305.決着
「私に攻撃をするか……もういい、この試合は君の勝ちだけど、試合後すぐに【ワールド】を消させて貰うよ」
「それは無理だぜ! 残念だけど……もうこれで終わりだ!!」
数ある受けた事のあるスキルの中で、アルカが選択したスキル。
そのスキルとは……。
「カイゾウさん、このゲームから出ていって貰うぜ!」
アルカが使用したスキル、それは……。
「【強制ログアウトスラッシュ】……カイゾウさんはもう、リアル時間で10秒間、このゲームに入って来る事はできない!!」
「強制ログアウトだとぉ!?」
本来、こんなスキルゲーム内にあってはおかしい。
そして、ネーミングもおかしい。
だが、確かに存在したのだ。
相手を、現実世界で10秒間、強制ログアウトさせるスキルが。
そして、アルカはこのスキルを受けた事があった。
「ああ! そして、今このゲームは加速している! 現実世界での1秒が、【ワールド】での24時間になる! 戻って来るにしても、外部から【ワールド】を消すにしても、莫大な時間を要する筈だ!!」
それだけ時間があればおそらく、【世界確立法】が通るまでの時間は余裕であるだろう。
アルカの手刀が、カイゾウの体を貫いた。
「何だとおおおおおおおおおおお!? まぁいい! 結局は消えるまでの時間が伸びただけじゃないか! 精々怯えてるがいいさ!!」
【世界確立法】に通れば、消える心配も無くなるのだが、わざわざそれを話す必要も無かった。
そして、カイゾウは強制ログアウトされ、カイゾウのアバターが床に倒れ込むのであった。
このまま倒してしまっては10秒経つ前に戻って来る可能性があるかもしれないので、ダメージ量は調節しておいた。
「終わった……」
アルカは地面に座り込み、空を見上げた。
疲れが一気に来たようだ。
「ったくこうなるとは予想外だったぜ」
副社長であるエンジョウがアルカの元へやって来て、言った。
アルカも別に警戒はしていない。
なぜならば、エンジョウは1度負けているのだ。
一応今は試合中という事になっているので、エンジョウはアルカにダメージを与える事はできない筈だ。
それに、カイゾウの話を聞く限りだと、話が通じそうな人物だと、思ったからだ。
「お前さんの仲間から、話は聞いた。最初は嘘だと思ってたんだけどよ、まぁ、何だ。別に嘘だったら嘘でもいいと思ってな。こっちの世界で明日になるまでは、俺は手出しはしねぇよ」
「ありがとうございます」
「ったく、敬語何て使うんじゃねぇぞ。社長さんにもタメだったじゃねぇか」
「それもそうだな。とにかく、ありがとう」
「いいって事よ」
これでもう安心だ。
後は女神様達の会議が終われば、終了だ。
アルカ達の世界はゲーム【ワールド】内の世界ではなく、完全な別世界となり、カイゾウの管理下から外れるからだ。
「アルカさん、やってくれたね。流石だ!」
ケンヤや観戦している皆がアルカの元へと走って来た。
「君おかげで、僕達はまだまだ生きられる」
「俺だけのおかげじゃないですよ」
「随分謙虚何だね」
そうでもない。
実際、クランメンバーから貰った【就職支援の書】やケンヤが搭載したぶっ壊れ能力が無ければ、アルカは負け、この世界は消えていたのだ。
「ま、【戦闘モード】に気付いてくれて良かったよ。ごめんね。本当は事前に言っておきたかったんだけど、ゴミ共……いや、ゴミに監視されている可能性があったからね」
ゴミ共ではなく、ゴミと言った。
おそらくカイゾウの事だろう。
エンジョウはゴミでは無くなったらしい。
「それは分かってるから大丈夫だ。というか、ケンヤさん、流石にスキル【ラスボス】は強すぎだと思うけど……」
「【ラスボス】だからね。あれくらいの強さが丁度いいんだ。そうは思わない?」
「どうだろう……」
アルカは目線を逸らした。
だが、今回はこれに助けられたのだ。
余計な事は言わないようにしておいた。
「ところで、トドメはささないの?」
「さして大丈夫なのか?」
ケンヤはカイゾウのアバターを指差し、アルカに言った。
「大丈夫だよ。強制ログアウトは試合が終わっても継続される。そもそも、このスキルはアカウントBANの技術を応用したスキルだからね」
「そうなのか!? だったらさっきの勢いのまま倒してれば良かったぜ!」
アルカは立ち上がると、倒れているカイゾウのアバターを思いきりぶん殴った。
桁数が違う&10倍の攻撃力に耐えられる筈も無く、粒子となり消滅した。
これで試合にも勝負にも勝利したという訳だ。
「後は、女神様の会議が終わるのを待つだけか」
「終わりましたよ」
「えっ!?」
アルカの目の前に女神様が現れた。
「【世界確立法】は……通りました。それにより、【ワールド】の全ての世界は、世界の層が1段階上がります。よって、この世界が消滅する危機は脱しました」
「うおおおおおおおおおおおお!! マジか!!」
頑張ったかいがあったという訳だ。
アルカは思わず叫び、喜んだ。
「あれ? って事は今すぐに極達と別れるって事!? 心の準備がっ!?」
確かにお別れ会はしたのだが、こうもいきなりでは、心の準備が整っていない。
「ふふ、大丈夫ですよ。この世界での日付が変わり、2月15日になった時点で適用されますからね。それまで、お話とかはできますよ」
「あ、そうなんですか?」
アルカは落ち着きを取り戻し、キョトンとしてしまった。
「彼女達も、渡したいものがあるみたいだからね。残された時間、付き合ってあげるといいよ」
「渡したいもの?」
ケンヤは言った。
渡したいものとは、何だろうか?




