75.華麗
「諦めきれるかよ! 離せ!」
ハイカがキメラを振りほどくが、遅かった。
【第一の瞳】を発動させたアルカの腹部からは触手が伸びる。
「間に合ってください!!」
グレイが扇子でハイカをぶん殴る。
「のわあああああ!!」
ハイカは大きく吹き飛び、難を逃れる。
「油断するからです。良いですか? ゲームとは、ステータスの値が全てでは無いのですよ? 常に相手の考えの先を読み、考える事が大事だと私は思います」
「くっ……説教かよ。良いか? 金があれば全部解決何だよ! 現実もゲームも同じだ馬鹿タレが!!」
ハイカがグレイを睨み付け、そして近付いていく。
「ま、お前はそこで見てな。金の力を見せてやるよ」
「貴方1人では、危なっかしくて見ていられません」
「あ? どういう意味だ!! ふざけるなあああ!!」
ハイカは、グレイを殴る姿勢を取る。
この攻撃力で殴られたら、グレイはひとたまりも無いだろう。
しかし、グレイはハイカの一撃を華麗にかわす。
「勝負なら後で受けますから、今は一緒に相手チームを倒しましょう」
「ぐぬぬ……ウガァー!! しゃぁねぇなぁ」
ハイカはポケットに手を突っ込み、グレイを睨み付けながら言い放った。
「という事だ。俺の怒りを受けろ!」
ど、その時であった。
「いっただきまーす!」
「!?」
近くの林から何者かがハイカの頭部を掴んだ。
オレンジ髪ロン毛のプレイヤーであった。
「な、何するんだ! 俺達親友だろ……?」
「ま、そうだけどねっ? でもさ、【ウルチャバースト】の効果が切れたら不味いじゃん? だったらその前に私が【捕食】して全ステータスを上乗せしちゃおうかなって」
アニメ研究部部長のプレイヤー名は【ガブ】と言うらしい。
そのガブが持つスキル【捕食】は、捕食した相手のHPを0にし、そのステータスを全部上乗せするという効果を持つユニークスキルを持っている。
「で、でもよ……ここで退場は嫌だぜ……?」
「食べさせてくれたらぁ、リアルで私の事食べて良いよ? なんちゃってね!」
「しししし、しょうがない奴だな///」
ハイカは顔を赤らめ、動揺しながら承諾した。
ハイカの身体が粒子となり、ガブの右手に吸収された。
その様子を見たグレイが扇子で口元を隠しながら、溜息を着いた。
「下品ですね」
グレイは小声でそう呟くのであった。
その後、扇子を畳むと、キメラの頭を叩く。
HPが1しか残っていなかったので、キメラはここで退場である。
「くっ……速いな」
グレイの動きはとても素早かった。
とても華麗で、見るもの全てを魅了した。
「アルさん、2体2です」
「ああ、おまけに【ボス】もご登場のようだ。ガブちゃんを倒せばこの試合俺達の勝ちだ」
そう言うと、二人はガブに向かって攻撃を放つ。
ミーナはダイナマイト、アルカはスキル【爆炎】を使用しての攻撃である。
「【捕食】」
ガブがそう言うと、ダイナマイトと火球はガブの右手に吸収されてしまう。
「ごちそうさまです♪」
「き、効かないだと!?」
「私のスキルは全てを喰らいます。それはスキルによる攻撃、アイテムによる攻撃も例外ではありません」
【捕食】には、そのような効果も搭載されていた。
これでは全ての攻撃が無効化されてしまう。
だが、あくまで【捕食】スキルを使用している時のみの話である。
アルカは飛翔し、背後からの攻撃を試みる。
「させませんよ」
グレイが空間を破り、瞬間移動してきた。
手に持った扇子でアルカの頭を叩く。ダメージは少量であったが、それを連続で受けてしまう。
(アバターのステータスはそうでも無い。このグレイってプレイヤー……プレイングスキルが半端ねぇ)
E~Sでランク付けをするとしたら、グレイのプレイングスキルはS級であった。
それに対し、アルカは大きく見積もってCランクくらいのプレイングスキルである。
アバターの能力でゴリ押すスタイルのアルカは、そう言ったプレイングスキルで押して来る相手は苦手としているのであった。
「トラッキングボム!」
ミーナが相手を追尾するダイナマイト、トラッキングボムをガブに向けて発射させる。
「だから無駄ですって♪」
捕食を発動させた。
その時がチャンスだ。アルカはそう思った。
発動中、右手に吸収されればお終いだ。
しかし、後ろはがら空きだ。
「持ってくれよ! 俺のHP!」
アルカは、ダメージを受けながら強引にガブの方へと急ぐ。
グレイからの攻撃も全て無視している。
「いたっ!」
アルカは、ガブの後頭部を思いきりぶん殴る。
ガブは怯み、【捕食】が中断される。
だが、ガブはハイカのチート級ステータスを上乗せしている状態である。
大したダメージにはならなかったが、アルカには即死攻撃がある。
「【第四の瞳-ダークネスブレイクバースト】!!」
黒い球体がアルカの口からゆっくりと発射される。
「そんなもの当たりませんよ!」
「だったら、当てるまでです!」
ミーナが自らの身体にトラッキングボムを大量に巻き付け、使用する。
トラッキングボムの効果により、それを巻き付けたミーナの身体ごとガブへと飛んでいく。
ガブの所まで行くと、爆風が多段ヒットする。
ダメージはほとんど与えられなかったが、その衝撃で足止めは成功した。
「後は頼みましたよ!」
ミーナは自爆ダメージで消滅する。
アルカはガブをぶん殴り、球体の元へと飛ばす。
「いっけえええええええええええ!!」
ガブの身体が黒い球体へとヒットすると、ガブの身体が黒一色に染まり、粒子となり破壊された。
「素晴らしいチームプレイですね」
それを見たグレイはニコリと上品に笑った。
☆
試合が終わり、互いのチームメンバーが向かい合う。
「クソがッ! ゲーム部が……覚えてろ!」
と、文芸部部長。……ちなみにプレイヤー名は【卍】だ。
「ヴェッヘェ!! 負けちゃった!」
と、ヘラヘラ笑うラメ。
「もぉ! 駄目だぞぉ! このぉ♪」
「ちょっ、負けたのはお前だろ。俺はあえてお前に吸収されただけで負けてない!」
「そうかな?」
「俺は負けて無いぞ!」
ハイカとガブは仲良く話をしていた。
「完敗です。アルカさんのチームの皆は、仲が宜しいのですね」
グレイは上品に拍手をした。
「いや、こっちもギリギリの戦いだったからな。緊張感のある戦いをありがとう」
アルカは、グレイに手を差し出すと、握手をした。
「一件落着だね」
「そうですね。あっ、卍さん!」
キメラが卍の元へと駆け寄る。
「な、何だよ」
「先輩方達の仲は悪かったですが、私達まで中悪くする必要はありません。これからは仲良くやっていきましょう! ねっ?」
キメラは卍の片手を自らの両手で包み込む。
「や、やめろぉ!! そういう色仕掛けはなぁ!! 効かないんだよ! バカが!」
「えーと、別にそういう訳では……」
カノンが後ろで笑いながら言う。
「あー駄目だよ。キメラ君には好きな人が居るから」
「べ、別に気にしてねーよ! バカが!」
「なら良いけど」
そうである、キメラはケンヤ君が好きなのだ。
「会長! そういう個人情報広めるの辞めてくださいよ!」
「ハッハッハ、ジョークだよ、ジョーク」
そんな話をしている後ろで、ハイカが叫ぶ。
「試合中の約束は無効だと!?」
「うん♪ 負けちゃったし♪」
「ふざけるなああああああああ!! 負けたのはお前だ! ふざけるなああああ!」
仲が良さそうで何よりである。
他の両チームのプレイヤーは、微笑ましく二人を見守るのであった。




