306.偶然
その後、極、クローは改めてこの場にいる皆に別れの挨拶をした。
既にお別れ会はやっているのだが、やはりいざとなると寂しくなるようだ。
そして、その後。
「これであんたともお別れねぇ。とは言っても、私はGWO始めたのが遅かったからそこまで親しい関係じゃないと思うけどね」
極、クローに呼び出され、アルカは極のマイホームエリアへとやって来た。
今この空間には3人しかいない。
「何言ってるんだ。短い期間だったけど、それなりに仲良かったと思うぞ?」
「それなりに……ね。いやまぁそうだけど」
クローは少し寂しそうな顔でそう言った。
もしかして。
「俺の事好きなのか?」
「は?」
何言ってんだこいつ、とでも言いたげな、引き気味の表情でクローはアルカを見る。
全然違ったらしい。
前にもこんなやり取り、あったような無かったような……。
「あのね。短期間とはいえ、一緒に遊んだ友達なのよ? もしかしてもう会えなくなるって分かってるのに、最後の最後に“それなり”ってのは、ちょっとなくない!?」
「クローだって親しい関係じゃ無いって言ったじゃないか」
クローは目線を逸らした。
「まぁ、言ったわよ。そこは謝るわ」
「別に俺は怒ってないし、謝らなくても大丈夫だ!」
アルカはそういうの全然気にしていない。
むしろ、気にしてなさ過ぎて、クローも戸惑いの表情を浮かべていた。
「でさ、最後の最後だし、ちょっとあんたにプレゼントがあるのよね」
「プレゼント? もう今日でお別れだから、返せないぞ」
「いつかの日に返しなさい」
「いつかって、いつだよ?」
女神様の話では異世界同士が繋がる技術が、いつかは生み出されるらしいが、果たして何年後になるかは分からない。
少なくとも、極が生きている間には滅びの時が訪れるらしいので、それを回避する為に異世界同士が繋がらなくてはならないのだが。
もしかしたら、50年先かもしれない。
それがいつになるかは分からない。
「私にだって分からないわよ」
「そうだな、確かにそうだ」
「じゃあまず、私から!」
「私から? って事は……?」
「ナガレもプレゼントがあるって」
「そうなのか!!」
極の本名を普通に呼んでいるが、もうバレバレなので、ここにいるメンバーは気にしていなかった。
クローはストレージ画面からアイテムを選択し、出現させた。
綺麗にラッピングがしてある。
何だろうか?
「ハッピーバレンタイン」
クローはそう言うと、それをアルカに向けて指し出す。
「バレンタイン……?」
「いやだって、今日は2月14日でしょ? 忘れてたの?」
「あっ、そういえば!」
世界の滅亡が掛かっていたので、バレンタインの事何て、完全に忘れていた。
そもそも……。
「バレンタインのチョコレート何て、親以外から貰った事ないし、頭の中から消滅してたイベントだった。学生時代、1個も貰った事無かった……」
「激非モテじゃん!」
「別に別に気にしてないけどな別にな。というか、俺の中学、学校に食べ物持ち込むの禁止だったから仕方ない」
高校、大学時代は知らない。
アルカはチョコレートを受け取る。
「でも、ありがとう。本命チョコレートありがとう」
「は?」
「ちょ、冗談だよ? 俺チョコレート好きだからテンション上がっちまってな」
「なるほどね。まぁ、あんた28歳じゃん、確か。私は中2だからさ、ちょっとキツイわ」
「冗談だって! というか、女の子に初めてフラれた!!」
「フラれて喜んでるの?」
「ああ! 俺は誰かを好きになった事が無いから、初めてだ!」
「それはそれでやばいわね。とりあえず、友チョコだから、しっかり味わって食べなさい!」
「ああ、本当にありがとうな! これから先、色々頑張れよ!」
「ええ、そっちも頑張りなさい」
「まぁ、もう頑張りたい事もないんだけどな。分かった!」
クローは地面に座った。
極からもプレゼントがあるようで、極がアルカの目の前にやって来た。
「カケル君、さっきのでネタバレ食らっちゃって、驚き半減かもだけど、私からもプレゼントがあるんだ!」
「チョコレートか!?」
「うん、そうだよ!」
「本命か!?」
「ごめん、違うかな?」
「やっぱり俺には義理チョコが相応しいって訳だ」
「いやいや、そういう意味じゃないからね!? カケル君スネるとめんどくさいから、その前にチョコレート渡しちゃうね?」
極の、スネるとめんどくさい発言にクローは大爆笑した。
「はい、カケル君、ハッピーバレンタイン!」
同じく、ラッピングが丁寧にされたチョコレートであった。
「うっひょー! ありがとう!」
「お返し、期待してるね!」
「ああ、いつかの日に、な」
それがいつになるかは分からない。
だが、しっかりとお返しはしようと、アルカは心に誓ったのであった。
「中に手紙が入っているから、えーと……できれば今日中に読んでね! というか、今日中に読まないと駄目!」
「手紙……? えええええええええ!? 何それ、告白っすか!?」
「ごめん、違う」
「冗談だよ。俺たまにテンション上がっちゃうから」
クローは立ち上がり、腕を組む。
「ナガレからの想い、しっかりと受け取ってあげなさい。私より付き合い長いんでしょ?」
「ああ、それはもう」
友達のいなかったアルカにとって、極は大事な友達だ。
極がいなければ、GWOを始める事も無かった。
アルカは極に対し、ワガママを言ったりする事もあったが、それはそれで本音を言える程の相手であったという事だ。
もはや、親友のような存在となっていた。
「ナガレちゃんが何を書いたか。まだ見て無いけど何となく分かる」
親友として、最後にやる事。
きっとあれだ。
アルカは貰ったチョコレートをストレージへとしまった。
「それにしても、まさか滅亡するかもしれない日とバレンタインが重なる何て、会議を今日に設定した女神様達はロマンチストなのかしら?」
クローが言った。
「多分、偶然だと思うぜ、中にはバレンタインが無い世界もあっただろうしな」
「真面目か!」




