70.【閑話】モンスターガールズで勝負だ!
戦闘ばかりが続いたので、閑話です。
アルカ達のチーム、【Curiosity】の勝利を告げるアナウンスが鳴り響く。
試合後、互いのチームが顔を合わせる。
魔剣と聖剣は、当然の如く取り上げられた。
第3回戦は次の日曜日に行われる予定となっているので、残りの試合が終われば一旦猶予が与えられる。
勝ち上がってきたチームのデータを元に対策をするもよし、レベルを上げるもよし、緊張を解す為にあえてプレイしないのもよし、である。
祝日である、【VRの日】は、水曜日である。
よって、日曜日まで労働、又は勉学に励まなくてはならないのだ。
『なぁ、極』
『何でござるか?』
アルカは、【VRの日】の夜、極とチャットで会話をしていた。
『次の日が仕事の日の夜って……何か落ち着かないよな』
『そうでござるか?』
『何か、こう、心臓がバクバクする』
『大変でござるな~』
共感してもらえない。
アルカは、思い切って前からの疑問をぶつけてみる。
『極って、ニートなの?』
『ぬ?』
『いや、ネットでそういう事を聞くのはマナー違反だけど、どうしても気になっちゃってな』
カケルと極の付き合いは……短くもないが、だからと言って長くないという訳でも無い。
1年ちょっとくらいになるのだろうか?
どちらにしろ、極には不思議とアルカが心を許す程の魅力があり、すぐに仲良くなった。
そんな仲良しの唯一のネット仲間の素性を知りたいというのも無理はない話である。
アルカには友達が居ないのだ。ネットの友達も極以外居ない。
最近同じチームで活動している、キメラ達も友達と言えば友達だが、アルカは無意識下ではあるが、心を許していない。
『拙者!! ニートではござらん!!』
(こ、この迫力は!?)
ニートではないという事をかなり強調している。
(あ、怪しい……)
正直、ニートだからどうだという事は無いのだが。
だが、カケルは折角の友達何だから苦しみを分かち合いたいとも思っていたので、少しガッカリした。
『ごめん、変な事聞いて』
とりあえず、謝罪の言葉を入れておいた。
『別に良いでござるよ。それにしてもカケル殿は働いているのでござるな? 隙を見せたでござるなぁ!!』
『テンション高いな』
そんな感じでいつも通り、楽しくチャットを行っていた。
そして、その締めとして久しぶりに“ある事“を行う事にした。
『極! 久しぶりに【モンスターズガールズ】で勝負だ!』
『奇遇でござるな、拙者も今そう言おうと思っていたでござる。アルカ殿の悔しがる姿を想像しながらでござるがな!』
カケルは、ゲーム機【ノーリミット】を起動する。
ノーリミットとは、携帯ゲーム機である。
発売されたのは2006年であり、2021年現在までモデルチェンジ等を行いつつも現役で売れ続けているゲーム機である。
VRゲームはVRゲームの良さがあるが、携帯ゲーム機は携帯ゲーム機の良さがあるのだ。
そして、二人が対決するゲームはモンスターガールズ。
架空のモンスターを女の子の姿で擬人化してあるRPGゲームであるが、対戦も熱い。というより、メインは対戦である。
架空のモンスターを擬人化って何? と言いたくなるであろうが、他ゲームのモンスターを擬人化しているのだ。自社ゲームだけでなく、他社ゲームのモンスターも擬人化してある。
実質的なクロスオーバーゲームであり、プレイ人口は多い。
「負けないぜ!」
モンスターガールズは略してモンガルと呼ばれ親しまれており、カケルはそれのかなりの熱狂的なファンであった。
ちなみにゲーム機本体である、ノーリミットとの同時発売で、歴史は長い。
年々、アップデートで技やガールズ達が追加されている。
「ふふっ、極対策はバッチリだぜ! 確かにお前は強い! この前も負けた! だが、お前には致命的な弱点がある!!」
“侍の【パスタライス】が勝負を仕掛けてきた”
「相変わらずふざけたトレーナー名だぜ」
モンガルは、トレーナーと呼ばれるコーチがいる。
プレイヤーはトレーナーとなり、ガールズ達を勝利に導くのだ。
「まず1番手はこいつだぁ!!」
☆
「ここで、俺が降参!」
カケルは自信満々で降参をした。
後1回でも攻撃を受ければ負ける場面でこれ以上、ガールズ達の苦しむ姿を見たくなかったからである。
「くそっ……何であんな立ち回りが出来るんだよ! 選出も間違ってなかったはずだ……!」
モンガルの対戦は、1度に6匹のガールズ達を見せ合い、そこから3匹を選出し、技、入れ替えを駆使し、先に相手のガールズを3匹倒したトレーナーの勝利である。
別なルールもあるが、今回は上記の“シングル戦”と呼ばれるルールでの戦いを行った。
『拙者、強いでござろう?』
『半年前戦った時とはまるで違う、完敗だ。とは言っても次は負けないけどな』
半年前の極は確かに強かった。
読みも技構成も完璧であった。
しかし、10年以上も前の古い戦術を使って来た為、最新の戦術で対策をすれば勝ちを望めると思っていたのだ。が、彼(?)もしくは彼女(?)の戦術は、最新の戦術を更にメタったものとなっていたのだ。
カケルの思考を読んでいるかのようだ。
『じゃ、そろそろ落ちるでござるノシ』
『おう、又な!』
カケルはベッドに横になる。
真顔で思考を始める。
(極とチャットしてると、ついつい童心に帰ってしまう。俺にもあんな時期があったな……)
カケルは悲しそうな表情をしながら口元だけ笑う。
(俺も昔は、自分がこの世界の主人公だと思っていた。けど、そんな事は全く無かった。主人公補正何てものも無かったんだ。学生でなくなったと同時に、既にエンドロールは流れてたんだ。例えるなら今はクリア後、真面目にプレイしていなかったせいでレベルが足りずエンジョイ出来ていないんだ)
学生を卒業し、1年程働いてからはそんなことばかりを考えていたカケルであったが、最近その考えを少し揺らがせる出来事があった。
それは、GWOとの出会いであった。
全員が可愛い女の子でいる中、“自分だけ”が違う存在となっていたからである。
ゲームの中とはいえ、特別な存在になれたのだ。
最初は極に誘われて始めたGWOであったが、すっかりカケルの心の支えとなっていた。
(次の日曜日は3回戦からか。ここまで来たら優勝するしかないな。キメラちゃん達の部の事もあるし、それに……単純に勝ちたいってのもあるしな)
学生でなくなったカケルがここまで熱くなるのは、中々無かった。
強いて言えばモンガルくらいであろう。
最も、育成時間が中々取れないので、ランキング圏外となってはいるのだが。
「よし、今日は打倒極に向けて、ガールズを育成するかな?」
カケルは、ノーリミットの電源を再び入れるのであった。




