308.天翔ける流れ星
「来たね……!」
時間だ。
アルカが雪山山頂へ辿り着くと、極が待ち構えていた。
幸い雪は降って無いが、それでも寒そうだ。
「随分寒そうな場所を選んだんだな」
「決戦の場所に相応しいステージを選んだんだよ!」
「そうか……! 確かに相応しいな」
これで本当の本当に最終決戦だ。
もしかすると、極と話すのもこれで最後かもしれない。
「カケル君! 最後の最後だし、全力で来てよね!」
「ああ! って言いたい所だけど……いいのか?」
「何が?」
「本気でやっていいのかって事だ」
アルカが本気を出せば、おそらく、瞬殺だろう。
どう考えても勝負にならない。
その為、訊いたのだが。
「勿論だよ! 手を抜いたら、そっちが負けちゃうかもね!!」
「冗談?」
「冗談じゃないよ! 本気!」
互いにバトルモードを選択し、バトルモードへと移行する。
これでどちらかが負けても、リスポーンせずに済む。
「なぁ、本当に……」
アルカが言い終える前に、極がアイテムを投げ付ける。
「くっ! 何だこれ!」
「掛かったね!」
アルカの体は小さくなり、やがて……。
「あれ?」
13歳くらいの、黒髪ショートの女の子の姿になっていた。
以前、キメラを吸収し、【マジカルチェンジ】をした際の姿にそっくりだ。
「そのアイテムはね! モンスターを一時的に人間の姿に変える効果がある!」
「俺にも効いちまうって訳か……でもな、姿が変わっても飛べなくなったくらいだぞ?」
アルカはメニュー画面を開き、ステータス画面を殴り、【戦闘モード】へと移行する。
ドラゴンの姿の時のように見た目の変化は無いが、問題無くスキル【ラスボス】も発動している。
「空への逃げ場を奪う! それが目的だよ!」
「そういう事か……。で、どうやって倒すんだ?」
極はニヤリと笑った。
「本当はこういう事はしたくなかった! けど、そうしないと勝てないからね!」
「それってどういう……?」
「こういう事!」
極はメニュー画面をアルカに見せた。
すると、そこには……。
「“センシティブユーザーリスト”だと……?」
「そう! ここにカケル君を入れておいたよ!」
「すると……どうなるんだ?」
「ここに入れられるとね、リアルが異性のユーザーに自分から近付く事ができなくなっちゃうんだよ。とは言っても、イタズラでそういう事する人居るからね、運営さんに言えばすぐに解除して貰えるみたいだよ。ちなみにイタズラした方はBANされちゃうからね?」
「なんだよ、そりゃ!?」
BANされたら、その場ですぐにお別れだ。
アルカは運営に通報できないでいた。
「後、気を付けてね?」
「何がだ?」
「この雪山山頂ってね、GWOに実装されている中で、一番高いんだよ?」
「それがどうした?」
「ケンヤさんに聞いたんだけどね、このゲームは一定以上の距離を落下すると、ステータスに関係なくHPが0になっちゃうんだって。でも、その一定以上の距離を満たすのは、実はここだけ! 知ってるプレイヤーも多いらしいけど、豆知識だよ!」
「は?」
要するに今のアルカは極に近付く事すら出来ず、雪山から落ちる事も許されない。
移動できる範囲が狭すぎるのだ。
おまけに、今のアルカは普段の使い慣れた体ではない。
念じればその通りに動く事もできるスキル【ラスボス】であったが、それでも慣れていない体で99999の素早さを制御するのは非常に難しい。
「行くよ!」
極は、両手に投げナイフを複数持つ。
そして、それを次々に、アルカへと投げ付ける。
反射的にそれを避ける。
「くっ、落ちたらアウトってやばいな」
今まで翼を使用していたので、飛翔系のスキルなど覚えていない。
まさか、こうなるとは思っていなかったのだ。
「ナガレちゃん、流石だぜ」
「本気のカケル君を倒さないと意味が無いからね!」
次々とナイフを投げ付け、そして……。
極は飛び跳ね、空中で刀を振り下ろす。
「【流星群】!!」
アルカに、流星群が襲い掛かる。
「さっきは反射的に避けたけど、避けなくてもいいじゃん」
全てのステータスが99999なのだ。
落ちる事を考えると、避ける方がよっぽどリスクである。
「全然効かないなぁ!」
「流石だね! まさか避けないとは!」
「底に、落ちちまうからな」
「参ったなぁ」
極は困り顔を見せた。
「だったら……!」
極はアルカの顔目掛けて投げナイフを投げ続ける。
「くっ!」
顔にナイフが飛んで来れば、頭では大丈夫だと分かっていても、反射的に避けてしまう。
これは本気で行かなくては負けてしまう。
アルカもそう思い始めていた。
勝ったとしても、すぐにお別れでは無い。
一気に決めようと思った。
「ナガレちゃんの技、使わせて貰うぜ! 【負け犬体質】発動! 選択するスキルは【流星群】!!」
【負け犬体質】は受けた事のあるスキルを選択し、使用できる。
HPを半分削るリスクがあるが、現時点から見ての半分なので連発も可能だ。
「何をっ!? だったらこっちも【流星群】で対抗だ!」
別に対抗する意味は無い筈だが、極はそれを使用する。
本来であれば火力対決をすれば負けてしまうのだが、対抗意識からだろう。
致命的な選択ミスだ。
だが、運は極に味方した。
「うおっ!?」
「あれっ!?」
2人揃って、足を滑らせてしまう。
そして、2人の【流星群】は空へと放たれた。




