300.特別の理由
「ちょっ!」
アルカは無意識に両手を前に出した。
待ってくれ、とでも言いたいようだ。
だが、カイゾウから放出された極太光線は止まらない。
もう駄目だ。
「なんてなぁ!!」
アルカはニヤリと笑う。
その後2人はモロに攻撃をくらい、HPを0にした。
しかし……。
「残念でした!」
「何っ!?」
2人のHPは完全回復。
堂々と立っていたのだ。
「スキルか?」
だが、カイゾウはすぐに冷静になる。
「違います……教えてあげましょう! いや、教えてやるぜ!!」
突然強気になると、アルカは得意げな表情で説明を始める。
「俺のストレージには、あらかじめケンヤさんが用意したアイテムがたんまりあるんだぜ!」
「ふむ、それズルだね。駄目だよ? そんな事をしちゃ」
カイゾウはアルカをぶん殴り、壁にめり込ませる。
そして、左手でアルカの首を掴んだまま、ある操作をする。
「お、俺のメニュー画面が!?」
「ユニークスキル【ストレージコントロール】……このゲームに実際にあるスキルだから、ズルじゃないよね?」
ストレージコントロール、一体どのようなスキルなのだろうか?
おそらく、スキル名の通りだろう。
「相手のメニュー画面を操作し、ストレージを自由に操作できる。例えばこうやって……」
カイゾウは、アルカが所持している蘇生アイテムを全て、捨てた。
「蘇生アイテムがっ!?」
「他人のストレージをいじれるだなんて、とんだスキルだよね。文句があるなら、ケンヤとかいうガキに言うといいよ。搭載したのは恐らくあの人だからね。私はそれを利用させて貰ったまでだよ」
カイゾウは操作を続け、“たった1つの削除不可能アイテム”を除き、全て処分した。
途中で極の邪魔が入るが、片足で極の相手をしていた。
「中々やるなぁ! 嬢ちゃんっ!」
途中でエンジョウが間に入り、極と剣を交える。
「エンジョウさんこそ、強いですね! けど……」
確かにエンジョウは強い。
だが、一般的に強いプレイヤーの動きのレベルで、プロレベルとまではいかなかった。
現に極と互角な戦いを繰り広げている。
「けど?」
エンジョウが手を止め、極に訊いた。
極も手を止め、互いに距離を取る。
「エンジョウさん……補助AIを使用していませんね?」
「補助AI……? あぁ、社長さんが使ってる奴か、あんなの使うかよ! ゲーマーとしての名が泣くっつーの!」
何と、エンジョウは戦闘を補助してくれるAIを使用していないと言うのだ。
「ま、確かにアバターはこっちで用意したものだけどよぉ、それは許してくれや。その代わり、ステータスに関しては、嬢ちゃんのアバターと全く同じにしてあるぜ! おまけに、ちゃんと練習して動きを身につけた」
「そうなんですか!?」
確かにアバターをランダムに生成していない点はアンフェアと言えるが、それ以外に関してはしっかりと対等な条件で戦っている。
「ああ、だからよぉ! 嬢ちゃんも本気で来いや! 嬢ちゃんの実力、見せてみな!」
そう言うと、再び剣を交え始めた。
そして……。
「ぐあっ!」
その頃、アルカはカイゾウにぶん殴られていた。
アルカは今、地面に転がっている状態だ。
回復アイテムが無いので、これで倒されたら終わりだ。
「つまらないねぇ、こっちは舐めプしてあげてるんだよ?」
「くっ!」
スキルを発動しようとすれば、それを阻止される。
何というスピードだ。
戦闘用のAIが補助しているおかげだろうか、動きに無駄がない。
現時点では間違いなく、ガールズワールドオンラインの中で、最強のプレイヤーであった。
(せめて、極からアイテムを受け取れれば!!)
とりあえず、この境地から脱出しなくては、ならない。
「1つ訊いていいか?」
アルカはカイゾウに言った。
「何だね?」
「俺はもうすぐ消える身だ。さっきは教えてくれなかったけど、俺はカイゾウさんにとってどういう存在なんだ?」
「どういう存在ね……いいよ、教える。どうせ君はもうすぐ消えて無くなるのだからね」
カイゾウは実に余裕そうな表情でそう言い放った。
「君は疑問に思ったことはなかったか?」
「何がだ?」
「己の能力に」
「己の能力……?」
どういう事だろうか?
アルカは、カイゾウの言っている意味が分からなかった。
「そう、君自身の能力だよ。その体では無く、カケル君としてのね」
「カケルとしての、俺の能力……?」
カケルは超能力者などではない。
ただの男だ。
「俺は特殊な能力なんて……持ってないぞ?」
「ああ、そういうのじゃなくて、才能だよ。頭の良さとかのね」
「頭の良さ?」
「そうだよ。例えばさ、自分の事を馬鹿だと思った事はない?」
アルカは一瞬黙るが、正直に答える。
「何度もある」
「私から見ても君は馬鹿だと思うよ。例えばさっきだってそうだ」
カイゾウは両腕を大きく広げた。
「さっきだって正直にアイテムを大量に所持している事を伝えなければ、私は目を瞑っていたのにね」
「やっぱり、分かっていたのか」
アイテムをケンヤから受け取っていた事は知っていたようであった。
やはり、ここ数日間、アルカ達を監視していたようだ。
「とは言っても、その事を私はさっきまで忘れていたがね。君が私にペラペラ喋らなければ思い出さなかったのに……本当に馬鹿だよ、君は」
カイゾウがアルカを蹴り付ける。
「おまけに昔から何をやっても駄目で、コミュニケーションも下手、根性もない。一体何が出来るんだ君は?」
痛い所を突かれ、アルカは黙ってしまう。
そして、数秒後口を開く。
「確かにそうだ……けど、どうして俺がカイゾウさんにとって、特別な存在なんだ? 繋がらないぞ?」
「流石、嫌な話になったら論点をすり替えるのもお得意って訳だ! いいだろう! 教えてあげよう!」
カイゾウの口角が、嫌らしくつり上がる。
「究極カケル!! 良く聞け!! 君のDNAは……この私のリアルの姿、田中カイゾウのものと……100%一致させてある!! 言わば!! 君は私のデジタルクローンなのだよ!! アッハッハッハ!!」




