86.【閑話】ミーナがGWOを始めるまで
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「俺の狙いは百発百中……そうだろ?」
「そ、そうだけどさ……怖いからこういうのやめよう……?」
どこにあるかも不明な、中世ヨーロッパのようなそうでないような街の外れにある空き地での出来事。少年が少女に向かって弓矢を向けていた。少女の頭上にはリンゴが乗っている。
「やーだよ」
少年が弓矢を放つと、それは的確に頭上のリンゴを撃ち抜いた。
「ひっ!」
リンゴに矢が刺さる音が聴こえると、少女は思わずビクッとしてしまった。
「おいおいおい、お前はビビり過ぎなんだよ」
「だ、だってぇ」
油断したその一瞬、矢が少女の股下を潜り抜け、壁に突き刺さる。
「ハハッ! どうだぁ!!」
「ひぃぃ」
少年は少女に近付き言う。
「そんなに俺の腕が信用できないのか?」
「そういう訳じゃないけど……」
「そうビクビクすんなよ。俺とお前の仲だろ?」
少年は少女の顎をクイッと片手で持ちあげる。
「な? もうちょっと俺を信用しようぜ」
「うぅ……」
少女は顔を赤らめ、目を合わせないようにした。
少年は少女を解放し、後ろを向くと、ポケットに手を突っ込む。
「ま、惚れるなら今のうちだぜ? 何てったって俺は英雄になるんだからな! へっへっへ!」
「そ、そういうのズルいから……」
「はぁ……ミーナ、お前は可愛いなぁ。ホントに」
少年はミーナと呼ばれる赤髪カチューシャ少女の頭を軽くポンポンした。
「明日はもっといい技を見せてやるよ。いいか逃げるなよ? へっへっへ!」
この少年、名をジュウヤ・ミレニアムと言う。18歳だ。
ミレニアム家の王子として生まれ、魔王を倒し英雄となろうと計画している男だ。
ミーナとは幼馴染であり、ほぼ毎日のようにこうして呼び出しては危険な遊びを繰り返しているのだ。
そして次の日。
「さて、今日は何をすっかなー!」
「私、今日は早めに帰るね。師匠の所で修行しなくちゃいけないから」
「あぁ、そういえばお前、一人前の錬金術師を目指しているんだったな。そんなのどーでもいいだろ? 俺に惚れろ」
ジュウヤは、ミーナに弓を向ける。
「いいか? 動くなよ?」
「ひぃ……」
矢が発射される。
矢は、ミーナの右手の指と指の間の壁に突き刺さる。
「ヒュ~、せーのっ! ジュウヤ! 最高~!!」
ジュウヤは自画自賛をしながら舞い踊った。
そして、調子に乗ったジュウヤはとんでもない行動に出る!
「よいしょっと!」
「!!??」
ジュウヤはミーナに背を向け、ガニ股&中腰の体制を取る。
だが、弓はしっかりとミーナの方を向いていた。
「ふざけてるの?」
「いいや、俺は真面目だぜ。これに成功したら惚れてくれるか?」
「いや、流石にそれは無理だよ!」
「大丈夫! 木で練習した所、100回中95回成功した! どっちにしろ、惚れちまうぜ、きっと」
ミーナは青ざめるが、ジュウヤにウインクをされると、顔が赤くなる。
心臓がドキドキする。
胸が痛い。
これが恋?
否、ミーナの胸には矢が刺さっていた。
「あ……ああああああああああ!! し、死んだ? え? 死んだ!?」
ジュウヤは青ざめながら叫んだ。
ミーナはぐったりと倒れている。
「俺は知らないぞ……俺は知らないぞー!!」
と、思っているが、先程の行動を目撃していた人物が居たようでジュウヤは追いかけられる。
「行き止まりか……くそっ……!!」
崖の端に走って来てしまった。
ジュウヤは人間なので飛ぶことはできない。
「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!!」
上空に運悪く飛んでいたモンスターがジュウヤに狙いを定め、火球が放たれる。
「うわあああああああああああああああああああ!!」
直撃は避けたが、その衝撃でジュウヤは崖から落ちてしまう。
かなりの高さでおそらく助からないだろう。
「マジ、ないわああああああああああああああああああああああ!!」
ジュウヤの叫びは森中に響き渡るのであった……。
その頃、ミーナは。
(あぁ……私死ぬんだ……。まだまだ錬金術師として未熟だったのに……それにまだまだやりたい事が……)
そう考えていると、ミーナの脳内に師匠からの声が響く。
『ミーナ。貴方は今、生死の境を彷徨っている。そうですね?』
少し悲しそうな雰囲気だが、冷静な声だ。
『師匠!?』
いつの間にかミーナは真っ白な空間に居た。
不思議と痛みも感じない。
『弟子の生命が危うくなった場合、精神世界で会話できる魔法を施しておいたのです。どちらにしろ、時間がありません。このままではミーナは死にます』
『やっぱりですか……』
『生き物は一度死んだら二度と蘇る事は出来ません。なのでここで死んだらミーナという存在は完全に消えます』
『ショ、ショボーン……』
『あら? 結構余裕がありそうですね』
『無いですよ!!』
『ふふ、やはり貴方は私以上の錬金術師の素質があるようですね。おそらく私からは最後になると思いますが、貴方に秘伝の錬金術を託します。時間がありません、貴方の才能とかに全てかかっています』
『きゅ、急ですね。私にできるんですか!?』
『どうでしょう?』
『どうでしょうって……』
『肉体と魂を1つにする……つまりは錬金術の逆をし、さらにそれを1つにするのです』
『??』
ミーナは頭に疑問符を複数浮かべる。顔から多量の汗が落ちる。
『大丈夫、ミーナならできます』
ミーナは師匠の言葉を信じ、秘伝の錬金術を発動させる。
現実世界のミーナの肉体が分解され、魂と同化する。
成功したのだ。
『本当に成功しましたね。感激です。これは才能もそうですが、運もかなり絡むんですよ?100000回やって1回成功するかしないかでしょう。更に失敗すると、死亡し、生まれてきた事自体が抹消され、誰の記憶からも消えるのです。良くやりましたね』
ミーナは目を丸くする。
『し、師匠!! 酷いですよ!!』
師匠はお茶目に笑う。
『さて、ミーナ。死にはしませんでしたが、その秘伝の錬金術には大きなデメリットがあるのです。それは……』
それは……この世界にいられなくなる。
親、友達、師匠と会えなくなるという事を意味していた。
別な世界で0からやり直す。
そういう事であった。
『べ、別な世界って……!?』
『世界というのは無数に存在すると言われています。もしかしたら今より過酷な世界かもしれません。ですが、ミーナならきっと大丈夫です。錬金術がない世界に辿り着いたとしても、貴方の心は立派な錬金術師としてやっていけるでしょう』
『し、師匠……師匠ううううううううううう!!』
ミーナは師匠と呼ぶ女性に抱き着き、泣き叫ぶのであった。
師匠は優しくミーナの頭を撫でる。
すると、ミーナの頭頂部がほんのり温かくなる。
『最後におまじないです』
『師匠……?』
『困った時に役に立つおまじないです』
そして、2007年4月15日。
彼女は新たな肉体を得て赤子として目覚める。
如月 美奈として。
そして、彼女は再びVRゲームという限定的な世界で、錬金術師としてやっていく事となる。




