特徴的な効果を持っている。
だが、今回アルカが取得した第五の瞳は、一味違っていた。
【第五の瞳-プレストフォルム-】。それが第五の瞳の名前であった。
それを発動すると、アルカを眩い光が包み込んだ。
「自爆か!?」
ピックは慌てて距離を取る。
だが、実際はこの時に攻撃しておけば良かった。
アルカの身体から発せられる光が収まった時には、別な姿をした龍がそこに居たのだ。
「くっ! 変身系のスキルか」
ピックは予想していなかった。
なぜならば、フォルムをチェンジする系のスキルが使えるプレイヤーは、GWOで現在7人しか確認されていないからである。
「体が軽い……!!」
アルカの現在の姿は、元の姿よりも細くなっていた。
翼の下にはブースターのようなものが取り付けられており、これを使用する事により、かなりの高速移動が可能になると考えられる。
顔もシュッとしており、瞳は緑色となっている。
属性も闇属性から風属性へと変化していた。
「ここに来て新スキルとは最高にロックな奴だぜ」
ピックは剣を構える。
右手にはギター型の剣、左手には地面に転がっていた金色の剣を握り、再び二刀流の構えを取る。
「ハイパー……スラッシュ!!」
ピックは再び【ハイパースラッシュ】を放とうとする。
しかし、アルカの使用した【トルネード】の方がスキルの出がはやかった。
どうやら、技の出も早くなるらしい。
「ぐあっ!?」
ピックは竜巻を受け、怯んでしまう。
だが、小型の竜巻だ。ダメージも対してない。
(本命はこっちだ!!)
アルカは素早く、ピックに近付くと怯んでいるピックを掴み、空中を高速で移動する。
「離せええええええええええ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
空中で突然ピックを解放し、【トルネード】を足から放ちながら、空中でピックに蹴りを放つ。特撮ヒーローのキック攻撃のようであった。
ピックは地面に接近しながら思う。
(まだ……まだ負けられない……!! そうだ! もう一度、リミテッドソウルを……)
発動しようとしたのだが、まだ再使用は不可能であった。
強すぎるスキルが故、一度効果が切れると、同じ相手には一定時間使用不可となってしまう。
(諦めて……たまるか!!)
ピックの脳裏には、走馬灯のようにチームメンバーとの楽しくも刺激的なゲームライフが再生されていた。
これから先もチームメンバー……それにまだ見ぬプレイヤー達と仲良く、楽しくやっていけるだろう。大会で戦った相手と今後交流していくのも楽しいかもしれない。
(けど……ここで我が負けたらモノは……)
そうは言うものの、この体制からはどうにもできそうにもない。
ワープ系のスキルが使えれば話は別であるが……。
ピックが地面にめり込む。
アルカはそれを確認すると、バックステップで距離を取る。
「楽しかったよ。ありがとうございました」
アルカはかなりの熱い戦いを見せてくれたピックに敬意を表し、HPが0になり、消えゆくピックに対してお辞儀をした。
そして……電光掲示板にデカデカとチーム【Curiosity】が勝利した意が表示される。
『何という凄い接戦……! そしてその接戦の末、勝利を収めたのはチーム【Curiosity】だああああああああああああ!!』
アナウンスが鳴り響く。
アルカのフォルムが元のフォルムへと戻り、アルカは勝利を喜ぶ。
「よしっ! よしっ! 優勝した! マジで! 俺達が……優勝だ!!」
何かで頂点を掴む。そんな経験が無いアルカは素直に喜んだ。
「やったでござるな!」
倒されたメンバーが周囲に召喚される。
「ああ、皆。ありがとう!!」
極は嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ね、ミーナはニコリと笑いながら喜ぶ。
キメラはカノンに対し、泣いて抱きついた。対してカノンは「やれやれ」とでも言いたげな表情で溜息をつく。
「負けちゃった……」
ピックの周囲にも負けたチームメンバーが召喚された。
リルがショボーンと落ち込む。
「でも、ここまで来れたのは凄いですよ! 今度何かの大会があったら優勝しましょう! ……ねっ? ピックさん。……ピックさん?」
イチゴタルトは、ピックに言うが、ピックはそれに対し返事をせずに言う。
「もう一度……もう一度勝負しろ!! 3回勝負だ!! 先に2回勝った方の勝ちだ! さぁ!」
「!? ピックさん?」
イチゴタルトは驚きの表情でピックを見る。
リアルであれば心を読めるイチゴタルトであったが、今の彼女はただ単にピックの行動が疑問であった。
(どうしたんでしょう……。いつもの灯火さんでしたら、悔しがりながらもすぐに気持ちを切り替えて『次はもっとロックに行こうぜ!!』とでも言いそうな筈ですが……)
「あの……そんなルールありませんが……」
運営のお姉さんが困ったトーンでそう言った。
「悔しいのは分かりますが、また次の機会に頑張りませんか? 僕もプレイングスキルをもっと磨いていくので、一緒に修行しましょう!」
コノミが言う。モノがロボットなのを知っているのは、本人を除けばピックだけだ。無理もない。
「次はない……我達にはあるかもしれないけど……モノにはないんだよ……」
「えっ? それってどういう?」
ピックとモノを除く、チームメンバーの皆が疑問符を浮かべた。
その時、電光掲示板の表示が切り替わり、白衣を来たプレイヤーの姿で映し出される。
「「!!」」
ピックとモノは、そのプレイヤーに見覚えがあった。
そうである、モノと最初に出会った際に彼女と一緒にいたプレイヤーである。
【ブレイドアロー社】の人間である。
『いやー! 素晴らしい戦いでしたね、ええ。あ、すみません。私、ブレイドアロー社の人間です。あっ! このゲームに不満があっても石は投げないでくださいね。私はこのゲームの開発には携わっていないものでして……。あっ被害妄想だったらすみません。実は……何と!! このゲームに驚くべきプレイヤーが1人隠れてました!! 何と……人間ではありません! ロボットです!!』




