296.お別れ会
今度の戦いが終わったらどう転ぶにしろ、極・クローとは別れなくてはならない。
それはアルカだけではなく、その他のメンバーも同じだ。
「パーティーでござるか?」
「ああ。他のクランメンバーとも、もう会えなくなるだろ?」
「確かに」
開催日は2月13日の日曜日の夕方にしたようだ。
決戦日の前夜ということになる。
「日曜日なら皆も集まりやすいだろう」
「そうでござるな。いやぁ、本当に寂しくなるでござるな」
「寂しいけど……まぁ、ネット上の友達なんて、こういうものだ」
そして、数日アルカと極は14日に向けての修行を続けた。
とは言ってもアルカの圧勝で終わっていたので、あまり修行にはならなかった。
勿論、ダンジョンでレベルをカンストまで上げるのも忘れなかった。
そして、パーティー当日。
「カンパイ!」
パーティールームのテーブル上に、多くの料理や飲み物が置かれている。
アルカがパーティールームを借りたようだ。
レンタル料は高いが、Gを多く持っているので、問題無い。
「それにしても、なんだか久しぶりな気がしますね」
キメラがぶどうジュースを飲みながらそう言った。
「俺もそんな気がして来た。最近色々あり過ぎてな」
「色々?」
「ああ。色々とね……」
世界滅亡の件は皆には話さなかった。
皆を不安にさせる訳にはいかないというアルカの配慮だ。
ちなみに、極のことを不安にさせていることを、本人は自覚していない。
「色々ですか? 気になっちゃいますね!」
キメラが目をキラキラと輝かせている。
「多分、キメラちゃんが想像しているようなことじゃないと思う」
「そうですか?」
キメラは少しガッカリしたような表情をする。
「ワタクシも気になりますわ!」
ステーキをフォークでぶっ刺し、かぶりつき食いちぎると、口の周りにソースを付けながら、少女は言った。
この少女はジルコというプレイヤーで、アルカのライバルの1人でもある。
アルカはジルコと、そのクランメンバーも今回のパーティーに誘ったのだ。
「そうですよぉ! あっ、でもアルカさんってモテなさそうですよね」
同じくライバルの1人である、Vtuberミサキも誘った。
意地悪そうな表情でアルカをからかう。
「いやいや、だからそういう話じゃないって! 話せないんだよ……皆を不安にはさせたくないからな」
「びょ、病気か何かですか?」
ミサキは意地悪そうな表情をやめ、少しだけ心配をした。
「いや、そういう訳じゃないんだけど……」
と、アルカが困っていると、叫び声がパーティー会場に響き渡る。
「ちょおおおおおおおおおおおおおおおっと待ったああああああああああああああ!!」
天井裏から突如出現したのは、ケンヤであった。
「ケンヤさん!? どうしてここに!?」
今のケンヤは運営としての力を取り上げられている筈だ。
一体どうして……?
アルカは疑問に思った。
「簡単なことだ! ゲーム内で君をずっとつけていた! 探偵みたいだね!」
「え!? 一体いつから!?」
「君と最後に話してからずっとだ! そんな事より、駄目じゃないか! 皆にしっかり言ってあげないと! ここに居るのは君の仲間達だろ!?」
「あ、うん。でも、言わない方がいいと思って」
アルカはドン引きしながらそう言った。
「駄目だ駄目だ!!」
ケンヤはマイクを手に持つ。
「マイクテストマイクテスト」
そう言うと、マイクに手をボンボンと叩き付け、遊ぶ。
「皆! 聞いてくれ! おそらく初対面の人もいると思う。けど、大事なことなんだ!」
会場が静まり返り、皆がケンヤに注目する。
(誰ですの?)
勿論ケンヤを知らないメンバーもいた。
そしてケンヤは大声で今度の戦いのことを暴露した。
「という訳だ! 皆、もしかしたら僕達は死ぬかもしれない! けど、そうはさせない!」
ケンヤがブレイドアロー社の社長ということを知っているメンバーは、その事情を受け入れたが、その他のメンバーは「何だこいつ」と不審な目で見ていた。
「大体、貴方なんですの!?」
ジルコがケンヤを指差しながら言った。
それに対し、ケンヤは答える。
「ブレイドアロー社の社長、ケンヤだ!!」
「へぇ……」
「何だその目は! 信じてないね!」
「いやだって、いきなり過ぎですわよ」
「ぐぬぬ……!!」
ケンヤは悔しそうにしていたが、自分は寛大だと思っているので、許した。
「はぁ……相変わらず勝手な人ですね」
事情を知っているミーナがため息をついた。
「アルさん、どうしますか?」
「どうするもこうするも……頑張るしか無いだろ」
だが幸いにも、皆冷静であった。
現実味が無いので、それもあるのかもしれない。
「じゃ、じゃあ今日のパーティーの本当の目的は……」
アルカが正直に言う。
「正直に言う。さっきのケンヤさんの話の通り、この世界は明日滅ぶかもしれない。けど、もし滅ばないとしても、極とクローはもうこのゲームにアクセスすることはできない。だからお別れ会として開いた」
皆にはバレンタインデー前夜パーティーということにしておいた。
だが、こうして今回のパーティーの本当の目的を伝えた。




