68.登山
【闇病み☆百合娘―ズ】、全員が闇属性で構成されているチームである。
実力に関しては、予選、1回戦と突破して来ただけに悪くない。
2回戦の鍵となる、ダークカリバーについては、使う気満々である。
「さて、分かっているんですわね? 姫共」
「はい。我が命、【ジルコ】様に捧げます」
リーダー格の黒一色で包まれ、顔半分が髪の毛で覆われているジルコと呼ばれるプレイヤーは、ニヤリと笑う。
ちなみに相手チームの【ボス】も、ジルコである。
「そうと決まれば、山登りしますわよー!」
百合娘達は、山登りを始めた。
☆
アルカ達は、山から結構遠い所に居たので、山に向かう。
山に向かうまでは、飛行が使用出来るので、飛んで向かう。
飛行が出来ない者は、出来る者の背に乗っていた。
「相手チームが襲って来ない所を見ると山に登っている可能性が高そうだな」
「まっ、ダークカリバーを使いそうなチーム名だしね」
アルカとカノンが相手チームの行動を予想した。
「病んでるでござるからな。それにしても百合でござるか」
「極ちゃん、百合に興味あるの?」
「拙者、雑食でござるからな」
キメラにおんぶされながら、極がカミングアウトした。
極は、食わず嫌いをしないタイプなので、様々な漫画やアニメを視聴していた。
その中には、百合ものも含まれていた。
「へ、変な所触らないでね?」
「拙者、淑女でござるから。5%の確率でそういう事はしないでござる」
「え?」
二人の会話を聴き、カノンがニヤリと笑う。
「良かったじゃないか! モテモテで。でも、ケンヤ君にバレたらやばいんじゃないか? ケンヤくんに」
「だ、誰?」
「アルカ君も興味あるかい? ケンヤ君ってのはキメラ君の好きな……」
言いかけた所で、キメラが顔を赤くして叫ぶ。
「ちょっ、何言ってるんですか!!!! 好きじゃないですから!!」
「そういう事だから、ここでは深く話せないんだ。ごめんね」
カノンは困り眉をし、片手で「ごめん」のポーズをすると、アルカに謝罪をした。
「ま、まぁ喧嘩は程ほどに……」
しばらく経つと、山の前に来た。
ここから先は飛行が出来ないので、各々が歩く。
カノンだけは引き続き、愛用のロボ、百舌鳥17に乗り込んでいる。
「モンスターも出ないから退屈だな……それにしてもこの雪何とかならないのか?」
雪山なので、雪が降り続いている。
対策をしていなければ、HPが徐々に減る。
相手チームは、天候ダメージを無効化する装備品を付けていたが、こちらはそんなもの無い。
「だったら、天候を上書きするのみです!」
【錬金術師】ミーナは、天に杖を掲げた。
すると、荒れていた空から太陽が覗き、やがて晴れる。
「天候操作スキル……いつの間に実装を!?」
「キメラちゃん、奥の手は取っておくものだよ! ……何てね!」
ミーナがキメラに対し、可愛らしくウインクをした。
キメラは、少し羨ましそうに困った顔をする。
「いいなぁ~。私も欲しい」
「ごめん、今の所【錬金術師】専用スキルみたいだから」
「え? そうなの?」
天候操作のスキルは今の所、職業【錬金術師】のみが取得出来る専用スキルとなっていた。
【錬金術師】自体がレア職業という事もあり、天候操作スキルが使用出来るのは、数える程であった。
「ありがとうな、これで視界が良くなった上にダメージも抑えられる」
「アルさんに褒められた!」
ミーナは飛び跳ねて喜ぶ。
「雪の中はしゃぐ……犬みたいだね、君は」
カノンは呟いた。
山を登り始めて20分。
試合専用のエリアという事もあり、登頂までそこまで時間はかからなく、もうてっぺんが見えてきた。
「山登りも飽きて来たな」
てっぺん付近へ辿り着く。
「待ち伏せしているかもしれないよ。ここは【ボス】であるアルカ君が行くのではなく、他の人に行かせるべきだよ」
「確かにそうでござるな。ここは拙者が!」
腰の刀に手を伸ばそうとすると、キメラがドヤ顔で右手で制止する。
「ぬ?」
「ここは私が!!」
1回戦目は活躍できずに倒されてしまった。
なので、ここで活躍しておきたいらしい。
既に変身しているので、戦闘準備は万端である。
「キメラ、行きまーす!!」
頂上へと辿り着くが、そこには何も刺さっていなかった。
「油断しましたわね?」
「!?」
辺りをキョロキョロしているキメラの元へ、禍々しい黒いオーラを纏った剣を持つジルコが襲い掛かる。
「ほあちゃーっ!!」
「くっ……!」
剣……ダークカリバーでの一撃を貰うキメラ。
だが、まだ倒されてはいない。
「へ、変身が解けてる!?」
何と、変身状態が解除されているではないか。
「ダークカリバーの能力ですわ。ラスボスが使うものより強化されているみたいですわね」
「そっ、そんな!!」
変身していないキメラは、初心者プレイヤー程のステータス程しか持ち合わせていなかった。
「ばいばいですわ!」
ジルコは、キメラを十字に切りつけると、そのまま串刺しにした。
「そっ……そんな……」
「既に3人の生命エネルギーを吸収した魔剣ですわ。弱いはずがないですわ」
頂上より少し遠い所でそれを観察していたアルカ達は。
「キメラちゃんが倒されたぞ!」
「そうか、それにしても魔剣ってのも凄いんだね」
カノンは、口に手を当てつつも、無邪気に笑った。
「試合限定なのが惜しい武器だよ」
「いや、あんなの実装されたらまずいだろ」
アルカは冷や汗を軽くかくのであった。
「あの武器は危険だ。既に剣も向こうに渡ってる訳だし、こっそり下山するか」
そう思っていたが、
「近くにいるのでしょう? すぐに向かいますわ!」
「ひっ……」
向こうも下山をはじめたようだが、全くの別方向へと向かってくれた。
「ヒヤヒヤさせやがって」
アルカ達もひっそりと下山を始める。




