294.最強になってみた!
次の日、月曜日だというのにアルカはゲームへログインしていた。
世界が終わってしまうかもしれないので、思い切って辞めてみたようだ。
ノストラダムスの大予言が世に広まった際は、仕事を辞めた人もいたようだが、そんな感じかもしれない。
辞表を突き付けた、のではなく、流行りの退職代行を使用しての退職だ。
世界の命運が掛かった戦いをするというのに、今更辞める事を伝えるのに恐怖していたらしい。
「最高の朝だな」
アルカはマイホームエリアでコーヒーを堪能している。
普段であれば仕事をしているのだが、今日はこうしてゆっくりしていられる。
「アルカ殿ー!」
「おっ! 来たな!」
銀髪ポニーテールの少女、極がマイホームエリアに出現した。
結局、極は学校を休む選択をしたようだ。
仮病を使ったらしい。
「悪いな、勉強とかで忙しいっていうのに」
「大丈夫でござる! 拙者が休んでいる間の勉強は、クロー殿がノートをしっかり取ると言ってくれたでござる!」
「なら良かった!」
2人は椅子に座りしばらくゆっくりすると、戦闘用のコートへと歩いていく。
アルカのマイホームエリアに設置されているので、徒歩数分である。
「じゃあ、練習相手として頼むぜ! 本気で来い!」
アルカと極は構える。
これでお互い良い練習になれば良いのだが。
「先手必勝でござる!」
極がジャンプして斬りかかる。
そこでアルカがスキルを発動させる。
「【鉄壁】!」
【鉄壁】、アルカが解放したユニークスキルの内の1つだ。
MPを半分支払い、防御・特殊防御のステータスを5分間カンストさせるスキルだ。
「ぜ、全然効いてないでござる!?」
「まだこんなもんじゃないぜ! 【スキルリターン】!」
そして解放した2つ目のユニークスキルを発動させる。
「さっきの【鉄壁】は防御と特殊防御を5分間カンストさせる効果がある! けど、MPを半分支払う必要があった。けどな、この【スキルリターン】があれば使い放題だ!」
アルカのMPが全回復した。
「【スキルリターン】の効果! 自身のMPを全て回復させる! 更にクールタイムが存在するスキルの場合、そのクールタイムを無しにするぜ!」
「バランスおかしくないでござるか!?」
ちなみにMP0で使用できる。
正に糞スキルだ。
極はアルカに次々と攻撃を仕掛けるが、【鉄壁】の効果で1~2ダメージしか与えられない。
「相変わらず、ゲーム内とはいえ、凄い身体能力だな」
アルカは感心した。
極のプレイングスキルはかなりのものだと。
「だが! 残念だが、この俺を倒すには程遠い! さぁ! 終わらせようか!」
アルカは邪悪な笑みを浮かべる。
「スキル発動……【シンギュラリティ】!!」
これがアルカが解放した最後のユニークスキル。
アルカのアバターはケンヤが1から作ったのだが、いくら何でもやり過ぎな性能を秘めていた。
アルカを中心に電脳世界的なフィールドが広がっていき、フィールドを書き換えてしまう。
「これは一体!?」
「教えてやろう、【シンギュラリティ】の恐ろしい効果をな!」
スキル【シンギュラリティ】の効果。
フィールドを書き換え、書き換わったフィールドにいるプレイヤーは、スキルを発動できず、全ステータスが1になる。
使用すれば、全MPが消費され、1000時間はこのスキルが使用不可になってしまう弱点も存在する。
だが、【スキルリターン】の効果により、そんな弱点があった所でどうにもならない。
「そんなのありでござる!?」
「大ありだぜ! 【爆炎】!」
【スキルリターン】でMPを回復させると、【爆炎】を使用し、口から火球を発射させる。
極は避けようとしたが、素早さが1となった極のアバターでは避けるのが困難であった。
火球は極にぶつかり、爆発した。
HPも1となっているので、極は戦闘不能となった。
フィールドも元に戻る。
「よっしゃあ! 勝ったぜ!」
アルカは嬉しそうに飛び跳ねて喜ぶ。
非常に笑顔だ。
「見たか! これが俺の実力だ! はぁ……これじゃあ、負けようと思っても負けられねぇなぁ! どーしよー!? どーしよー!? なぁ! どうするよこれ!! なぁ!?」
極が起き上がり、言う。
「ま、参ったでござる」
「ははっ! 強すぎてごめん!」
確かに今回のような非常事態であれば心強いのだが、普通にプレイしていてこれを取得していたら、バランス崩壊も良い所だ。
「もうっ! ……色々とおかしいでござるよ!」
「おかしい? 弱すぎるって意味でか?」
「そんなドヤ顔で言われても、どう突っ込んでいいか分からないでござるよ! というか、さっき自分で強すぎとか言ってたでござるよね!?」
「忘れちまったぜ、そんな昔のことはなぁ!!」
もう負ける気がしない。
アルカはそう思っていた。
「ふふっ!」
自信満々のアルカを見て、極が笑みをこぼした。
「どうした?」
「良かったでござる。アルカ殿が元気になってくれて」
「何言ってるんだ? 俺はいつでも元気だぜ?」
「そうでござるな」
アルカのボケか素で言っているのか分からないような言葉に、極は優しく笑い返したのであった。




