282.ドラゴンアバターになった理由
「どうぞ、ミルクレープです!」
「おお! 美味しそうだ! いただきます!」
一足先に【砂漠の喫茶】に戻っていたアルカは、ミルクレープを注文。
ミル以外店員がいなく、現在客もいないので貸し切り状態である。
「それにしても、良かったんですか?」
「なにがだ?」
「皆さん、まだ帰って来てませんよ? 大事な話をされるのではなかったのですか?」
ミルがそう言うと、アルカはフォークを置き、ミルクレープをじっと見つめる。
「別に、きっと大した話じゃない。それにきっと俺が聞いてもなにも変わらない。だったらここでこうやってミルちゃんと話をしていた方がずっと楽しい」
ガールズワールドオンラインをはじめてから色々なことがあった。
現実とは思えないような出会いを経験した。
だからなんとなく分かった。
きっと良くないことが起こる。
それも、とてつもなく良くないことだ。
(だったら、こうやって現実を忘れるのが一番いいよな。俺は普通の、いや、普通以下の人間なんだからな)
アルカは、今日ケンヤと砂漠の喫茶に来る前に話したことを思い出す。
~回想~
『え? どうしてアルカさんだけ女の子アバターじゃないのかって?』
『ああ。なんでかなって』
GWOのアバターは、女の子であった別世界の自分自身のデータが、そのままアバターとなる。
であれば、自分自身が雌の龍であった世界があって、そこから引っ張られたのかもしれない。
アルカはそう考えていた。
だがそれはあくまで憶測であったので、こうして実際に開発者に聞いてみた。
『なんでだと思う?』
『えーと、俺が雌の龍だった世界があって、そこの俺のデータが引っ張られて来たとか?』
ケンヤがニコリと笑う。
『残念、外れだ』
『え!? 違うの!?』
では一体、なぜ、アルカだけドラゴンアバターとなってしまったのだろうか?
『理由を、理由を聞かせてくれ!』
『そんなに知りたいのか。いいだろう! 教えてあげよう!』
(つ、ついに! 一体どんな理由なんだ……!?)
アルカは得意なことがなにもなかったが、このゲームで唯一無二の存在となったことで少し自信を持った。
自分はこのゲームの中では特別な存在なのだと。
(俺は別な世界では……魔王でもやってたのか? それとも……それよりもっと……もっと特別ななにかか!?)
アルカはワクワクが抑えきれなかった。
自分の本当の使命、そんなものがあるような気がした。
気がした。
だが、それはケンヤの答えによって打ち砕かれる。
『僕が作ったからだよ』
『へ?』
『あれ? 聴こえなかったのかな? 僕が作ったからだよ』
ケンヤはニヤニヤ笑う。
ケンヤにはアルカの考えていることが分かるのだ。
『作った……? だって、このゲームはランダムでアバターが生成されるんだろ?』
確かに、別世界の自分のデータを取って来るのだから、完全ランダムって訳じゃないが、それでもランダムには違いない。
『なのに、作った……? 一体どういうことなんだ!?』
『僕の気まぐれだよ』
ケンヤはある日ふと思った。
皆が女の子になる中、1人だけモンスターになったら面白いのではないのかと。
だから作ったのだ。
強力なアバターを、他のプレイヤーを容易に蹴散らせるだけのポテンシャルを秘めたモンスターを。
『けど、なんで俺を選んだんだ? 別に他の人でも良かっただろ』
『たまたまだよ。次にこのゲームをはじめるプレイヤーのアバターをこれにしようって思った時に、君が始めた。ただそれだけだよ。でも、君は特別だよ。このゲームで僕が1から作ったアバターは、君のそれと僕自身しかないからね』
『そうか……』
『随分とがっかりしてるね』
『いや、なんか俺だけ特別な使命がある気がしたんだけど、気のせいだったみたいだ』
だが、このゲーム内で唯一のドラゴンアバターという事実は消えない。
特別ということには変わりがない。
『特別な使命ね。実はあったんだよね』
ケンヤはこのアバターを作った時に考えた。
ゲーム内で暴れまくって無双する、そんなラスボス的存在になって欲しいと。
『けど、君はそれをしなかった』
『俺ゲーム下手だからな』
『いや、下手でも無双はできたはずだ』
「まぁな。最近気が付いた」
アルカは先日のミサキとの戦いの際に気が付いた。
相手に突っ込んで攻撃を浴びせまくれば勝負が終わるということに。
『あの時の僕的には、もうちょっと早めに気が付いて暴れて欲しかった。まぁ、今は別にどうでもいいけどね』
『それで一体、ケンヤさんになんの得があるんだ? 一体どう目的で……?』
『目的か……プレイヤーの皆に、このゲームを長く続けて貰う為だよ』
戦闘を目的にこのゲームを始めるプレイヤーは当然強い敵を求める。
そこで理不尽過ぎる強さを持ったラスボス的プレイヤーを用意することで、アルカを倒すことを目標とし、ゲームを長く続けて貰う。
それこそがケンヤの目的、アルカへの使命であったのだ。
『倒せない敵ってのは、どうしても倒したくなるからね。それがゲーマーってものさ』
『倒せないって程じゃないと思うけどな。俺結構ピンチになることあったし』
『だろうね。君の行動は色々と誤算だったから、正直流石の僕も参ったよ』
『誤算? 俺なんか凄いことしたのか?』
『いや、しなかったのが誤算なんだ』
『どういうことだ?』
『本来、1人だけそんな特殊なアバターを入手したのなら、色々と検証とかしたり、変なプレイをしたりすると思ってたんだ。けど、君はそれをしなかった。そのせいで君はラスボスになり損ねた』
『なり損ねた?』
『うん。今の君は僕の想定の半分の力くらいしか出せていない』
『そうなのか!?』
今のままでもアルカはかなりの強さなのだが、ケンヤはまだ先があるという。
『けど、それでいいのかもしれない』
ケンヤは「ふっ」と笑った。
『それでいいって、いいのか? ケンヤさんが俺に与えた使命なんだろ?』
『確かに最初はそうだったけど、ゲームってのは人に遊び方を強要するものじゃないからね。君がそうしないって選択肢を取ったのなら、それでいいんじゃないのかな?』
『なるほど! あ、でも、強くはなりたいな。どうやったらこのアバターの真の力を発揮できる?』
『それは教えられないな。自分で色々やってみるといいよ』
ケンヤは少し嬉しそうに笑うのであった。
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