80.龍vs勇者
そして、試合開始時間まで時は流れる。
「アルさん、絶対勝ちましょうね! 勝ったら私の秘密教えちゃいます♪」
「個人情報はあまり流出させない方が良いと思うぞ?」
「じゃあ、教えません!」
「そうか!」
試合前、緊張と同時にワクワクが抑えられないミーナはアルカと他愛もない話をしていた。
そして、決勝戦のステージは意外な場所であった。
噴水広場に多くの建物……そう、決勝戦で使用されるステージは【はじまりの街】であった。
最も、はじまりの街そのものを使用する訳では無い。あくまでそれをモチーフにしたフィールドである。
大会に興味の無いプレイヤーも当然いるので、そんな中【はじまりの街】でドンパチし始めたらそのプレイヤー達に迷惑である。
「こういったフィールドは、はじめてでござるな」
建物が数多くあるので、身を隠すのにも適している。
かくれんぼ的な戦い方もありだ。
そして、運営によるカウントダウンが始まり、それが0になると試合が始まる。
「皆、作戦通りだ!」
アルカは皆に指示を出す。
決勝戦でアルカのチームが考えた作戦とは……?
チームの皆が、バラバラにフィールドに散る。
一体どのような意図があるのだろうか?
☆
試合前の作戦会議にて。
「正直言って、俺達って団体戦向いてなくないか?」
「まぁ、私も団体行動は苦手だね。クラスではいつも浮いている」
カノンがなぜが自慢げに言う。
「あ、いや、そういう事じゃないんだ。というか何かごめん」
「ハハハ、気にするな」
カノンは別に1人で居る事を苦に思わないタイプなので、逆に浮いている事を自慢しているのだ。
それに仲の良い後輩も居るので、完全にぼっちという訳では無い。
「っと時間が無いから話を戻すとだな。ぶっちゃけ俺達って個々のスキルなり戦い方なりがかなり特徴的だろ? だからもういっそ個人で動いて各々が敵を撃破するってのはどうだ?」
アルカ達のチームはかなり個性的だ。
だが、いきなりそれを実行するのは不安である。
「チーム戦なのに、それも決勝でバラバラになるっていうのは不安です……が、対戦相手のチームの情報を見るにその方法を取るのが良いのかもしれません」
キメラが「ふふん!」と言いながらドヤ顔で人差し指を立てる。
余程うざいと感じたのか、カノンが珍しく舌打ちをしたが気にせずに続ける。
「相手は物凄いチームワークで勝ち上がって来ました。だったらこっちは逆に各々の個人の能力で立ち向かうべきです! いや、互いを信じるから出来る! 究極のチームワークですよ! これは!!」
もうやけくそである。
「アルカ君、キメラ君。相手がチーム全員で1人ずつ潰しに来たらどうするんだい? 1人で5人を相手する事になるけど?」
1vs5、とても勝ち目のある戦いでは無い。
「会長は反対なんですか?」
「いや、反対はしていない。どうするかを聞いているだけだ」
「会長だったらどうするんですか?」
「逃げる」
「へ?」
「勝ち目のない戦いはしない。時には相手に背を向け、時には相手に牙をむく。それが私の戦い方だ」
このような話し合いが行われ、最終的にはこうなった。
【一気にパーティが壊滅される恐れがある為、バラバラになり、相手が3人以上の場合は逃げる。勝ち目が無さそうだった場合も逃げる】
「よし、決まりだ。皆、頼んだぞ!」
☆
各々がバラバラに散る。
これで一気に全滅という事はないだろう。
ちなみに決勝戦での【ボス】もアルカである。
「俺の場合どうしても体が大きいから隠れるのには不利だな。と、なるともう戦闘が始まると思った方が良さそうだな」
アルカの予想は正しく、金色のプレイヤーが現れた。
勇者の異名を持つプレイヤー、コノミの登場である。
「決勝で会えましたね」
コノミがニヤリとする。
この時を楽しみにしていたかのようだ。
だが、それはアルカも同じである。
「そうだな。仲間は来ていないのか?」
「アルカさんとはサシでやりたかったんです」
「それは嬉しいな」
出し惜しみは無しだ。そう考えたアルカは【第一の瞳】を発動させる。
【第一の瞳】から【装備破壊】のコンボで即死させるつもりだ。
アルカの腹部から相手を捕らえる為の触手が伸びる。
「前はそれにやられましたね。ですが、その技には致命的な弱点があります」
コノミは向かって来た触手を斬る。
「その技の弱点。それはその触手で相手を捕らえ、更にはそのまま腹部へ格納しなくてはならない。なので、捕まる前に切断する。それか捕まっても格納される前に抜け出せれば大丈夫ですね。初見殺しなのは間違いないですが……対策さえしっかりしていれば怖くありません」
前回負けたのがかなり悔しかったのか、しっかりと対策している。
おまけにコノミの武器は剣だ。切断にはもってこいだ。
それに今回のコノミは装備を変更している。
前回は、剣とレイピアの変態2刀流であったが、今回は剣2本の正統派2刀流である。
「行きますよ……!! 【ギャラクシー・ザ・スラッシュ】!!」
コノミの2本の剣が銀河をイメージさせる青色に光る。
【ギャラクシー・ザ・スラッシュ】。
取得条件が不明な為、ユニークスキルでは無いのだが、コノミしか持って居ないスキルである。
効果は何と、100連撃を相手にぶち込むというかなり強力なスキルである。
アルカはスキルを破られたばかりで隙のある状態、そこにこのスキルをぶち込む事により、試合を終了にまで追い込むつもりだ。
ちなみに一撃一撃に怯み効果がある為、無敵状態か怯み対策をしているでもない限り、途中で避けるのは難しい。
「すみませんね!! 開始早々試合を終わらせてしまい」
「【召喚】」
アルカはスキル【召喚】を発動させる。
すると、二人の目の前に赤茶色のティラノサウルスモンスターが出現する。
ネームドボス。ボルケーノザウルスのポチである。
「ボ、ボルケーノザウルス!? というかボスモンスターを召喚した!? こんなスキルを持って居た何て僕のデータベースには無かったぞ!?」
当たり前である。
このスキルは四天王の一人、【ヒョヒョマル】戦のみで使用したのだ。
その後はかわいそうな事に一度も使用されずにいたユニークスキルである。
ポチはコノミ……では無く、アルカを吹っ飛ばす。
これにより、アルカは100連撃の攻撃から逃れるが、ポチはモロに連撃を食らい、消滅してしまう。
だが、100の攻撃はまだ終わらない。
アルカがポチにより吹っ飛ばされた後も何も無い空間に向かって剣をブンブンと振っている。
「悪いな」
「くっ……焦りすぎましたか……今回の敗因はスキルに頼ってしまった事です。さぁ、剣を空振りさせているのも格好悪いです。トドメをさしてください」
「ああ……今度は対戦だけでなく、協力プレイもしたいもんだな」
「あっ、それは僕も思いました」
アルカは【第一の瞳】でコノミを装備すると、【装備破壊】でコノミを破壊した。




