293.相方
助言を貰い、ケンヤと別れようとした所、銀髪ポニーテールのプレイヤーがこちらへ向かって走って来た。
アルカのクラン【聖なる漆黒】のメンバー、極である。
そんな極にアルカは言う。
「話しはケンヤさんから聞いたよ。この世界のこと、そして極のいる世界のことも」
極は気まずそうな表情をし、目線をアルカと合わせようとしない。
「ご、ごめんなさい」
極は頭を下げる。
「この前、アルカさんに嘘をついてしまいました」
数日後に世界が滅亡する。
それについて極は嘘をついた。
「気にするな。それに、俺が現実逃避したいのを知ってて、嘘をついてくれたんだろ?」
そう、極は以前アルカに言われていた。
知らない方が幸せな場合は、真実を言わないでくれと。
だから極にも悪気は無かった。
「そう申し訳無さそうにするなって。もう俺は絶望したりしない」
アルカには目標があった。
右拳を天にかかげ、叫ぶ。
「俺はこれからも辛いことから逃げ続ける人生を送るんだ! その逃げ道を塞ぐようなマネは……絶対にさせない!! 世界を滅亡何てさせない!!」
アルカは極を見る。
「だから、俺はもう大丈夫だ!」
アルカは拳をおろし、極にサムズアップを向ける。
「アルカさん……」
「おっと、湿っぽいのはここまでだぜ! いつもの口調で頼む、その方が安心するからな」
「アルカ殿……了解でござる!」
そんな2人のやり取りを見て、ケンヤが拍手をする。
「素晴らしい! うん、素晴らしいね! アルカさんの謎の宣言は正直首を傾げちゃうけど、個性があっていいと思うよ」
「それで」とケンヤは極の方を見る。
「ゴミ共との対戦の約束はどうなったのかな?」
「何とか約束はしてきたでござるよ!」
「おお! やるね!」
立ち話もなんなので、アルカのマイホームエリアへと移動する。
他のプレイヤーに聞かれたくないというのもある。
「詳しく聞かせてくれないかな」
極は向こうからルールの指定があったことを話す。
ルールは2vs2で、ゲーム内の時間を加速させて行うと。
「2vs2だって!? しかも加速!? あのゴミ共が! これじゃ時間稼ぎにならないじゃないか!」
「ご、ごめんなさいでござる……」
「別に君に怒ってるわけじゃない。さて、どうしたものかな」
ケンヤは腕を組み、考えた。
そんな中、アルカが案を口にする。
「どうにかしてゲーム内の時間を加速しないようにしたらどうだ?」
「無理だよ、前も言ったでしょ? 今の僕には管理者としての力はほとんど残されてないってね。そもそも、GWOは今運営がどうにかできる状態じゃない。ゴミ共にロックされちゃってるからね」
今のケンヤや運営ではどうにもならないらしい。
「だったらどうすれば?」
「文字通り神頼みしかないね、いや、女神頼みか。【世界確立法】に早い所通して貰うしか無いね」
いくら時間を加速させようとも、完全に時間が停止する訳ではない。
ということで、可能な限り時間稼ぎをするという方向で落ち着いた。
「とりあえず、次の問題だね」
「次の問題?」
ケンヤの言う次の問題とは、アルカと誰を試合に出すかという点であった。
今からアルカ程強いアバターは用意できない、ケンヤの管理者としての力が没収されてる今、現時点でなるべく強いプレイヤーを選出するしかない。
「ケンヤさんは?」
「このアバターは観光用だから、ステータスが弱くてね。とてもじゃないけど戦えないよ」
「そっか……」
ケンヤが駄目となると、他に候補となりそうなプレイヤーは誰であろうか?
アルカがそう考えていると、極が手を挙げる。
「拙者じゃ駄目でござろうか?」
「極さんが?」
「正直、拙者はアルカ殿との付き合いが長いでござるから、連携とかも取りやすいと思うでござる」
「ああ、確かにそうだね」
ケンヤは適当に答えた。
アルカのアバターは最強だ、であれば、相方は最悪動く的にでもなってくれれば良い。
「随分とあっさりでござるな……」
「だって、アルカさんのアバターは最強だからね。よく考えたら相方は誰でも良かったよ」
「どうして、そこまでアルカ殿のアバターを信じてるのでござる?」
「だってあのアバター、作ったの僕だもん。1から全部作った僕のオリジナルアバターだよ」
「ランダム生成じゃなかったでござるか!?」
「うん。アンフェアだよね、どうでもいいけど」
その後、解散ということになった。
ケンヤは一足先にアルカのマイホームエリアから退出していった。
もうできることは全部やった、とのことであった。
「極、学校は行けよ」
現在は6日だ、14日までに時間がある。
学校や会社といったものも、当然の如くある。
「修行しないと駄目でござるよ!」
「いや、本業を疎かにはして欲しくない。将来の目標が極にはあるだろう?」
「そうでござるが……」
ションボリしている極にアルカは言う。
「けど、どうしてもって言うなら、休んでもいいと思うぜ!」
「え?」
極はポカンとした表情でアルカを見る。
「俺も仕事辞めるからな」
そう、アルカは仕事を辞めるつもりだ。
下手したら世界が消えるのだ、最後まで働くつもりもない。
だが、それ以上に目標ができた。
「俺は楽に生きたいと思うようになったんだ」
「お金はどうするのでござるか?」
「貯金している分があるのと、別に無職を続ける訳じゃない、ケンヤさんのコネを使って楽な仕事する予定だ」
実は以前ケンヤに相談したことがあった。
そうしたら、秒でOKされた。
内容はケンヤの遊び相手である。
「それでいいでござるか?」
「ああ、無能な俺にピッタリだと思う。少なくとも社会にいるよりは居心地がいい。だから、本当に休みたいなら、極も休んでもいいと思う」




