78.チーム【To_Soul】結成の秘密【後編】
次回からは主人公達の話に戻ります。
その後、彼女達は猛特訓を重ねた。
「イチゴタルトォ!! 何やってんだぁ!! お前ぇぇぇ!!」
「す、すみません」
時には戦闘慣れしていないイチゴタルトが仲間のHPを0にしたり。
「ざっと200人か……」
プレイングスキルを磨くために数多くのプレイヤーを相手にしたり。
その他様々な特訓と遊びを重ねた。
結果、GWO内で彼女達はそこそこ有名な存在となっていた。
その他にも無茶なプレイや、通常のプレイヤーがしないような行動もして来た為、ユニークスキル何かも手に入った。
そして時は流れ、パーティ対抗トーナメントの情報が広まる。
「大型イベントってこの事だったのか」
ピックは考える。
おそらくこの大会で優勝しなければモノのデータは削除されてしまうのだろうと。
「くだらん」
くだらんと言いながらパーティを支えてくれているモノ。
ロボットなだけあり、戦闘の際にも常に最適解を導き出してくれる。
「リル! これで優勝する!」
「そうだな! ロックなソウル! 見せてやろうぜ!」
モノの命がかかっている事は口にしない。
モノが嫌がるからだ。
そして、この大会を参加する際に必要メンバーが5人だという事に、ピックは気が付く。
「我、イチゴタルト、リル、モノ。1人足りないな。どぅするYO! ヘイ! イチゴタルト! ガチで優勝を狙いたいんだがYO! お前ならどうするYO?」
「え? えぇと……勝ちたいなら強い人を5人目にするとか……? でもソロで強い人って居るのかな……? もう他のチームに誘われちゃってるかも……」
「それは大変だ」
ピックは顎をかきながら空を見て考える。
困った。
そんな時、モノが口を開く。
「くだらんが、勇者とか呼ばれてる奴はどうだ?」
何がくだらないのか分からないが、イチゴタルトは勇者という言葉にピンと来た。
「あっ! そうです! あの人そういえばソロでおまけに強いですし、悪い噂を聞きませんね! でも、あの人ずっとソロでした……」
ずっとソロプレイをしているという事は何か理由がありそうだ。
実際、勇者コノミはチーム戦イベントには一切参加していないという情報が広まっている。
「安心しろ、こっちには秘密兵器がある。“あれ”を使う」
“あれ”というのは、とあるアイテムの事である。
「つ、つまり私を利用すると……?」
「当たり前じゃねぇかYO!」
【リアリティセンサー】という無駄にレア度が高いネタアイテムがある。
これを使用すると、10分間のみ現実世界の自分の能力を完全に模倣する事が出来る。
視力、聴力、脚力……外見以外の全てを現実世界の自分と同じにする。
正直なところ、使い所と言ったら、縛りプレイ。リアルな身体能力での対戦を行いたいなどの理由で使われるが、制限時間がある上、各エリアに配置されているランダムボックスの中からかなりの低確率で入手する以外の入手方法が無いアイテムだ。
だが、超能力者のイチゴタルトが使用すると、10分間相手の心を読むことが出来るようになる……のかもしれない。
レアリティが高いので、実験も出来ないでいたのである。
「仕方ない人ですね」
イチゴタルトはクスッと笑うと、承諾した。
ピック、いや、灯火のそういう正直な所も彼女は好きなのだ。
イチゴタルトは、一肌脱ごうと思った。
そうと決まれば勇者コノミの捜索だ。
「サンキュー! っと、それにしてもどうやって勇者と会えば良いんだ?」
「ふん! 私の情報だと、奴は金色が好きみたいだ。第四層の金のダンジョンにいる可能性が高い。まっ、会えるかどうかは運だがな」
モノが不機嫌そうに言った。
そして、警戒されるといけないので、ピックとイチゴタルトの二人で向かう事にした。
「うわっ、目が痛くなりそうなダンジョンですね」
「ロックだな」
金ピカのダンジョンだ、無理もない。
そしてその金のダンジョンに相応しい、全身金色の装備をした少女が居た。
「本当にいたぞ」
ピックはギター型ソードで演奏をする。
ここに居るぞというアピールのつもりのようだ。
すると、コノミがこちらを向く。
「ん? 誰ですか? この不人気ダンジョンに来る何て珍しいですね」
「お前に会いに来た」
「僕にですか? 対戦ですか? ルールはどうしますか?」
よく対戦を挑まれるようで、慣れているようだ。
勝手に対戦をしに来たと思い込んでいる。
「いや、確かにそいつもロックなソウルだが、今回はチームへ誘いに来たんだ」
「お断りします」
「そうか。やれ」
「わ、分かりました」
イチゴタルトはアイテム【リアリティセンサー】を使用した。
(どうだ? いい感じか?)
「いい感じではありませんが、現実世界に居る時と同じ感じです」
(よし、じゃあ始めるぜ!)
コノミは困り眉をし、首を傾げている。
「何ですか? 次のイベントに一緒に参加するという事ですよね? お断りですよ?」
「ネットでの噂によると、コノミは一度もチームで参加するイベントに参加した事が無いようだな?」
「そうですが」
「なぜだ? 理由を教えてくれ」
「嫌です」
イチゴタルトは困った顔をする。
まともに話を聞こうとしないので、心の声も聴こえてこないのだ。
(どうだ? 理由は分かるか?)
「駄目です。話をまともに聴こうとしません。本当はこういう事やりたくないんですが、ピックさんの為に特別に……」
イチゴタルトはピックの耳元でボソボソと話すと、ピックに代わり、コノミの前に立つ。
「はじめまして。イチゴタルトです」
礼儀正しく、頭を下げて挨拶をする。
ピックはいきなりタメ口&呼び捨てだったので、丁寧にいく作戦だ。
それは成功だった。
コノミは育ちが良いのでイチゴタルトに関しては好印象を抱いた。
「こちらこそはじめまして。コノミです」
「コノミさん。心の中で何か喋ってみてください」
「何でですか?」
「私、人の心が読めるんです。本当はVRゲームの中では出来ないんですけど、【リアリティセンダー】ってアイテムでこの世界でも一時的に心が読めます」
そういうと、コノミはそれを実行した。
そして、イチゴタルトはコノミの考えていることを見事当てる。
「おぉ、本当に超能力者何ですか!?」
「はい。そして、これのせいで今まで私はつらい思いをしてきました……VRゲームは逃避何です。人の心の声を聴かなくて済みますから……。今は大切な人に頼まれて特別にゲームの中で能力を使っているんです」
相手の警戒心を解くには、自分の一番弱い部分を見せると良い。
そう考えたイチゴタルトは、あえて自らの能力を明かしたのだ。
「そうだったんですか……」
心の底から同情している事が伝わる。
イチゴタルトは、純粋で優しいコノミに好印象を抱いたようだ。
「僕達は……似た者同士かもしれません。僕も、現実が嫌だからGWOに来るんです」
「……お互い大変ですね」
コノミが心の中で現実で何の不満があるのかを考えたので、コノミはそれを読み取った。
イチゴタルトは、コノミに困り顔で笑顔を向けた。
「でも、きっとイチゴタルトさん程じゃない。僕は現実でも携帯ゲーム機でのギャルゲーという逃避手段を持っていますからね」
コノミは優しく微笑み、「仕方が無いですね」と思うと、言う。
「分かりました。イチゴタルトさんも現実を忘れたくてここに居るのに、その力を僕をチームに誘う為に使っているんですよね。それでしたら、僕も今回だけは頑張ってみます」
それを聴いたピックはドヤ顔でビシッと指差す。
「その言葉をききたかったぜぃ!」
「あぁ、貴方まだ居たんですか」
「か、影が薄いという事か……? NOOOOooooooooooooooooooooooooooooo!!」
こうして、コノミは【To_Soul】として、イベントに参加する事となった。
実はハーレムなのだが、コノミは気付いていない。
各々の能力の高さと、予測不能な戦法、そしてチームワーク。
それらが合わさり、決勝へと進む。
皆で勝利を勝ち取りたい。
そして何より、モノの為に。
ピックは優勝する事を誓う。




