65.vsエレメンタル☆シスターズ【後編】
「とりあえず、相手の居場所を突き止めるしかないな。行こう」
「わ、分かりました。緊張しますね」
アルカとキメラは飛行をせず、あえて徒歩で相手チームを探しに行く。
飛行は目立ちすぎるからだ。
しばらく歩くと、半透明の何かにぶつかる。
「いてっ、何だこれ?」
ここより先は、【パーフェクト・ゾーン】の圏内であるらしく、進めなくなっていた。
ミサキは、軽くコケたアルカに気付き、襲い掛かる。
「アルカさん……! 生きていたんですね! 嬉しいですよぉ!」
ミサキは嬉しそうにニヤリと笑う。
「ウインドの分身を倒したのか? ウインド、分身が倒された様子はあるか?」
「ない……拘束されているの……?」
ミサキの後に続いて、アルカとキメラに襲い掛かる。二人は一旦退却しようと飛行で逃げ始めた。
ある程度離れると、ミサキのみが追ってきた。
フレイムとミサキはパーフェクト・ゾーンの圏内に戻った。圏内にいれば、外部からの攻撃は一切通じない。
パーティメンバー以外は圏内にも入れないので、正に無敵空間である。
「アルカさん……ここで戦いを終わらせます!」
ミサキが大鎌を取り出す。
「アルカさん、ミサキさんは強力スキルを所持していません。一気に倒しますよ」
「ああ、そうだな」
キメラが【光の波動】を連続で放つ、が。
(光の波動を避けてる……?)
「まずは、1体!!」
ミサキはキメラを斬り付け、首を掴むと地面に叩き付けた。
「終わりです!! 【ハイドロレーザー】!」
ミサキの手から水のレーザーが発射され、それはキメラにヒットする。
「くっ……早い!!」
だが、まだHPは残っている。
「キメラちゃん!」
アルカがミサキに殴りかかる。
「おっとぉ!? 危ないですねぇ!」
ミサキは、アルカの拳を余裕でかわすと、スキルを発動させる。
「【デス・リワード】」
発動したスキルは、自らのMPを0に、HPを1になるように削り、次の攻撃系スキルに即死効果を付与する。ちなみにその攻撃系のスキルを放つ際の消費MPは0となる。
「終わりです!!」
ミサキがハイドロレーザーを放つ。
「アルカさん生きて!」
キメラが勢いよく起き上がると、飛んできて、アルカを突き飛ばす。
水のレーザーがキメラの心臓部を貫いた。
「キメラちゃん!!」
アルカが粒子となり消えゆくミサキを見た。
だが、すぐに追撃に備え、ミサキの方に視線を戻した。
「素晴らしいチームワークですね」
ミサキがとても良い笑顔でパチパチと拍手をした。
「さて、手品に頼るのはここまでです」
「手品?」
「私のMPは0。もうスキルは使えません。おまけに回復系のアイテムは持ち込むことを禁止されています。なので、私がやる事は1つです」
回復系アイテムの“持ち込み”は禁止されている。
よって、今のミサキには自慢の大鎌や肉体を用いての攻撃以外行えない。
「こう見えても、特訓しましたからね!」
ミサキが大鎌をギュッと両手で握りしめ、アルカに襲い掛かる。
「何て連撃だ……!!」
アルカは必死にかわすが、彼女の巨体では全てをかわしきれなかった。
(スキルを発動する隙も無い……!!)
ミサキは大鎌を上にぶん投げると、今度は殴る蹴るの攻撃をアルカに浴びせる。
そして、鎌が降って来た所をキャッチし、アルカの腹部にクリーンヒットさせる。
(くっ……ここまでなのか……?)
今アルカは非常にピンチな状態だ。
だが、その時、救世主が現れる。
「ガアアアアアアアアアアアアア!!」
「へぶっ!?」
突然横からアルカの分身体の内の1体が、ミサキの顔に一撃を叩き込んだ。
ミサキのHPは、1しか残っていなかったので、当然消滅する事となった。
「お前……逃げろって言っただろ!!」
分身はブンブンと首を横に振る。
「へっ、そうかよ」
アルカは嬉しそうにフッと笑った。
「分かった。お前の熱い思い、受け取ったぜ」
「ワオーーーーーーーーーーーーーーン!!」
分身が雄たけびを上げると、残り9体の分身も集合する。
「皆!?……よしっ! 分かった! 俺に力を貸してくれ!!」
アルカの分身体はサムズアップを一斉に行った。
任せろ! といった感じである。
「そして……拙者も!!」
極も駆け寄って来る。
別行動となってしまっていたが、やられてはいなかったようだ。
「生きていたのか!!」
「倒されたらアナウンスが脳内に響くでござるよ」
「そうだったな」
皆やる気満々である。
だが、問題はどうやって【パーフェクト・エリア】を破るかどうかだ。
「ま、俺は1つの攻略法を思い付いたがな」
アルカがドヤ顔をする。
あまり自分に自信の無いアルカにとっては、珍しい表情であった。
「要するにアースちゃんをあの場から動かせば【パーフェクト・ゾーン】は一時的に解除される。その隙にエリアに侵入し、一気に決めるしかない。問題はボスである俺が倒されると負けになる事だけどな」
【ボス】の頭上には分かりやすく目印が付いている。よって、バレバレである。
そもそもチート級のスキル相手に一斉にゴリ押すのが無茶だが、他に方法が無いのなら仕方が無い。
「でも、どうやってアース殿を動かすでござる?」
「考えがある」
アルカは飛行し、アースに狙いを定める。
「当たってくれよ!! はああああああああああああああああ!!」
アルカの腹部に穴が開くと、中からグッタリとした分身体のウインドが出現し、それが勢いよく発射される。まるで、ビー玉を発射して遊ぶ玩具のようである。
発射された分身ウインドは、【パーフェクト・ゾーン】をすり抜け、アースの方に飛んでいく。
「う、ウインド!?」
アースはウインドの分身に当たり、体制を崩す。
「今だ、皆!!」
「いざ、出陣!!」
「「「「「「「「「「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」」」」」」」
皆が、パーフェクト・ゾーンの圏内である、20m以内に侵入する。これで再びスキルを使われても安心である。
「おっと、いけね」
鉄砲玉となった分身ウインドを、アルカは再び装備する。
フレイムの攻撃は一発食らうとアウトだ、故にダメージを肩代わりしてくれる装備は、非常に重要な存在であった。
「くっ、何て奴だ。【パーフェクト・ゾーン】を攻略して来る何て……!」
「ウインドちゃんには、文字通り攻略の“鍵”になって貰ったぜ」
フレイムの額に汗が流れる。
「大切な私の分身……!! どこにやったの!?」
「“俺達”の腹の中だ! そうだよなぁ!? 一斉に放て!! スキル【ウインド・ストーム】!!」
全アルカの口からウインドのスキル【ウインド・ストーム】が放たれる。
緑色の竜巻がウインドを襲う。あらゆる方向から襲い掛かっている為、かわす事が出来ない。
「ウインド!!」
「よせ! もう間に合わない!! それにあれだけの攻撃、いくらアースでも防げない!」
ウインドのHPは0となり、消滅した。
「拙者が相手でござる!! 腕が鳴るでござるなぁ!!!!」
極は、フレイムに斬りかかる。奇襲である。
「ふっ、残念だったな【すり抜け】は、オートで反応するように設定も出来るんだよ」
「なぬっ!?」
ハッタリでは無いようである。極お得意の奇襲攻撃も【すり抜け】により、無効化されている。
「さよなら」
フレイムは【ゴッド・オーラ】を発動させると、極を斬り付け、一発で退場させる。
「ガアアアアアアアアア!!」
アルカの分身達は、仲間を倒された事に怒り、フレイムに突撃していった。
「よせ!!」
フレイムに“一発”攻撃されただけで、分身は次々と消滅していく。どうやらウインド本体が倒された事により、装備していたウインドの分身体も消えていたようだ。
「何てこった……」
「俺の事を忘れて貰っちゃ困るぜ? 【アース・シールド】」
アースの体にピッタリ張り付くように、オーラが展開された。
「くっ……【第一の瞳】!!」
触手が腹部から伸びる……が、それは弾かれた。
「あいにく、その対策もかねて、【アース・シールド】を発動させたものでね!」
アルカはアースを殴るが、あまりダメージは無い。防御特化型のようだ。
アルカは一旦引くと、分身体の元へと行く。
「後1匹」
フレイムが最後の分身体を仕留めようとする。
「間に合ええええええええええええええええ!!」
フレイムがアルカを斬り付ける瞬間、アルカは【第一の瞳】を発動させた。
【すり抜け】は確かにチート級な能力だ。もし、この能力を授かったのがもっと前であれば、この弱点を補える策を考えていただろう。
その弱点とは、ズバリ攻撃する瞬間は【すり抜け】が強制的に解除されるという点であった。
「カノンちゃん!! ありがとう!! 映像がヒントになったぜ!!」
「な、なぜ……!!」
触手に取り込まれる瞬間もフレイムは、驚きの表情をしていた。
そして、フレイムに斬りつけられた最後の1体はサムズアップを向けながら粒子となって消滅した。
「ありがとな……」
ただのNPCだったかもしれない。
だが、もう会えないと思うと何処か心が痛んだ。
「まだ戦いは終わってない。戦いを終わらせる」
アルカはアースへと向かっていく。
全力飛行である。
「へっ、何て奴だよ。全く」
アルカは、フレイムのスキル【ゴッド・オーラ】を使用すると、アースに拳で一撃を叩き込んだ。
フレイムは吹っ飛びながら、満足そうな顔で口角を上げながら目を瞑った。
『チーム、エレメンタル☆シスターズのボスが撃破されました。よって、Curiosityの勝利です』
アルカはニヤリと笑う。
「よしっ!! 勝ったぜ!!」




