307.無職確定
「さて、と」
アルカは極、クローと別れた。
おそらく、クローとはいつかの日まで会う事はないだろう。
ただ、今日中に極とは会う事になる。
そんな予感がする。
手紙の中身をまだ読んでいないアルカであったが、大体内容は察していた。
「読むか」
アルカは自身のマイホームエリアへと戻ると、ココア片手に手紙の内容を読む。
『カケル君へ、ハッピーバレンタイン!
今まで、ありがとう!
楽しい事も一杯したし、普通に生きているだけじゃできない経験も一杯したよね!
でも、最後にやる事残ってるよね?
GWO内で23時に、第1層の雪山エリアの山頂で待ってます!
必ず来てください!
そこで、最後の闘いをしましょう!』
との事であった。
「やっぱりな」
アルカは「ふっ!」と笑う。
予想通りだ。
最後の最後にゲームで対決したいだ何て、極らしい。
「それにしても、まだまだ時間があるな」
正直、レベルもカンストしているし、時間は有り余っている。
本当は極と話していたいアルカであったが、今はアルカ対策でアイテムを手に入れたりしているのだろう。
邪魔してはいけないと思った。
それに、他のクランメンバーにもチョコレートを配っている可能性もある。
「アルカさん」
「うわっ!」
リラックスしていたアルカの目の前に、女神様……とケンヤが現れた。
「女神様……とケンヤさん!?」
「ええ。おそらく私の場合はもう二度と会う事はないと思いますので、本当のお別れの挨拶をしに来ました」
女神様は地球担当の女神様だ。
人間である極とは違う。
本当に2度と会わなくなる可能性が高い。
「そう、ですか」
正直、女神様とはこれといって思い出が無い。
寂しくはない、というのがアルカの正直な感想であった。
「僕からは謝罪だね」
「謝罪……? 何をだ?」
ケンヤがアルカに向け、舌をペロリと出す。
この様子だと、軽い内容の謝罪なのだろう。
アルカはそう考えていたので、何の心構えも無かった。
「僕……神になる!」
「え!? どういう事!?」
「僕、頂点に立ちたいんだ。というか、立っていたつもりだった。けど、その世界ってのがそもそも箱庭的存在だってのが分かってさ、まだまだ世界は広いんだなって思ったよ。だから、女神様について行って、神を目指すんだ! 地球担当何てもんじゃない! 宇宙の神に僕はなりたいんだ!」
女神様はため息をついた。
「本当は連れて行きたくないのですが、どうしてもと言うので……」
「どうしてもでいいんですか!? けど、まぁ、俺としては別に」
ケンヤの監視下に置かれなくて済むので、むしろありがたいかもしれない。
結構危ない事しそうな人物なので、女神様に預けた方が安全かもしれない。
それと同時に正直、寂しくもあるのだが、アルカは笑って見送る事にした。
「突然の事でビックリしたけど、応援してるぜ! 頑張って!」
「そっちも仕事探し、頑張ってね!」
「は? 仕事探し……?」
「うん、滅亡逃れたら僕の遊び相手として雇ってあげるって言ってたでしょ? それが無理になったから、仕事探し、頑張ってね!」
「え……? ああああああああああああああああああああああ!! そうだったあああああああああああああああああ!?」
すっかり忘れていた。
以前の仕事は既に辞めているので、アルカは無職確定である。
「うぅ……」
「まぁ、アルカさんなら大丈夫だと思うよ! 僕が保証する!」
「ケンヤさん……」
「というか、配信者でもやったら?」
「俺、喋るの苦手……」
「ああ、そうだったね。ごめんごめん!」
何でそんなに嬉しそうなのだろうか?
きっと、これから神を目指せる事を考えているので、そのワクワクで一杯なのだろう。
「アルカさん、私からも謝っておきたい事があります」
ションボリしているアルカに対して、女神が言った。
「何ですか?」
「カイゾウさんの事です」
「カイゾウさん? あの人がどうしたんですか?」
「あの方、個人的に気に入らないのですが、人間にそこまで干渉できない為、罰を与える事ができませんでした」
「何で俺に謝るんですか? あの人だって別に悪気があってやった訳じゃないですし……」
「いえ、確かに【ワールド】を消す事に関しては、悪気のある理由ではありませんでした。けど、アルカさんにした事に関しては、明らかに悪意を持っていました。なので、何か罰が必要かと思いました」
「女神様もそういう事考えるんですね。でもまぁ、俺的には正直どうでもいいというか何と言うか……」
「どうでもいい……?」
「今の俺が優秀な俺だったら、世界は救えてなかった。それに、別にぽっと出のおっさんの事とかどうでもいいしな! 俺にとってはただのモブキャラだし!」
「え、えぇ……? そ、そうですか」
それに続いて、ケンヤがもう1度謝罪する。
先程とは違い、かなり深刻な表情だ。
どうしたのだろうか?
「アルカさん、実は僕、もう1つ謝らなくてはならない事があるんだ」
「また!?」
「うん。僕は電子生命体としてこの漆歴の世界を裏で操って来た。頂点に立つ為にね。勿論悪い事も沢山して来た」
「いきなりとんでもない事言い出したな。黙っていれば良かったのに。どのくらい悪い事して来たんだ? ゲームで例えてくれ」
「ゲームで例えるなら、ルートが違ってたらゴミじゃなくて、僕がラスボスになってたかもしれないくらい……」
「カイゾウさんはゲームのラスボスじゃないけど……そりゃ凄いな……。本当に何で言おうと思ったんだ?」
「アルカさんは、僕にできた初めての友達なんだ。本音をぶつけられた大切な友達なんだ。だから、最後にこれだけは言っておきたかった。嫌いになるならなって構わない。けど……友達だから、友達にこれから先、ずっと嘘をつき続けるのはツラいから……」
ケンヤの目から涙がこぼれ落ちる。
アルカは初めてみたケンヤの表情に驚く。
「ケンヤさん……大丈夫だ!」
アルカはケンヤを抱きしめる。
「ケンヤさんがいなかったら、この世界は消えてたんだ。嫌いになれる訳がない。それに、話さなくても良かった事を話してくれたんだろ? 周りの人間がどうであれ、俺にとっては立派な友達だよ」
「アルカさん……」
「それに、俺に対しては悪い事してないんだろ?」
ケンヤは頷いた。
「だったら、俺にとっては良い友達だ! 俺のアバターを作ってくれて、ありがとう、ケンヤさん! これから先会えなくても、ずっと友達だ!」
ケンヤはしばらく泣くと、アルカから離れて涙を拭いた。
「ふふ」
女神様が笑った。
「カイゾウさんとアルカさんは同じDNAだと言っていましたけれど、アルカさんは悪い思想を抱きませんでした。今のやり取りで、何となくその理由が分かった気がします」
「え? 俺が優しいとかそんな感じ? 俺はそこまで優しく……」
「いえ」
アルカが話し終える前に、女神様が割って入った。
「アルカさんは決して優しい人間ではありません。特に他人に対しては」
「え!?」
褒めてくれている筈なのに、どうして?
アルカは首を傾げた。
「しかし、だからこそ、ごく普通の人間として生きて来られたのだと思います。これからも、自分らしく生きてください」
「あ、はい。……褒めてくれてるんですよね?」
「はい! とても!!」
女神様は満面の笑みで微笑んだ。
その後、少し話すと、別れの挨拶を済ませる。
「じゃあ、女神様、知り合ったばかりですが、ありがとうございました。」
「いえいえ」
アルカはケンヤを見る。
「ケンヤさん、元気でな!」
「うん! 僕もアルカさんの事、絶対に忘れないから!」




